
ヌアクショットの宿で仲良くなった白人パッカーの何人かが、今日セネガル方面に向かうことになった。
俺も一緒に行くように誘われていて、ちと迷ったものの、やりたかったパソコン作業の半分ほどが片付いていたし、残りはダカールでの旅券再発行手続きの合間にでも仕上げられそうな気がしていたので、結局一緒に出発することにした。
モーリタニアからセネガルに入るには、ロッソという名の国境を通らなければならない。
特に問題なく通過している人が多いようだが、人によっては賄賂を請求されたりする、やや性質の悪い国境だ。
思うに、難易度としてはB級、中級者向けといった感じの国境だろう。
何事もなく通過できれば問題ないのだが、それはそれで少々味気ない気がする。
できれば中ボス級の敵が待ち構えてくれていると話も面白くなって、このブログのネタとしても使えるんだけどなぁ。
などと、ツレの白人たちには言わなかったが、内心密かにそんなことを考えていた。
今回俺がパーティーを組むことになった三人の白人パッカーは以下の面々である。
貧困国での援助活動をしながら100カ国以上の滞在経験を持つイギリス人のジョナサン(32歳)。
自称芸術家で、見るからに大人しそうな性格のフィンランド人アンディ(29歳)。
そして、俺とはもうすっかり仲良くなっていたアイルランド人大工のブランドン(42歳)だ。
この多国籍四人パーティーでロッソの国境を攻めるというわけだ。
みな験豊富な旅人だ。
中でも特にジョナサンはフランス語もペラペラで、ザイールやソマリアやアフガニスタンといった危険度の高い国々にも行っている。
自然と彼がリーダーのような役割をつとめることになった。
好んで前衛をつとめてくれるようなので、それなら俺がしゃしゃり出る幕もなかろう。
後衛としてたまに補助系呪文でも放ちながら、自分のHPは温存させてもらいましょうかね(笑)。
白人パッカーのお手並みを拝見するのも悪くない。
宿の近くでタクシーを捕まえ、中心地から6キロ南のロッソ行きの車が出る場所まで行く。
群がり寄る客引きたちをかわし、ロッソに行く車の運転手と話をつけ「ロッソまで荷物代込み一人1500ウギア」という地元人価格まで値切っていざ出発。
3時間後には国境の町ロッソに到着。
と、ここまでは極々順調に事が運んだ。
国境のセネガル川には橋は架かっておらず、対岸までは船で渡らなければならないらしい。
このところずっと砂漠地帯を旅していたせいか、水を湛える川なんて久々に見るような気がする。
モーリタニア側の税関は正午から午後3時までは閉まっており、俺らが着いた時にもまだ開いていなかったのだが、しばらくすると係官が出てきてパスポートを四人まとめて提出させられる。
ジョナサンが一人それに付き従って建物の中に入って行き、俺らは交代で荷物番をしながら、残りのウギアをセネガルの通貨であるセーファーに両替したりして過ごしていた。
3時になり国境が開き、ジョナサンが自分のパスポートだけ持って戻ってきた。
「一応、出国印は押してもらったんだが、出国税として一人1000セーファーが必要だ」とジョナサン。
他の二人は、しょうがないなぁといった顔をしていたが、俺はちょっと納得がいかない。
「払ったのかい?」
「ああ、俺の分はな。長いこと交渉して、ようやく四人で4000セーファーまで値切れたんだ。払わないとパスポートを返してくれないよ」
「ちょっと待てよ。俺の友人は何も払わずにここを越えているぜ。それにネットで調べてもみたけれど、モーリタニアの陸路出国で出国税がいるような話はなかったんだ。領収証もくれたのかい?」
「いや領収証はない」
「それなら賄賂じゃないか」
「払いたくなければ個別に交渉するしかないさ。1000セーファーなら2ドルもしない。大した額じゃないだろう。こんなうざったい連中がウヨウヨしている国境はできるだけ早く通過するに限る。とっとと川を渡ってサンルイ行きのバスを探そう」
気持ちは分からないでもないけれど、ちょっと焦りすぎなんじゃないか?
