小説老人と性 里坊さくら苑 6話 さくら大きくなったら看護師さんになって爺ちゃんのお熱を…

 個人里井タクシーの運転手の里井和博は61歳になっていた。娘の尚美に4歳の孫のさくらを午後4時に保育園に迎えに行くように言われていたためにタクシーを保育園から少し離れた場所に停めて保育園に行った。保育士は和博の顔を見ると同時に、
「さくらちゃん、お爺ちゃんのお迎えよ~と~」叫ぶとさくらは満面の笑顔で和博に飛びついてきた。
 それもそのはずでお爺ちゃんのお迎えの時は必ず帰りには大手スーパーのゲームコーナーに連れて行ってもらえるからだ。

 さくらを十分遊ばしてから家に帰ったが、まだ母親の尚美は帰っておらず居間のテーブルの上にはお父さま宛の封書があった。和博は胸の動悸で手が震えるのか震える手で手紙を読むとそこには、
「お父さん、私は母に捨てられてから今まで育ててくれていつも心から感謝しています。この度、私の不始末で裁判所へ訴えられることになりました。それまで私はお父さんに二度も三度も迷惑をかけてきましたが、もうこれ以上迷惑をかけることは出来ませんでした。もし弁護士や裁判所からなにか連絡がありましたら娘の尚美は勘当してもう家にはいないということで完全に無視して下さい。私は暫く姿を隠しますが、必ずさくらを迎えにきますのでさくらを宜しくお願い致します。尚美」
 とあったが、さくらにはすぐにこのことを言う言葉がなく取り敢えずさくらにはお母さんは今夜は遅くなるから先に爺ちゃんとご飯を食べてお風呂に入ろうと言うとさくらは何も知らずに喜んでいた。

 和博はさくらを寝かして焼酎のお湯割りを飲みながら尚美の手紙を読み返していた。この手紙では詳しいことは分からなったが、和博の妻で尚美の母親の光恵と同じで妻子ある男と不倫してそれが周囲にバレてのやむにやまない駆け落ちだったが、尚美もそうだろうと判断していた。光恵は活発な女性で地域の体育振興会が主催する催しには積極的に参加していた。週に一回の小学校の体育館でのママさんバレエ、校庭でのテニススクールも夜に行われていた。

 この学区の各種団体はそれぞれ友好を目的に忘年会、新年会、花見にBQパーティーなど年数回は開催されて二次会はカラオケと流れはどの学区も同じだった。光恵はテニススクールのコーチで小学校の教師の足立芳雄にほのかな好意を持っていたが、ある催しの二次会のカラオケでたまたま隣に座ったことから仲良くなっていた。やがてこの二人はw不倫になるが、この教師と光恵が乗った乗用車が南インターのラブホテルから出てきたのを同じく不倫をしていた娘の尚美と同級生の母親が発見して自分のことは棚に上げて体育振興会のメンバーに絶対に言わないでとペラペラ喋っていた。

 それが校長の耳に入り足立は教育委員会からも呼び出しがあった。当然ながら足立の妻は離婚を決意して浮気相手の光恵を訴えると息巻いていた。この二人は駆け落ちするほどの愛はなかったが、二人で駆け落ちする道しかなかった。それから10年以上経つがこの二人の消息はわからなかった。和博はこんな事を思い出していたが、尚美も同じようなもので尚美は二度と家には帰って来ないとすると孫のさくらは自分が育てなければならないと覚悟して布団に入っていた。

 明くる日の早朝から和博は電話で姉二人に尚美の駆け落ちのことを報告していた。一番上の姉の和美は夫に先立たれて宇治で一人暮らしをしていた。二番目の姉の愛子は子供がいなくて向日市の持ち家で夫婦で年金暮らしで時々パートに出ているという。その両方がさくらを引き取りたいというのですぐに和博の家に来るという。そうこうしているうちにさくらが起きて母親を探していた。

