『桃色行脚』の裏テーマとしてひっそりと取り組み続けていたら、気付けばいつの間にか主題のひとつとなっていた、各地の球場のちょっと変わった席種巡り。
我々席種マニアにはありがたいことだが、毎年のように各地の球場で生まれる新席種。そのうちのひとつ、今春誕生したてほやほやの未踏の席種にトライしてきた、火曜日の臨時休場日の話をさせて頂く。
新席種の香りに誘われて、やって来たのはこの球場。
目下2017年のオフからスタートした足掛け4年にわたる大改修工事の真っ只中で、来るたびに眺めが変わっている築41年の老舗球場、横浜スタジアムである。
試合はベイスターズVSタイガースの、13時プレイボールのオープン戦。
今回選んだ新席種とは、その大改修工事によって誕生したこちらの新スタンド。
一塁側内野からライトスタンドをまたぐ格好で、従来のスタンドの後方に新設された『ウイング席(ライト)』である。収容人員数は3500名とのこと。
上掲の写真では、どんな場所なのかちとわかりにくいかと思うので、真正面の三塁側内野から位置を確認してみる。
一塁内野後方とライトスタンド後方の照明塔の間にそびえ立つのが、その『ウイング席』である。
ついでにビフォーアフターも見て頂こう。ちょっと角度は異なるが、以下は約9か月前の2018年6月時点の眺め。
ライトスタンド後方の景色が劇的に変わっていることが、一目でお分かり頂けるだろう。
せっかくなので、完成までの足跡をほかの角度からもご覧頂こう。
定点観測ポイントは、ライト外野の入場ゲートである8ゲート付近。
こちらは着工直後、2017年11月の景色。この時点ではまだ囲いが立っただけであった。それが…
翌2018年6月になると、景色はバリバリの工事現場に。そしてこの3月、秘密のベールを脱ぎ去った姿がこちら。
建造過程も完成品も、2014年に完成した楽天Koboスタジアム宮城(当時)の『バイバースタンド』を彷彿とさせるが、工期がはるかにかかっている分、こっちの『ウイング席』の方が立派に見える。
成長記録を確認したところで、いよいよスタンド内部の話に移りたいと思う。
入場ゲートは上掲の写真の噴水の右側に写っている階段で、それを登りきったところになかなか広い第1のコンコースがあり、ここで手荷物検査とチケットチェックが行われる。喫煙所もこの最初のコンコース部分にあり、これより上には一切ない。
『ウイング席』登頂の本番はここから。一気に高低差が生まれる階段をえっちらおっちら上ると、第2層のコンコースに到着。ここは『ウイング席』エリアのライフライン、飲食ブースがあるゾーンである。
内野寄りには崎陽軒とキリンビールが運営する『ハマスタシウマイBAR』。
反対側の外野寄りには、『青星寮カレー』や『ベイスターズラガー』などの球団オリジナル飲食を提供する店舗が集まった『BAYSIDE ALLEY』が。
この2か所があるおかげで、わざわざ下界に舞い戻らずとも飲食物が、しかも結構な選択肢の中から調達できるのである。これは非常にありがたい。
この第2層のコンコースは、飲食売店のほかにトイレがあるエリアなのだが、そのトイレが凄かった。
DeNAになってからの改修で全体的に綺麗になり、数も増えたが、やはり築40年超の野球場だけあって、「狭さ」はどうしようもなかったハマスタのトイレ。
それがこの新スタンドでは、頑張ればブルペンが作れそうなほど広く、当たり前だが新築でピカピカであった。
最新の設備ゆえ、今の時代に合わせたこんなスペースも。
男性用トイレの中にも、しっかりとしたおむつ替えスペースが用意されていた。
入れるものと出すものでお世話になる第2層のコンコースから、さらに階段を上ってたどり着く第3層のコンコース。
エッシャーのだまし絵の中に迷い込んだかと思うくらいの階段の無間地獄が終わって、眼前に広がるこの第3層のコンコースが、ようやくたどり着いたスタンドへの入口。
このエリアにあるのは飲料の自動販売機とベイスターズグッズを販売する簡素なワゴンのみで、食料の類はない。
ここまでの道のりを語るに、「すごく高い」「階段しんどい」などの主観的で貧弱なボキャブラリーでは実際どの程度の高さ、しんどさなのか全く伝わらないかと思うので、数えてきた。ここ第3層のコンコースまでの階段の段数を。
ブツブツ数を数えながら階段を上る桃色装束の野郎はさぞや怪しかっただろうが、そんな周囲の白い目にもめげず一段ずつ数えてみた結果、地上からここ第3層のコンコースまでの所要階段段数は、125段ということが判明。ビルで言えば階段20段がおよそ1階分とされているので、地上6階相当ということになるわけだ。