賄賂の金額が大したことなくても、そういうことが繰り返されると国境の役人どもも調子に乗るだろう。
後に続く他の旅行者たちのためにも、できるだけ払わずに済ました方が個人的にはいいと思う。
「払う必要ないって」という俺の忠告にもかかわらず、ブランドンとアンディは
「1000ぐらいならね」と、とっとと払って自分たちのパスポートを返してもらっていた。
さらに、税関の入口には謎のチケット売りのオヤジがいて、それもジョナサンが四人分まとめてさっさと購入してしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。それ、なんの券だかわかって買ってるのかい?」
「地元の連中だってみんな払っている。港の使用税か何かだろ。それにたったの50ウギアだぜ!?」
細かいことにグチグチいうヤツだといわんばかりに、イライラした口調で叫ぶジョナサン。
いやね、金額のことはどうでもいいんだけどさ、もうちょっと心にゆとりを持とうぜよ・・・。
想像していたよりもずっと楽しませてくれる国境じゃないか。
こいつはジョナサンに任せきってしまうのはちとつまらないかもしれない。
段々と、俺自身のやり方でクリアしてみたい気持ちになってきた。

税関の建物を抜け、国境係官の案内で川岸に出る。
俺のパスポートは依然その係官のオヤジの手に握られたままだ。
川には小さな木製の渡し舟が多数、それに車も乗せられる鉄製の大型渡し舟が一隻控えている。
係官のオヤジは俺たちを小船の方に連れて行き、一人の船頭のところに案内する。
「一人300ウギアだ」と、ご丁寧に船代まで係官が提示してくる。
ジョナサンたちはもう乗る気満々だ。
「マサも早く払ってパスポートを返してもらえよ。みんな揃わないと船に乗れないじゃないか」とジョナサンがせかす。
うーん、ここらが潮時かな・・・。
彼らの戦いぶりは見せてもらえたことだし、ここから先は俺なりのやり方で通させてもらうとしよう。
「ごめん。やっぱり俺は払う気になれないんだ。俺の事は俺自身でなんとかするから、悪いけどみんなは先に進んでくれ」
「あのオヤジの様子だと、そう簡単に返してもらえそうにないぜ」
「それならそれで、持久戦に持ち込むよ。俺はここで一泊二泊するはめになっても別にかまわんさ」
と、荷物を地面に置いて、どっかり腰をすえる俺。
他の三人はちょっと困ったような顔をしている。
「どうしても払いたくないのかい?」
「カネの問題じゃないんだ・・・。みんなはこんな場所はできるだけ早く抜けたいと思っているんだろうけれど、俺はね、国境越えはいつも楽しむことにしているんだよ。特にこの手のやっかいな国境は大好きでねぇ。うーん、わかってもらえるかな・・・。そうだ、コンピューターゲームに例えてみるとわかりやすいかもしれない。俺たちは今、モーリタニアの地域を終了して次のセネガルのステージに進もうとしているだろ?あのオヤジはその関門で待ち構える敵モンスターさ。ヤツを何とかしない限り先には進めない。賄賂で戦闘を避けるのも一つの手段かもしれないけれど、俺としてはもう少しこの戦いを楽しみたいのさ。上手くいけば経験値が入ってレベルも上がるかもしれないだろ?(笑)」
「ハハハ、そいつは面白い考え方だな」とブランドン。
「なるほどねぇ・・・」とジョナサンもうなずく。
そうこうしているうちに、オヤジは俺のパスポートを手にしたままどこかへ消えてしまった。
俺は小船ではなく大型渡し舟の方も気になっていたので、近くを通りがかったおっちゃんに聞いてみた。
すると、そっちはあと30分ほどで出るそうで、しかも先ほど買った港使用税らしきものがこの船のチケットだとのこと。
なぁんだ、それならわざわざ小船に乗る必要なんかないではないか。
他の三人もそれについてはあっさり同意して、みなで大型渡し舟で渡ることに。
んで、俺のパスポートの方はというと、船が出るまで粘っていたら、渋々顔で戻ってきたオヤジがあっさり返してくれた。
ま、そんなもんである。
彼らも払う気のないヤツをいつまでも相手にするほど暇ではないのだろう。
国境の川をこの船で越えている時に、サンルイの町に向かうという乗合いタクシーの運転手が寄ってきた。
例によってジョナサンが仕切って話をまとめ、一人1500セーファーでサンルイに行くことになった。
「これでセネガル側に着いたら、すぐにサンルイに向かえるぞ」とジョナサンたちは喜んでいたけれど、俺はまたなんとなく嫌な予感がしていた。
まだ国境越えも完全には終了していないというのに、そんなに焦らない方がいいんじゃないかなぁ・・・。
セネガル側に着くと、またもや係官にパスポートをまとめて持っていかれた。
