ミヤマクワガタの話 | kyupinの日記 気が向けば更新

ミヤマクワガタの話

かつて、自分は無為な殺生はしないと記載したことがある。これは子供のころからいつも動物を飼っていた(文鳥、カナリヤ、十姉妹など)こともあるが、小学生の低学年のころから毎夏、山に出かけて大量にカブトムシやクワガタを採ったことと関係している。

 

夏になると、まだほとんど成虫が現れない頃から一応、山に出かけていた。カブトムシやクワガタは概ねやってくる木は決まっていたが、他の子供たちとの競争が激しいため、自分しか知らない木を開拓しなくてはならない。知らない山に分け入るため、たまに滑落したり、蚊に喰われまくるが、当時はあまり気にならなかった。

 

最も早い時期にクワガタが採れたのは329日頃だった。記憶が曖昧だが、新学期の始まる直前だったように思うので、たぶん3月の終わりと思う。この頃はさすがにクワガタを探しに来る子などいないので、簡単に採ることができた。種類はヒラタクワガタだった。

 

実際にそうなのかは詳しくないが、カブトムシは越冬できない。つまり採集した年内に死ぬのである。ところがクワガタはそうではなく、冬眠のような仮死状態になり越年も可能である。山では木の穴のような場所に身を潜めて越冬するようである。

 

ある年、おがくずを入れた水槽の中のクワガタを真冬に出してみた。もう1匹もいないと思っていたが、実は1匹だけ残っていたのである。そのヒラタクワガタは最初は動かなかったのにストーブの前に置いていたら、急に動き出して歩き回り始めたことに驚愕した。何か月もエサをやっておらず死んでいると思っていたからである。今思えば、あの329日のクワガタは越年中だったのかもしれない。それは木の皮の間に挟まるように身を潜めていたのを見つけたからである。当時、僕はあまりにもカブトムシやクワガタを採り過ぎた。それは全校生徒で最高の数だったと確信する。

 

誰も知らない秘密の木が2本あり、そこはかなり深く山に入りなおかつ、急斜面を降りないと行き着けない場所にあった。その木にはいつも5匹から~10匹くらいクワガタがいた。毎回が大漁である。当時のもっとも格好良いクワガタはノコギリクワガタであり、それ以外は付録だが、一応、コクワガタとヒラタクワガタは採集する。カブトムシも一応採集するが、クワガタに比べカブトムシはそこまで良いとは思わなかった。それはたぶんデパートにも売っていたからだと思う。

 

ノコギリクワガタはおそらく幼虫期の栄養状態が関係すると思うが、うねりの大きい立派なノコギリクワガタと少し小型の直線的な顎を持つノコギリクワガタがいる。これらはスペクトラム的に小型~大型まで分布していたので同一種ではないかと思っていた。(実際にそうなのかは知らない)

 

ノコギリクワガタの大きいサイズの個体は、初めて見る人には相当に格好良い。実際、オオクワガタとかミヤマクワガタなどに比べても格好良いと思うが、ノコギリクワガタが安くみられるのは、希少性で差が出るのである。

 

ノコギリクワガタ、ヒラタクワガタ、コクワガタが木の高い場所にいた場合、木に蹴りを入れると一瞬、フリーズし全員が木から手足を離して落下するため、木の実を拾うように採集できた。ただし、落ちた瞬間に動きだして木の葉の下に隠れることも多く、急がないといけない。いつも「クワガタはなんてアホなんだ」と思っていたが、あれはあれで外敵から逃れる方法なのだろう。

 

ところがカブトムシはそうではなく、木の蹴りを入れようが揺さぶろうが動じず、しっかり木につかまり悠々と蜜を吸っていた。だからこの方法では採れないのである。この特性の差は大きい。

 

例の秘密の2本の木は根元部分に相当に茂みがあり、揺さぶって落下したとしても全て採ることは難しかった。一斉に落ちてくるクワガタが多すぎるからである。当時、謎だったのは、これほど全力でクワガタを採集していたのに、ミヤマクワガタが採れなかったことである。ひょっとしたら、この地方には生息していないのでは?と思っていた。自分の友人も1件も採集報告がないからである。

 

当時、オオクワガタを採集できたかどうかは自信がない。かなり大型のヒラタクワガタを採集したことがあり、ひょっとしたらオオクワガタだったかもしれない。

 

採集したクワガタ、カブトムシは大きな水槽をいくつか買ってきて、中におがくずを入れ、クワガタとカブトムシを分別して水槽に入れる。その理由は、喧嘩をしカブトムシの腹のやわらかい部分を負傷するからである。カブトムシはなかなか生命力があり、腹に穴が開いたくらいではすぐには死なない。これはクワガタも同様である。

 

クワガタ類は同じ水槽に入れていたが、夜に大変なことになっているらしく、朝になると1匹くらい頭だけになっていた。喧嘩し負けたクワガタが胴体と分離していたのである。これらの経験が将来、無為な殺生をしなくなった大きな原因の1つである。

 

結局、水槽に入れておくくらいでは、ほとんどのクワガタは越年までできない。感覚的に、どうやってもノコギリクワガタは越年できず、工夫すればヒラタクワガタとコクワガタは越年できるのではないかと思っていた。

 

当時、僕がやっていた昆虫採集は、採集する瞬間の喜びだけでやっていたような気が相当にする。まあ子供はそんなものだと思う。子供はしばしば残酷で、同じ虫かごにバッタとカマキリを一緒に入れたりする。

 

しかし、そのような経験を通して、小さな虫たちにも生命があることを学ぶのである。僕は当時、普通の子供の数倍あるいは数十倍の無為な殺生をしたことを深く反省し、今は無為な殺生はしないヒトになったのであった。

 

当時、あまり意味のない?昆虫採集をオヤジはとても批判していた。いつも止めるように言っていたが、採った虫を放したりまではしなかった。今はオヤジの言っていたことは良くわかるよ。今の僕ならたぶん同じことを言うと思うから。

 

時代が流れ、大学に入学した年の初夏、裏山にクワガタがいるように思ったので、独りで散策がてら採集に出かけた。一応、虫かごもそれ用に買ってきた。その地方にはひょっとしたら、あの伝説のミヤマクワガタがいるのでは?と思ったのが大きな動機である。

 

1時間ほどでなんとノコギリクワガタが3匹も採れたのである。僕は競争相手もなく、悠々と真昼に3匹も採集できたことに驚いた。ところが、採っても困るのは確かで、下宿の大家の子供がまだ小学生だったので虫かごごとやった。僕はやはりノコギリクワガタしか採れなかったことで、この地方にもミヤマクワガタはいないのか?と思った。

 

ところが驚愕すべきことが起った。街に出かけた時、路上のカブトムシ、クワガタムシ販売のおっさんの虫かごに、普通にミヤマクワガタが売られていたのである。そのオッサンにどこで採れたか問うと、どうも県内で採集されているようであった。「この地方にはミヤマクワガタがいるんだ」と思った。

 

これは自分なりの特別な異国情緒であった。確かに親元を離れ、大学に入ったという実感を持つ事件だったと思う。

 

なお、ミヤマクワガタは酷暑と乾燥に弱いため、地球温暖化のため絶滅しかねないクワガタらしい。そのようなこともあり指標昆虫に指定されている。