2025年1月17日 昼。


ソウル、ノンヒョンドン観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。
キャリア:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職後3年。


 

「観客」

 

ピッ―
ピッ―――

 

ピッ――――

 

塾が終わるまで、20分前。

 

アラーム音で
目を覚ます。
ハンドルに
顔を埋めている。

 

シートには
湿った気配が
そのまま残っている。

 

CCTV以外に、
見ていた目は
なかっただろうか。

 

こんな浅い呼吸のまま、
どれくらい
身を潜めていたのだろう。

 

10分。
20分?

 

顔を上げると、
ダッシュボードの向こうに
大通りが見える。

 

警察庁のCCTVが、
駐車違反として
私を記録しているはずだ。

 

私も、
今見たものを
記録しなければならない。

 

もう一度、
カフェのCCTVを見る。
カシャッ。

 

反対側へ
首を回し、
少し前に父親が出てきた
向かいの窓際の席も。
カシャッ。

 

記録する。
頭の中にも
保存する。

 

――なのに、
どうして
私を見ている?

 

この場面の、
この男。
私を見ている。

 

兄が座っていた
カフェの椅子に座り、
向かい側の
私を
見ている。

 

もう一度、
視線を戻して確認する。
男の視線は、
そのままだ。

 

運転席の窓を下ろす。
視線と焦点が
彼に張りつく。

 

その男も、
集中している。

 

彼は気づいているが、
視線を逸らさない。

 

私のほうが、
先に
目を逸らす。

 

ギアを握った
人差し指が
わずかに震える。

 

遅い。
子どもの迎え。

 

Uターンをして、
カフェの前を通り、
右折する。

 

もう一度、
男を探す。
彼の視線が、
私の車を
看取るように追ってくる。

 

子どもを乗せ、
車を出しながら
もう一度見る。

 

男はいない。

 

最初から
いなかったかのように。

 

誰だったのだろう。

 

なぜ、
あの場面に
いたのだろう。

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

 関連する観察ログ
この記録は、連続した観察ログの一部です。

 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 13|「4〜5時間」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 14|「有能感 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 15|「データセンター」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 16|「シャワー」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 17|「手がかり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 18|「実がかり #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 19|「父のアングル」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 20|「父のアングル #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 21|「観客」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)

今週土曜日(2月7日 午前9時)に1編を追加し、
来週から観察ログは月・水・金の連載となる。

このスケジュールは、当面固定する。

観察ログは、事件を追わない。
感覚が整う瞬間だけを記録する。
何が現れるかは、
記録が積み重なってから見えてくる。

 

Ennd
by N≠N

2025年1月17日 昼。


ソウル、ノンヒョンドン 観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。
経歴:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職3年。

 


 

父のアングル #2

 

私は
乗れない。

 

キャメルコートの彼女は
コーヒーを二杯、両手に持っている。
ドアを開ける手がない。

 

それなのに、
開いた。

 

夫が開けた。

 

ゆっくり
コーヒーをルーフに置く。
視線は信号機の上のCCTVへ向かう。

 

静かに
両手を胸元に寄せる。
人差し指と親指を組み、
拳銃の形をつくる。

 

音を立てず
片手を90度に折り、
四角いフレームをつくる。
窓ガラスに密着させる。

 

腰を落とし、
フレームの内側へ
車内を覗き込む。

 

ここからだ。
見える。

 

運転席の夫が
明るく笑い、
ベルトを外す。

 

フレームは
一歩、後ろへ退く。

 

夫は腰をかがめ、
臀部を持ち上げる。
手を伸ばし、助手席のドアを
開けてやる。
フレームは
その動きごとに
焦点を合わせる。

 

キャメルコートの彼女が笑う。
コーヒーを持ったまま
車に乗り込む。

 

停止。

 

フレームを止める。
私は
高さに合わせて腰を落とし、
ゆっくりと首を回す。
カフェを見る。

 

ある。
カフェのCCTV。

こちらを向いている。

 

そこに
今のこの場面が
この構図のまま映っている。

 

胸が高鳴る。
手が震える。

 

再び
車に密着し、
車内を見る。
息が止まる。

 

夫が
コーヒーを受け取る。

 

片手が
彼女の太ももに置かれる。

 

肩の後ろ、
ブラジャーのラインを
軽く押し、
撫でる。

 

ストラップに押された跡が
手に残るほど。

 

湿り気を帯びた彼女は
高ぶった感覚を隠すように
微笑む。

 

ベルトを締める夫の肘が
彼女の胸に触れる。

 

一瞬、
押される。

 

彼女は
両手で
太ももの内側を押さえる。
膝が寄り合う。

 

ぴりっとする。

 

「だめ。」

 

このままでは
大通りのCCTVに
濡れたスラックスを履いた
私の姿が
保存されてしまいそうだ。

 

早く
車に乗らなければ。

 

あと五秒見たら、
耐えられなくなりそうだ。

 

車内へ
急いで乗り込む。

 

達成感だろうか。
有能感のせいだろうか。
それとも、
熱いコーヒーを
太ももにこぼしたのだろうか。

 

指を入れる前に
運転席のシートに染み込む。
床へ
流れていくようだ。

 

