小説老人と性 里坊さくら苑 16話 境遇は自分でしか変えられない・里井さくら 京都看護大学に入学

 さくらは高校3年になり担任の教師から里井さんの成績だと公立の京都大学でも府立大学に市立大学でも可能で教師は京大の受験を勧めていた。さくらの将来の進路は看護師になるともう4歳で決めていたので教師には京都市立病院付属京都看護大学を受験すると答えていた。そのさくらの4歳の時には母親の尚美が行きつけのカラオケスナックのマスターとの不倫の現場をマスターの妻に見られたという想定外の出来事に陥り頭の中の混乱からこの後始末から逃げ出す事しか考えられずにそんな愛とか恋とかの感情のないマスターと駆け落ちする道を選んだが、結果的にはさくらを捨てることになってしまった。

 その母親の失踪を子供心に知った夜、さくらは38度1分の熱を出していた。さくらは爺ちゃんに抱かれてタクシーで病院へ、そのタクシーが京都市立病院の急患入口に着いたがもう女性の看護師が待っていてくれて和博に抱かれてタクシーから降りたさくらを毛布のまま抱き抱えて走るように診察室に入った。若い看護師はベッドに寝かしてからさくらに、
「可愛いね~名前はなんていうの?」
 さくらは蚊の鳴くような声で「さといさくら、4さいです」と答えていた、看護師は、
「さくらちゃん~いいお名前ネ~そう、そう、吐きたかったら遠慮しないで吐いてネ~お熱を計りま~す~これが終わったら先生にポンポンを診て貰ってお薬を飲んでお熱が下がったらお家に帰れますからネ~」

 さくらはこの看護師をベットに寝たまま幼い4歳の眼でまじまじと見ていた。保育園の先生も優しくて綺麗だが、この看護師さんはそれより濃い目の化粧で髪型もキャンディーキャンディーに似た金髪風、それに小児科診療室なのか白衣もピンクでまだ4歳のさくらでさえ綺麗なお姉さんと感じていた。そしてさくらはこの瞬間に将来はこんな優しくて綺麗な看護師さんになって大好きな爺ちゃんが病気になったらさくらが看病をすると心に誓っていた。

 それから13年、母親の行方も消息も何一つないままさくらは爺ちゃんに育てられたというよりさくらが爺ちゃんをそれなりの交通福祉関係の名士に育てて爺ちゃん今では「NPO法人 満点タクシー」の理事長で安定した収入もあるが、あのままだらしない個人タクシーの運転手で75歳の定年を迎えていたならば孫のさくらだって高校を卒業すれはすぐに就職しなければならなかった。その将来の状況をもうさくらは小学校6年で把握して爺ちゃんのタクシーにお客さんか多く乗っていただくにはどうしたら良いのかと考えたのが、爺ちゃんのタクシーも「MKタクシー」に負けないぐらいの「サービス満点のタクシー」にすれはいいという結論になり、まず爺ちゃんがタクシーで営業運転している時のそのだらしない服装をまず改めろとさくらは洋服の青山でスーツ一式を買わせていたというスーパー少女の片鱗をもう見せていた。

 さくらは幼年期から小学生、中学生、高校まですべて公立でまだ幼年期のピア教室やバレー教室などの習い事や塾に家庭教師などの月謝がいるものはすべて拒否、各学校の部活でも金のかかる衣装やユニホームなどが必要な部活はすべて拒否して学校にあるパソコンを使えるパソコン部、そんなに金がかからない陸上部に所属していた。それは毎晩爺ちゃんに聞かされるMKタクシーの値下げと一人勝ちで個人タクシーも法人タクシーも収入が半分以下に減少して大手の消費者金融から街金まで金を借りての借金地獄の果に仲間の個人タクシーの誰だれが自殺した。法人タクシーの運転手のほとんどが最低賃金以下で働き昨日も大手タクシー会社の寮で誰だれが自殺してもう法人タクシーだけでも10人を越えてしまったという話を耳にタコができるほど聞いていたので爺ちゃんにたとえ勉強に関するお金でも負担を極力かけないと思っていたからだ。

