続・ダカール沈没記 | 旅人日記

続・ダカール沈没記

Dakar5-1 沈没に継ぐ沈没のダカール。
まさかさらに続編を書くことになろうとは思わなかった。
正直な話俺もびっくりだ。


明日こそは出発するぞと固く固く心に誓いながらも、まともな時間に起きられず、惰眠をむさぼっていたある日のこと。

ドンドンドンドンドン!!!!!

部屋のドアをノックする喧しい音で起こされた。
うるせぇなぁ、一体誰だよ?

ドアを開けるとそこにはガンビアにいるはずのメグミちゃんの姿が。

「マサさん、何でここにいるの???」
「それはこっちの台詞だよ。メグミちゃんこそ何で戻って来たんだ?」
「それが話すと長いんですが、色々ありまして」
「よく俺がここにいるって分かったね」
「さっきチェックインした時に従業員から『上の部屋にずっと泊まってる長髪の日本人がいる』って聞いたんですよ」
「なるほどね(苦笑)」

ダカールなんかで沈没しているのが気恥ずかしくて、このところ旅仲間たちとはほとんど連絡を取らずにいた。
メグミちゃんの方もガンビアのネット事情の悪さからあまりメールをすることがなく、最近はお互いの消息を知らないでいたのだ。
もう何度目の再会になるのか数えるのもばかばかしくなるほど付き合いの長い彼女だが、今回の様にお互いの居所を知らないまま偶然の形で再会するのは初めてである。

話を聞くと、バイクの重要な部品を途中で失くしてしまい、それをヨーロッパからDHLで送ってもらうようにしたものの、いつまで待っても届かず、もう諦めてバイクをヨーロッパに飛ばし自分もヨーロッパに飛ぶことにして、その費用のために大量のダラシ(ガンビアの通貨)を用意したものの、結局ガンビアからはバイクは危険品扱いで空輸することができず、途方に暮れて宿に戻ったところに部品が到着、銀行でダラシの再両替を試みるものの制限があってこれも受け付けてもらえず、ヨーロッパに船でバイクを送ることも考えたようだが、船では届くのがいつになるか全く分からない話なので、さすがにそれは待ちきれないだろうと判断・・・ということで、結局コンテナ一台を借り切って船で日本に送り返してしまうことにしたそうな。

「飛べない豚はただの豚。私からバイクがなくなったらもう旅を続けることはできない」

彼女の運の悪さはハンパじゃない。
中南米でも数々のアクシデントに巻き込まれていたのを知っている。
「逆転裁判の須々木マコ」並みに不幸の星の元に生まれてきたような子なのだ。
もう見事なまでに、やることなすこと全てが悪い方へ悪い方へと導かれてしまう彼女にとって、この結末はある意味最高の形での旅の終わり方なのかもしれない。

幸い彼女自身も旅そのものに少々疲れを感じていたことから、旅を終えることに対する未練はないようだ。
日本に帰ることを決め、バイクを日本に送る手続きを済ませたら、肩の荷が下りて気持ちがずっと楽になったと言う。
その後、飛行機でガンビアからセネガルに飛んで来て今に至るという訳だ。

「んじゃ、こっから日本に帰るんだ?」
「いえ、実はその前にブエノスに飛ぼうと思って」
「ぷっ、まさか日本旅館で最後の沈没?」
「マサさんなら分かるっしょ?」

確かに。
ブエノスに飛ぶことが何を意味するか、それ以上の説明は必要がないくらいよく分かる。
アルゼンチンの首都ブエノスアイレス、そこには日本旅館という世界最強の沈没宿があるのだ。
ハンパなく居心地のよい宿で、その強烈な重力から抜け出せずに、予定を大幅に上回って長居を続けてしまう旅行者が後を絶たない。
一度迷い込んだら最後、長居で済めばまだいいが、そこで旅が終わってしまう旅行者も少なくない。
何がどう居心地がよい宿なのかは説明を省くが、俺らがそれぞれブエノスを出てかれこれ半年以上が経つという今現在でも共通の友人の何人かがまだそこでちんたらしているらしい。
そのとんでもない事実から、どれほど居心地のよい宿か分かるであろう。
ちなみにそこでの俺の沈没期間は約4ヶ月、メグミちゃんは5ヶ月くらいだったっけか?

「日本に帰るまで一ヶ月くらいのんびりしていこうかなぁって」
「楽しいだろうねぇ、きっと。マツオカ君も最近舞い戻って来たようだし、カラファテのシマフジさんたちもそろそろ戻って来る頃なんじゃないかな?」
「マサさんもどうです?イグチさんの後釜を狙って管理人に就職したらいいじゃないですか」
「うーん、ブエノスかぁ。管理人はともかくとして、アフリカよりは確実に楽しそうだよなぁ」
「でしょ?一緒に行きましょうよ」
「でも、メグミちゃんはともかく、俺まで一緒になって戻ったら爆笑されるぜ」
「それは確かに(笑)」
「ネタ振りまくために、わざわざ何千ユーロも出すのはさすがにバカバカしいよなぁ」

だが、正直な話、思わず心惹かれる甘い誘惑であった。
日本旅館経験者なら分かってくれるだろうと思うが「ブエノスに行こう」という単純な一言がまるで悪魔のささやきかのように強烈に心をぐらつかせる。
確かにブエノスで半年ほど過ごして戻ってくれば、その頃には西アフリカも多少は旅のしやすい季節になっているだろう。
でも、さすがにブエノスまでの往復飛行機代と半年間の滞在費を考え合わせると、その後の旅費に足が出てしまう。
心惹かれはするものの、金銭的にはかなり厳しい話だ。
もしブエノスに行ったとしても、今度は半年やそこらで脱出できるかどうか今の俺には全く自信がない。
下手したらそこで旅が終わってしまう可能性の方が高い。

いくら考えても無理のある話なのだが、この際だからメグミちゃんが出るまでの間、もうしばらくダカールにいながら検討してみちゃおうかな・・・。