ジョナサンと、さらに先ほどのタクシーの運転手が後に続く。
俺らはまたもや荷物番しながら出口で待機。
しばらく待っていたけれど、ジョナサンたちは30分経っても戻ってこない。
「また一悶着してるのかな」と心配になって見に行こうとした頃に、ようやく戻ってきた。
「ちょっともめたけれど、今度は何も払わずに入国印を押してもらえたぜ」
「そいつはよかった」と安心する三人。
「でも、その際にさっきの運転手がかなり手伝ってくれてね。その分の手数料として、サンルイ行きのタクシー代を一人1750セーファーじゃなきゃダメだと言っているんだ」とジョナサン。
「ま、タクシーなら探せば他にもあるだろう。バスだってあるはずだし。あの運転手にこだわる必要はないんじゃないかな」という俺の意見に他の三人も同意。
ところが、国境の先で待ち構えるタクシーはどれもみな値段が結構高め。
バスの方は午後5時まで出ないという。
先ほどの運転手はいつの間にかどこか消えてしまっている。
よくよく考えてみると、彼は運転手でもなんでもなく、単に外国人の国境越えを手伝って金だけ貰ってトンズラするセコイ類のヤツだったのかもしれない。
だいたい、セネガル側のタクシーの運転手がいちいち国境を越えてモーリタニア側まで客引きに出向くというのも妙な話だ。

日暮れ前にサンルイに着きたいというジョナサンは、またもや焦りを感じつつある様子で、先ほどの自称運転手を探してあちこち歩き続けていた。
そうこうしている間に、他のタクシーは全部出払ってしまい、結局はバスで行く選択肢しか残されていない状況に。
バスが出るまでの間、俺は地元のガキどもと写真を撮ったりしながら遊んで過ごしていた。
同じバスを待つ客の中にはオランダ人の若いカップルもいて、彼らの方は全く問題なく国境を越えてきたとのこと。
どうやら賄賂を求める役人はてっとりばやく稼ぐために、できるだけ大人数のグループを狙うらしい。
これからは面倒くさそうな国境はなるべく一人で越えることにしようっと・・・。
アフリカでは大抵そうだと思うけれど、バスは乗客が満員になるまで出ようとはせず、結局は7時頃になってようやく出発。
「5時に出るって言っていたのに・・・」
出発してからもジョナサンはぶちぶち文句を言っていた。
バスはジュッジ鳥類国立公園という、世界遺産にも登録されている場所の脇の道を通っているはずなのだが、残念ながらすでに暗くなっていたために何も見えず。
サンルイの町には夜10時過ぎに到着。
バスは本土の方に着いたのだが、この町の中心は橋を挟んで向こうのサンルイ島の方にある。
タクシーを使い、以前にこの町に来たことがあるアンディが薦める安宿に向かう。
そこの大部屋に泊まることにしてようやく落ち着くことができた。
四人ともかなりの空腹を感じていた。
揃って夜の町に繰り出し、バーでビールを注文。
近くのファーストフードからハンバーガーも仕入れてきて、みなで乾杯。
モーリタニアでは飲むことができなかったこともあり、久々の酒にみなほくほく顔だ。
「いやぁ、ようやく酒にありつけた」とブランドン。
「店が開いていてよかったよ。間に合わないんじゃないかと心配していた」とジョナサン。
・・・ひょっとして、こいつら酒が飲みたい一心で急いでいたのか?(笑)

酒には滅法弱い俺は、一瓶空けることもできずに早々に撤退。
他の三人はだいぶ遅くになって
「おいマサ、レズビアンバーがあったぜ」などと言いながら宿に戻ってきた。
どうやらはしごしながら、女の子がいそうなバーを探していたらしい。
「黒人のレズビアン?女しかいなかったのかい?」
「いや、白人のレズだ。男も四人ほどいたけれど・・・あれはきっとゲイだな(笑)」とブランドン。
「レズじゃ、お持ち帰りしてもどうしようもないしなー(笑)」とジョナサン。
「明日はちゃんとした女の子がいるバーを見つけてみせます」今日はずっと大人しかったアンディまでノリノリだ。
・・・好きだねぇ、みんな。
俺は酒場女はどうも苦手な性質なので遠慮しておくとしよう。
さてと。
今日の国境ではいろいろあったけれど、とにかく無事にセネガルに入国できたわけだ。
今回の旅で56カ国目の国、レベルも56まで上がったことにしておこう。
この先には今までよりもずっと手強い敵が待ち構えていそうな気がする。
モロッコの土産物屋の親父クラスの雑魚では少々物足りないと感じていたので、強敵キャラは望むところ、いつでもかかって来いである。
・・・とは言うもののレベルの割りに戦闘能力が貧弱なので、実際に襲ってくるような敵からは尻尾巻いて逃げるしかないんだけどねー(笑)