夫と
キャメルの彼女の姿を
手に収めただけなのに、

 

どうして
こんなにも
官能的なのだろう。

 

私の姿も
保存された。
カフェのCCTVの中に。

 


 

[観察メモ]


誰かにとっては不快な行為でも、
観察され、記録される瞬間、
それ自体が官能となる。

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 13|「4〜5時間」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 14|「有能感 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 15|「データセンター」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 16|「シャワー」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 17|「手がかり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 18|「実がかり #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 19|「父のアングル」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 20|「父のアングル #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)

 


2025年1月6日 午後

ソウル、ノンヒョンドン観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。
経歴:中堅企業マーケティングチーム係長まで勤務。退職3年。

 


 

父のアングル

 

父。
うん。
写真、撮ってくれる?
写真?
うん。
あたたかい角度で。

 

私はここに寄りかかって、
いちばん楽そうに座っている。

 

道路の向こうに停めてある、
夫の車を見ているつもりで。

 

そこから。
私の後ろ姿の横に、
夫の車が入るように
撮って。

 

私も全部写って、
車も一緒に写っていなきゃだめ。

 

座ったまま、
あたたかく見える角度で撮って。
うん。本当に必要なの?
必要。
キャメルコートの女は、
入れないで。

 

カシャ。

 

その音で目を覚ます。
兄が置いていったコーヒーカップ。
父はいない。
夢だ。
父の、慰めだったのだろうか。

 

スマホを見る。
まだ、塾が終わるまで
一時間もある。

 

こんな時じゃない。
時間がない。

 

車を急いで走らせ、
Uターン。
夫が停めていた位置に車を入れる。
向かい側を見ながら、
角度をもう一度合わせる。
「ふう。」

 

胸をなでて、
感情を少し下げる。
刺激していたスラックスの股も、
整えておく。

 

カフェを見る。
一瞬、彼女の動線を整理する。
人差し指の甲で片方の鼻を押さえ、
深く息を吸ってから、
車を降りる。

 

助手席側へ回り、
縁石の上に、最初の一歩を置く。
つま先に、力がぎゅっと入る。

 

ゆっくり踏み出す。
キャメルコートの彼女が先に歩き、
私は歩幅を広げて追う。

 

彼女が足を速め、
私もテンポを合わせる。

 

彼女が振り返り、
車を見る。
夫と視線を交わす。
笑う。
胸が高鳴る。

 

彼女は両手にコーヒーを持って走る。
私も走る。

 

彼女はコーヒーを持ったまま、
車に乗り込む。

 

私は、
乗れない。
なぜ?

 


 

察メモ]

 

それぞれの日常は

見る角度によって

違う名前を持つ。

 


 

Ennd
by N≠N

 


・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 13|「4〜5時間」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 14|「有能感 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 15|「データセンター」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 16|「シャワー」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 17|「手がかり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 18|「実がかり #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 19|「父のアングル」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)

2025年1月17日 昼。


ソウル、ノンヒョンドン観察ログ。
対象:専業主婦43歳、結婚7年目。男児5歳。
経歴:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職3年。

 


 

「実がかり #2」

 

手がかりを探さなければならない。
数日後は旧正月だ。
姑と長い時間を過ごす。

 

整理されていなければ、
表情、口調、動作に先に出る。

 

子どものアレルギーも整えておく必要がある。
名節の一日は、
会っていない日の隅々まで
スキャンされる日だ。

 

時間は多くない。

 

夫と兄は、同じ大学の同門だ。
近いところから洗う。

 

子どもの塾の横のカフェ。
キャメルコートの彼女が移動した動線が、
正確に見える席。

 

視線を置いたまま、
兄が慌てて入ってくる。
やつれている。

 

「メッセージも返さないし、どうして連絡が取れない?」
「何かあった?」

 

「母さんの家……売らなきゃいけないかも。」

 

カップを持ち上げて、置く。
熱くない。

 

「そこ、8千万。私のお金だって分かってる?」
「売っても5千万も残らない。」

 

兄はうつむく。
指がカップの縁をなぞる。

 

「昨日、義弟に少し会った。」

「どうして会うの?」
「私に何も言わずに?」

 

「仕事で。」

 

その言葉で、
空気が止まる。

 

兄の電話が鳴る。
外に出て取る。

 

私は動かない。
椅子に背中をつける。
太ももが椅子の角に当たる。
姿勢は変えない。

 

かつては
有能なセキュリティ開発者。
スタートアップの代表。
今は、
崩れ続けている。

 

母も、
私も、
一緒に引き込まれた。

 

父が必死に守った家。
私の名義で縛られた金。

 

それが、
こんなふうに使われるとは。

 

兄は戻ってきて言う。
「会社に戻らないと。電話する。」

 

席を整えないまま、
出ていく。

 

夫と兄は、
大学が同じなだけだと思っていた。
兄は夫を嫌っているように見えた。
私は、そう理解していた。

 

それなのに、
仕事で?

 

これは、
手がかりだろうか。

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 13|「4〜5時間」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 14|「有能感 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 15|「データセンター」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 16|「シャワー」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 17|「手がかり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 18|「実がかり #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)