「良いことをしているから大丈夫」という危険な心理 ― 「モラル・ライセンシング効果」を考える
最近、ニュースを見ていると、障害者福祉サービス事業所、社会福祉法人、高齢者介護施設などでの・横領・金銭トラブル・不正受給・虚偽記載・虐待・不適切支援といった報道を、ほとんど毎日のように目にします。もちろん、行政のチェック体制が強化された結果、表に出やすくなったという側面はあるでしょう。けれど、それだけでは説明がつかない“共通する心理的な背景” があるように、私は感じています。⸻モラル・ライセンシング効果という罠それが、「モラル・ライセンシング効果」(Moral Licensing Effect)と呼ばれる心理です。2000年代初頭に英語圏で報告されたそうです。簡単に言うと、「自分は良いことをしている」「社会的に立派な役割を担っている」「マナーを守っている」という意識が、無意識のうちに「多少のことは許される」「これくらいなら問題ない」「これくらい自分勝手でも良い」という“免罪符”を与えてしまう心理現象です。実は、私自身も、この心理と無縁ではないと感じています。⸻福祉の現場は、特に起きやすい福祉の仕事は、間違いなく大変です。・重い障害のある方の支援・感情労働の連続・責任の重さ・人手不足その中で、「こんな大変な障害のある人を、家族に代わって支援している」「自分たちは社会にとって必要不可欠な存在だ」という思いを抱くこと自体は、決して悪いことではありません。しかし、その善意であるはずの心理が、・お金の扱い・権限の使い方・利用者への態度に対するブレーキを、少しずつ緩めてしまうことがあります。⸻本当に怖いのは「自覚がない」ことモラル・ライセンシングの最も怖い点は、本人が、自分の行動を「ひどいこと」だと認識できなくなることです。・「このくらい、みんなやっている」・「自分はこれだけ頑張っている」・「理解できない方が悪い」こうした思考が重なり、気づいた時には、取り返しのつかない行為に至ってしまう。本人に悪意がないケースほど、問題は深刻になります。行政処分がなされた後にもかかわらず、なお「私たちは悪くない」と言う方々がいる位です。(嫌と言うほど見ています)⸻必要なのは「メタ認知」だからこそ、私たちに必要なのは、「自分も、この心理に陥っているかもしれない」というメタ認知(自分を一段上から見る視点) です。・自分の行動を客観視する・記録を残す・第三者の視点を入れる・自分の「善意」を過信しないこれは、福祉の現場に限らず、教育、医療、経営、そして家庭においても同じだと思います。⸻善意だけでは、人は守れない「良い人だから大丈夫」「志があるから問題ない」残念ながら、それだけでは人は守れません。だからこそ、・法律・制度・仕組み・記録・チェック体制・対話・罰則が必要になります。それは人を疑うためではなく、人が人であることを前提に、従事者の皆様自信を、守るためのものなのだと思います。⸻福祉という、尊い営みを、本当に尊いものとして続けていくために。私たちは時々、自分の「善意」そのものを、そっと疑ってみる必要があるのかもしれません。