ここにたどり着くころにはすっかり息が上がっているのは、運動不足などではなくきっと高高度で空気が薄いからに違いない。
「えー…、ビルの6階まで階段上り下りするなんて無理!そんなスタンド行かない!」などと思ったそこのあなたに朗報が。
この『ウイング席』には2基のエレベーターが備えられており、125段のうちの85段分をひとっ飛びで運んでくれるのである。
もちろん浮かれて乗り込んで、文明の利器の有難味をしみじみと実感したのは言うまでもない。
階段やらコンコースやらの話で既に長くなったが、ようやく客席の話である。
こちらは内野寄りの一番端の最上段から見た『ウイング席』の全景。
こちらは反対側、外野寄りの一番端から内野方向を見た時の眺め。
ご覧の通り、狭い敷地に席を多数つくるために勾配がきつくなっている元々のハマスタのスタンド同様、ここも結構な急勾配となっている。
ただ、『ライトウイング席』内の階段には通路中央に手すりが設置されているので、従来の内野スタンド上段の階段などに比べると、恐怖感がかなり軽減されている。ただ、売り子さんは「このスタンドは通路が狭くて大変なんですよね…」とこぼしていたが。
こちらはスタンド最上段にある、『ウイング立ち見』エリア。
広々としたスペースが確保されており、アクリル板の向こうの球場外に目をやると、足元には横浜公園や中華街、遠くには山下公園まで見渡せる。
ちなみに第3層のコンコースからこの『ウイング立ち見』エリアまでは、階段で54段。つまり地上からは179段。
道を隔てて隣に建つホテルと見比べてみた感じでは、8~9階相当という見立てだったので、ほぼぴったりの計算となる。普段なかなか自分の足で上る高さではない。
『ウイング席』の最前列まで下りてみる。
最前列の手すりの向こう、写真右下に見えるのが、元々のライトスタンドと一塁内野スタンドの最上段の立ち見エリア。
外野寄りの一番端にライトスタンドへとつながる階段があったが、外野と『ウイング席』は完全別席種扱いなので、一般客は行き来出来ないよう封鎖されていた。
『ウイング席』の座席はこのようになっている。
やや小ぶりながらも背もたれが付いている、固定式のシート。カップホルダーは前の座席の背もたれについている。
決してパーソナルスペースが広いわけではないが、前の座席とはしっかり高低差がとられているので視界は良好であり、圧迫感はさほど感じない。
その座席からの眺めはこんな感じ。
位置が高いため、もちろんフィールドははるか遠くだが、その分球場全体を俯瞰することが出来、斜め前方にベイスターズ応援席があるので、応援のライブ感も楽しめる。
この試合では9回に山崎康晃投手が登板したのだが、「ヤスアキジャンプ」に沸くスタンド全体を真上から見下ろす、といういまだかつて見たことがない光景を楽しめたのだった。
公式戦でのチケット価格は、変動制で1500円~2700円(一般価格)。ライト外野指定よりも300円安い値付けとなっている。
外野の応援の雰囲気を味わいつつ、のんびり座って観戦したいという方には良さそうな席なのではなかろうか。
この日はオープン戦価格で1300円で、なおかつかなり空いていたこともあって、個人的には非常に快適であった。これが超満員だったりしたら、評価は変わって来るかと思うが…。
せっかくだから左右比較をしたいので、来春竣工予定のレフト側の『ウイング席』も、ぜひ足を運んでみたいと思う。
そしていつかここにも…。
バックネット裏に今春誕生したバルコニー付き個室観覧席、『NISSAN STAR SUITES』。
超ラグジュアリー席のこちらは、最安でも8名30万円から…。とても洒落や冗談で足を踏み入れられるところではないし、そもそもドレスコードに引っかかって入場を拒否されかねないが、宝くじで10億円当たった暁には、ぜひシーズンシートオーナーになってやりたいと思う。
新席種『ウイング席』以外の新施設といえば、今春グッズショップが大リニューアルを遂げる。
バックネット裏の照明塔の下に新設された独立店舗は、広々として内装もお洒落で、まるでどこかのセレクトショップのようであった。
このように、色々と新しくなった施設などを細かく検分して回った、今季初のハマスタ観戦。
もちろん試合も最初から最後まで見届けたが…
2日も前のことだし、『ウイング席』の話でしこたま長くなったので、試合内容についてはばっさり割愛させて頂く。
通い慣れた球場でも、未踏の新席種はいつでもどこでもワクワクさせられるものである。
今季もまだ見ぬ席種を求めて、あちこちの球場をさまよいたいと思う。
特に面白席種はないが、引き続き皆様の当スタジアムへのご来場を心よりお待ちしております。