さて、雑誌「ニュートン」の今月号の特集「もつれる量子」。

個人的には、とても、関心のあるテーマです。

 

 

さて、「量子」とは、何かと言えば、例えば、素粒子のような、とても、小さな物質のことを言います。

この「量子」は、常識では、とても考えられない、不思議な現象を起します。

 

例えば、量子の一つである「電子」。

この「電子」は、「波」でもあり「粒」でもあります。

基本的には、誰も観測をしていない時には「波」のような性質を見せ、誰かが観測をした瞬間、その「波」は消えて、一つの「粒」として確認されます。

全ての量子は、このような不思議な振る舞いを見せます。

 

相対性理論で有名な「アインシュタイン」は、「光」に関する研究の中で、当時、「波」だと考えられていた「光」が、「波」であるのと同時に、「粒」でもあるということを証明しました。

これを「光量子仮説」と言います。

アインシュタインは、相対性理論ではなく、この「光量子仮説」で、ノーベル物理学賞を受賞しました。

つまり、アインシュタインは、「量子論」の生みの親の一人でもあるということ。

 

しかし、アインシュタインは、その後、この「量子論」の研究の主流からは、外れて行くことになります。

それは、なぜかと言えば、この「量子」の振る舞いが、アインシュタインの物理学的信条とは、かけ離れていたから、と、言うことになるのでしょう。

 

その一つが、今回のテーマである「量子もつれ」と呼ばれる現象です。

 

「光」は、「波」であるのと同時に「粒」でもある。この「光の粒」のことを「光子」と呼びます。この「光子」もまた、「量子」です。

 

この「光子」は、縦向きの波、つまり「縦波」と、横向きの波、つまり「横波」の二つの性質を、「同時」に持っています。

そして、誰かが、「光子」を観測した瞬間に、その「光子」が「縦波」を持っているのか、「横波」を持っているのかが、決まります。

一般常識では、考えられないことですが、「元々、縦波、または、横波だったものが、観測によって分かった」というのではなく、「縦波、横波、両方の性質を同時に持っている光子が、誰かが観測をした瞬間に、縦波なのか、横波なのか、どちらか一つの性質に決まる」ということになります。

 

さて、この、一つの「光子」を、ある装置を通して、二つの「光子」に分離させます。

すると、この二つの「光子」は、「量子もつれ」の状態となります。

 

この二つの「光子」の「量子もつれ」とは、どのようなものか。

 

「光子」は、それを観測した瞬間に「縦波」を持つのか、「横波」を持つのかが決まります。

そして、この「量子もつれ」の状態にある「光子」は、一つの光子を観測して「縦波」と決定をした瞬間、もう一方の「光子」は、自動的に「横波」と決定します。

逆もまた、しかり。

 

例えば、「量子もつれ」の状態にある「光子」の一つは、地球にあり、もう一が、火星にあるとします。

地球の光子を観測し、それが「縦波」を持つと決まった瞬間に、火星にある光子は「横波」を持つと決まります。

 

なぜ、地球と火星という、とんでもない遠距離にある「光子」の情報が、一瞬にして、相手に伝わるのか。

そのようなことは、本当に、起こりえるのか。

 

この不思議な現象に、異を唱えたのが、アインシュタインです。

なぜなら、相対性理論によれば「情報」もまた、「光の速さ」を越えて伝わることは出来ないから。

 

量子論によれば、この「光子」が「縦波」なのか、「横波」なのかは、「偶然」により「確率的」に決まります。

これは、「コペンハーゲン解釈」と呼ばれるもの。

しかし、アインシュタインは、「光子」が、「縦波」なのか「横波」なのかは、最初から決まっているはずだと考えました。

この性質を「実在性」と呼びます。

アインシュタインが、「コペンハーゲン解釈」につて「神はサイコロを振らない」という言葉で批判をしたのは、有名な話。

つまり、「物理学が、偶然によって決まるなど、あり得ない」という信念が、アインシュタインにはあったのでしょう。

 

1935年、アインシュタインは、他の二人の物理学者と連名で論文を発表し、この「量子もつれ」に疑問を呈したそうです。

この論文は「局所実在論」によって、書かれているということ。

つまり「局所性」(ある物理現象が、瞬時に、遠方の行為や実験結果に影響を及ぼすことはない)と、「実在性」(観測前から状態は決まっている)という考え方。

 

さて、この「量子もつれ」を「局所実在論」によって考える時、想定されるのが「かくれた変数」と呼ばれるもの。

つまり、この「かくれた変数」が、まだ見つかっていないために、「量子」の振る舞いが、観測されるまで決まっていないと思われているのだ、と、言う考えです。

 

しかし、この「コペンハーゲン解釈」と「局所実在論」のどちらが正しいのかを検証するのは、非常に、困難です。

なぜなら、量子の、観測される前の状態を確認するということが不可能なため。

 

そして、1964年、「ジョン・ベル」というイギリスの物理学者が、この「局所実在論」が正しいものかどうかを検証する数式を論文の中で発表します。

これは「ベルの不等式」と呼ばれるもの。

この「ベルの不等式」は、もつれた状態にある量子の相関の強さを調べるもの。

|S|≦2

これが、「ベルの不等式」です。

 

もつれた状態にある二つの「光子」を、それぞれ、同時に、特殊なフィルターを通過させ、偏向の向き(縦波か、横波か)を調べ、そのフィルターの通り方によって「+1」「ー1」とカウントをして行く。

すると、「局所実在論」が、正しく、最初から、波の向きが光子によって決定をしている場合、「S」の絶対値は、2以下になるそうです。

そして、「コペンハーゲン解釈」が正しく、観測されるまで、波の向きが決まって居ない場合は、「S」の絶対値は、2を越えるそう。

 

1969年には、この「ベルの不等式」を発展させた「CHSH不等式」が考案され、1972年に、その検証実験の結果が発表されることになる。

その後、更に、実験方法を改良し、精度を上げた実証実験も、何度も行われ、「局所実在論」は否定され、確かに、「光子」の偏向の向き(波の向き)は、観測されるまで決まっておらず、「量子もつれ」は、確かに、存在するということが確認をされることになる。

この実験を行った、「ジョン・クラウザー」「アラン・アスペ」「アントン・ツァイリンガー」の三人の物理学者は、2022年、ノーベル物理学賞を受賞しています。

 

当時、このニュースを見て「量子もつれ」の証明でノーベル物理学賞を受賞をしたということは知っていたのですが、具体的な内容を知るまでには至らなかった。

今回、この記事を読んで、なるほど、と、思いました。

 

しかし、「なぜ、『量子もつれ』が起きるのか」「なぜ、情報が、瞬時に、遠隔地にでも伝わるのか」という根本的な部分は、不明のまま。

「量子」は、不思議が多すぎる。

だから、面白い。