 和博はとっさにママは夕べ愛子おばちゃんの家で泊まって愛子おばちゃんと一緒に帰ってくるって言ったが、さくらは和博の電話を聞いていたのか寂しい顔をしていた。和博はさくらを自転車で保育園に送り家に帰るともう愛子夫婦と和美が家に来ていた。和博は姉に尚美の置き手紙を見せていたが、口の悪い和美は
「本当にあんたの教育が悪いから妻の光恵さんから娘の尚美まで不倫のあげく駆け落ちというのは男として恥じゃあないの…」
 愛子は、
「なんぼ儲かるといってもタクシーの夜勤では光恵さんを抱けないから女なら誰でも欲求不満になるわよ!、それと尚美だって同じよ!、まだ若い尚美に夜ウロウロするなと強制したら誰だって反発するわよ!」
 と、二人とも姉らしく弟の和博を遠慮なくこき下ろしていた。

 和博は女の口には負けるから反論はしていないが、確かにタクシー運転手はバツイチが多い。大手の法人タクシー会社の単身寮はどこも満室だが、それは若い運転手用ではなく50~70歳のバツイチばかりでこれは個人タクシーも同じになる。その原因が夜勤勤務だと疲れもあり夜の生活がおろそかになるという愛子の説を自分でも思い当たるのか理解できていた。そこで和博は姉二人に、
「わしはさくらをわしの手で育てようと思っている」
 これを聞いた二人は口を揃えて、
「和博、なにをいっているの!あんた、今まで料理どころか掃除、洗濯、家事の一つもしないと光恵さんがいつもこぼしていたのに、そ、それにタクシーはいつ運転するの?、夜勤でさくらを一人で寝かしておくの?夜中に熱が出たらどないすんねん~和博!」

 和博は息巻いている姉二人に、
「いゃいゃ、タクシーは暫く代行運転手に任せる。これは個人タクシー事業主が病気や交通事故で運転出来ない場合は個人タクシーの免許取得者でまだタクシー車両を持っていない運転手に運転させる制度がある。その運転手とは売上げは折半で若手の運転手なら月に70~80万円は稼ぐ、だから私の収入は35~40万円にはなるが、ここから保険や車検等々を差し引いてもそこらのサラリーマンよりは収入はいい。だから料理や家事は姉さん二人に教わればさくらを立派に育てられる」

 姉の和美が、
「でも、その制度ってさくらがせめて中学生にぐらいになるまで使えるの?、それに和博だってもう年だし~いつまで運転出来るの?」
「その制度は2年ほどだが、それまでに探偵事務所にでも頼んで尚美の居所を探して貰ってわしが尚美をさくらの元に連れて帰る。個人タクシーの定年は75歳でまだ14年は働ける、その後は政府の年金と個人タクシー年金で贅沢は出来ないが、さくらぐらいは養える」
 愛子は、
「そう…それなら私が当分毎日にここに通って和博に料理や家事を教えるが、さくらにこのことを誰がどんな説明をするのよ!まださくらは4歳よ!」

 取り敢えず今夜はさくらの好きな料理をしょうと和博からさくらの好物を聞いて和美と愛子夫婦はスーパーに買い出しに行った。和博はさくらを自転車でお迎えに行ったが、その保育園の保育士が和博の姿を見ると園長先生が和博に話があると園長室に案内された。園長はもう尚美がカラオケスナックのマスターとの駆け落ちしたのを知っているようで和博に、
「さくらちゃんのお母さんが不在のようですが、さくらちゃんはまだ4歳ですから京都市の児童相談所に相談したらいかがでしょうか?、なんでしたら私の方から児童相談所に連絡をして相談日を決めることも出来ますが…」
 和博は、
「ありがとうございます。さくらは私が育てます、それに私の姉二人が順番に毎日家に来てくれます。それに私も2年間は個人タクシーを休業しますから、私が毎日さくらを送り迎えしますから安心して下さい」

 和博はさくらを自転車に乗せてからさくらに、
「今日は和美おばさんと愛子おばさんがさくらの大好きなちらし寿司とミニハンバーグとウインナーとポテトフライを作ってくれるから家に帰ったら「ありがとう」っていってネ~さくら」
 さくらは小さな声でハィとは言っているようだが、なぜか?「お母さんは?」帰っているのかと爺ちゃんには聞いて来なかった。和博はこんな小さな子供でも周りの大人の会話から何かを感じているのかと涙が溢れてきた。