 このさくらの境遇を嘆かず卑下せず自分自身で変えなければならないと教えてくれたのは小学校5年2組の担任の坂口まりえ先生だった。まりえ先生は2組の担任の教室での自己紹介では、
「私は日本人で和歌山県の出身で和歌山の高校を卒業して京都教育大学に入学して卒業してそのまま京都市立七条小学校に赴任しました。そして今年度からこの朱雀小学校の皆さんの5年2組を担任します、坂口まりえです。そして家は伏見区のワンルームマンションで一人暮らしですが、まだ恋人はいません。和歌山には祖父と祖母、それに私の母親がいますが父と母は私の小さい時に離婚して母子家庭になります」

 とここまで一気にゆっくり自己紹介したが、まりえ先生は生徒の顔を見ながら先生のことをもっと知りたい人は質問してくださいといったが誰も手を挙げなかった。そしてまりえ先生はこれから皆さんにも自己紹介をしてもらいますが、まず氏名、次は国籍、そして家族は誰と暮らしていますか、たとえば、
「私は○○○○です。国籍はフィリピンで父はフィリピン人で母は日本人ですが、両親は離婚して今は母と弟の3人の母子家庭です」
 もう一つの例は、
「私は○○○○です。在日朝鮮人で家族は父と母と兄と姉の5人家族です」
 さて、先生が自己紹介した後に皆さんは私への質問や知りたいことがなく手を挙げませんでした。これは先生が先に皆さんの知りたいことを先に紹介したからです。この皆んなが知りたいことや気になることを先に知ればもう陰口やウソの噂もなくなりますが、実はこの知りたい、気になることを噂することが「いじめ」に繋がります。

 この朱雀学区でもそうだが、バブル時代には多くの外国人が京都に住むようになり朱雀小学校の生徒の約20%ほどが外国国籍で在日朝鮮人までの生徒数は戦後最大になっていたからこそ、肌の色や目の色、それに髪色や言葉の不自由もあって差別やいじめが社会問題になっていた。まりえ先生はこの差別やいじめをなくするには生徒が学校でもお誕生日会でも生徒が数人集まればまず自己紹介のルールを決めればたとえば肌の色が黒くても自己紹介で「私はインド人で父は京都大学の研究者で母と弟の家族4人で日本に来た」ことを知って入れば推測も陰口も噂話にもならないからだ。

 そして生徒の自己紹介の番が回ってきたさくらは、「里井さくらといいます。家族は70歳の爺ちゃんと二人で住んでいます。父は私が生まれる前に母と離婚して母は私が4歳の時に家を出たきりで私は幸っちゃんやイ・ヤンジャンちゃんのような母子家庭ではなく爺孫(じじまご)家庭になります。ですからお誕生日会や子供パーティに誘われてもお返しの招待が出来なかったので招待を断ってばかりいましたが、決して付き合いが悪い訳ではありません」

 これはさくらへのいじめ的な悪口で、
「少しばかり可愛いいと思ってお誕生日会を誘っても絶対に来ない」
 という悪口がクラス中に広がっていたことへのさくらの反論だが、皆んな最初は笑っていたが、何かを感じたのか教室中静まりかえっていた。そこでまりえ先生は、
「皆さんの自己紹介で皆さんの色々な境遇を先生は知りました。この自分の境遇を嘆いても卑下しても何も変わりません。先生も母子家庭で育ちましたが、こうして皆んなの先生になるまでに成長しましたが、やはり差別やいじめは随分ありました。でも自分の境遇は自分で変えなければ誰も変えてはくれませんので今日の自己紹介のようにそれぞれの境遇を皆んなで共有して仲良く助け合って勉強しましょう」

 さくらはこの先生の自己紹介と少し濃い目のお化粧ととても綺麗な坂口まりえ先生に一目惚れしていた。そうなると勉強しなければまりえ先生に嫌われるのが嫌で必死に勉強し始めたのがさくらが京大の入試でも合格出来るほどになった動機の一つになる。それから8年、小学校を卒業してもさくらはまりえ先生とはいつも連絡をとりながら今日の京都看護大学の合格通知を真っ先に報告していた。そのさくらの合格祝いをまりえ先生は先生のマンションでお祝いしてくれるというので爺ちゃんの夕食を作り置きして今夜はまりえ先生の家でお泊まりとなったが、さくらは学校の行事と親戚以外での初めての外泊となった。一方の爺ちゃんはさくらの外泊を喜びもう20年来付き合っている3つ歳上で78歳の居酒屋のママさんの泰子を孫のいない家に招待していた。
                                          (17話につづく)

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