 夕食の時間になり今夜は珍しく大人数の食事でさくらは大好きなちらし寿司の上に乗っている赤いエビが気にいったようで和美からも愛子からもエビを貰って笑顔で食べてはいたが、何故か?「お母さんは…」という一言がでないから和美も愛子も和博もさくらにお母さんがいない理由を切り出すことが出来なかった。そして和美と愛子夫婦がそれぞれ家に帰ったのでさくらと爺ちゃんとのお風呂タイムとなった。さくらは爺ちゃんとお風呂に入るのが大好きで週一回の爺ちゃんのタクシーが休みの日を楽しみにしていた。

 風呂から上がるとさくらはパジャマに着替えて爺ちゃんに読んで貰う絵本を自分で決めて読んで貰っていた。さくらを寝かして和博はいつもは焼酎のお湯割りを飲むが、今夜は何故か安心したのかビールを飲みたくてビールを飲んでいると隣の部屋で寝ているさくらのむせるような咳が聞こえた。和博は部屋に入りさくらの顔を見たが、顔は火照っているようで急いで体温計を探して熱を計ると38度1分もあった。取り敢えずは冷凍庫に冷やしてある熱冷ましシップをさくらの額に置いていた。

 和博は所属している京都個人タクシー配車センターに電話をしていた。
「はい~里井さん~お疲れさまです~どうしました~」
「わしの4歳の孫が38度1分の熱がでた!深夜にやっている緊急病院で小児科の先生がいる病院を大至急探してほし、それと里井タクシー営業所までタクシーを配車してほしい」
「わかりました、大至急手配します」
 里井タクシーが所属している配車無線は450台が加盟している。無線オペレーターは、
「全車に連絡、里井さんの孫4歳が急病、大至急小児科の先生がいる急病診療病院を当たってほしい」
 各無線局からの「198了解」「321了解」の声を打ち消すスピードでたまたま京都市立病院急病受付で客を降ろしていた運転手が病院に駆け込んで小児科医の確認と急病患者の搬入を許可して貰っていた。
 和博はさくらを毛布に包んで家の外にでると個人タクシーがドアを開けて待っていてくれた。この運転手も無線を聞いていたので京都市立病院に向かったが、この時に里井は行き先の病院を知った。この個人タクシー仲間の見事な連携ブレーに心から感謝をしていたのは里井だけでなく毛布に包まれたさくらも同じだった

 タクシーが京都市立病院の急患入口に着いたがもう女性の看護師が待っていて和博に抱かれてタクシーから降りたさくらを毛布のまま抱き抱えて走るように診察室に入った。若い看護師はベッドに寝かしてからさくらに、
「可愛いね~名前はなんていうの?」
 さくらは蚊の鳴くような声で「さといさくら、4さいです」と答えていた、看護師は、
「さくらちゃん~いいお名前ネ~そう、そう、吐きたかったら遠慮しないで吐いてネ~お熱を計りま~す~これが終わったら先生にポンポンを診て貰ってお薬を飲んでお熱が下がったらお家に帰れますからネ~」

 さくらはこの看護師をまじまじと見ていた。保育園の先生も優しくて綺麗だが、この看護師さんは少し濃い目の化粧で髪型もキャンディーキャンディーに似て金髪、それに小児科診療室なのか白衣もピンクでまだ4歳のさくらでさえ綺麗なお姉さんと感じていた。
 やがてさくらの熱も平熱近くまで下がり家に帰る許可がでた、医師は和博に、風邪ではないが、なにか急激に周りの環境が変化すると脳がついていけずいわゆる知恵熱かもわかりません。もし明日も熱が出るようでしたらこの病院の小児科で診察を受けて下さい。

 帰りもさくらは毛布に包まれて個人タクシーに乗っていた。そして爺ちゃんに、
「爺ちゃん~さくらが大きくなったら看護師さんになりたい」
「そうか~そうか~でも、看護師さんになろうと思ったら一緒懸命勉強をしなければならないが、さくらはできるかな?」
「できる、できるよ~看護師さんになって爺ちゃんが病気になったらさくらが爺ちゃんのお熱を計ったげるよ~爺ちゃん」
 爺ちゃんは溢れる涙をさくらにも個人タクシーの運転手にも悟られないように苦労していた。
                                 (7話につづく)

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