小説老人と性 里坊さくら苑 5話 さくら4歳で母親に捨てられる

 尚美は日頃のストレス解消にスーパーの同じバツイチの同僚らと週一で飲み会、二次会はカラオケスナック「貴婦人」で歌うことでなんとか身体の芯から湧いてくる欲求不満を誤魔化していたが、この店のマスターの直樹に誘惑されて一度だけ関係を持っていた。元々尚美はこのマスターのことは素敵なおじさま程度で年も尚美は25歳、マスターは50歳と倍は離れていて愛とか恋の対象ではなかった。

 それにマスターには妻と中学生と高校生の息子の4人家族で店に近い分譲マンションに住んでいることは以前から知っていた。「それなのになぜ?」と尚美は自問自答していたが、結局尚美の父親の口癖だった「夜は魔物が支配している、その魔物の餌食」となったという答えしか見つからなかった。この件では父親も尚美も面と向かって敢えて話題にしなかった。もちろん同僚も知らないままいつも通り週一で飲み会と二次会を貴婦人でしていた。ただ、帰宅の時間だけは父親の手前か守っていた。

 三ヶ月ほど経ったある日、尚美の勤めているスーパーのレジにマスターが現れて尚美にメモを渡していた。そのメモには話があるから電話をしてほしいとあった。尚美は電話ぐらいはと電話をしたが、話は昼間店でするというのだが、尚美は前のことが一瞬頭に浮かんだ。しかし、それは嫌なことでも苦痛の出来事でもなく、尚美もそれを心の底で待っていたのか、店に行く前にはシャワーを浴びて昔身に着けていたセクシーな下着をタンスの奥から探し出して着ていた。

 四条大宮の雑居ビルの3階にあるカラオケスナック「貴婦人」だが、夜はなんとも感じなかった雑居ビルの汚さが昼間は陰湿で薄暗く不気味ささえ感じる。この日はスーパーを休んでさくらの保育園のお迎えの時間が遅い日を尚美は選んでいた。尚美が店に入るとマスターは入口のドアに接錠して尚美をテーブル席のソファーに座らしてコーヒーを出してくれた。

 マスターの話では店からホステスさんが消えてから女の娘目当ての客が激減した。客はカラオケ好きのおばさんばかりでドリンク2杯とチャームの乾き物と1曲100円のカラオケ10曲で3時間ほど粘られて2500円の水揚ではここの家賃も払えない。来月の11月から年末が水商売の稼ぎ時だが、求人広告を出しても冷やかしの電話の一本もない。

 そこで尚美に、
「時給2000円だすから午後7時から12時までの5時間毎日働いてくれないか?」
「そ、それは出来ません、マスターごめんなさい」
「そか、それならいつも水曜日に店に来てくれるが、その日だけでもカウンターに入ってほしい」
 尚美もそれなら11時までは店に入ると約束したと同時に尚美はマスターにキスをされたが、尚美も抵抗の素振りも見せずマスターの愛撫を三ヶ月も心待ちしていたので心も身体もマスターに委ねていた。

 こうして水曜日に尚美がカウンターに入るとスーパーの同僚の泰子か真っ先に時給2000円なら私もと名乗り出てきた。それが口コミで広がり25歳~30歳までのバツイチ女性で月曜日から土曜日までシフトが埋まっていた。おりしも好景気の年末ともなればカラオケスナックはどの店も千客万来で賑わっていた。尚美とマスターの真昼の情事は一週間から10日に一回は真っ昼間の店で励んでいた。だからと言って尚美はマスターに特別の感情はなくセフレに徹していた。

 平成3年(1991年)の春になりさくらは4歳になっていた。この頃からこの好景気はどうもバブルではないかという論評が新聞紙面に踊っていた。やがて高騰を続けていた土地価格が下がり初めていた。しかし、木屋町や祇園の店では大手企業のサラリーマンが多いのかそんなに影響はなかったが、ローカルの繁華街の四条大宮周辺の店の客は大手企業の下請け中小零細企業の勤労者が多くてそれらの会社の倒産や廃業のニュースが連日流されていた。カラオケスナック「貴婦人」の売上げも年末の半分以下になっていた。

 この夜の飲食店の昼間はあらゆる業者がマスターキーを持って酒類の配達や空瓶の回収、おしぼりから氷、花屋、清掃まで出入りするが、これは週始めの月、火に酒屋、花屋、終末の金、土にはおしぼり、清掃とマスターは商品を注文するので水曜日と木曜日は業者の出入りはなく安心して尚美と情事を楽しんでいた。マスターの直樹の妻の美智子は三条商店街の老舗の花屋さんの娘で今も軽四輪で花を夜の飲食店やスーパーの生花コーナーに配達している。

 その美智子が花を配達していた木屋町や祇園の店も花屋に連絡しないまま廃業や夜逃げをする店か増えてきた。その配達した花はいつもは店に持って帰るが、何故か?虫の知らせなのか?その花を夫の店に活けようと思い3階の店にマスターキーを使って入った。店の中は何故か灯りが点いている、美智子は花を持ったまま奥のフロアーを見るとそこには真っ裸の男女が抱き合っていた。美智子はまさか?夫とは思わず、
「すいません~どちら様ですか?」
と、声をかけるとその瞬間に妻の美智子と分かった直樹は飛び上がり驚いていたが、現行犯で観念していた。

 尚美は取り敢えずそこらに散らばっていたブラやパンティーとセーター、ジンーズをかき集めてトイレに駆け込んでいたが…妻の千恵子が、
「あら、あんた、東友スーパーの里井さんじゃないの?、食料品売らないでカラダを売っているの~店長に売春婦を雇っているのかといってやる!」
 それもそのはずで千恵子の実家の花屋も尚美がパートをしている東友スーパーに花のコーナーがあり、美智子は花を納入していたから顔馴染みでもあった。

 尚美はトイレて震えていたが、奥のフロアーでマスターと千恵子が言い争いしている隙にトイレから脱出して家に帰っていた。尚美は家に帰っても何も手がつかず、午後4時にはさくらを保育園に迎えにいった。夕方になり父親が夕食のために家に帰って来るが…何もなかった振りをして父親は個人タクシーで夜の勤務についていた。やがてさくらを風呂に入れて寝かしたころマスターから電話があった。

 マスターはあれから妻の父親、母親、それにビルのオーナーまで店に駆けつけてきた。妻は私と離婚して里井さんを裁判にかけて慰謝料をふんだくると息巻いている。実はあの店の名義は妻の父親で私は店を開業する時に父親から借りた200万円があるが、それを直ぐに返せ、返さなければこの店の賃貸契約を解除する。このビルのオーナーは父親の友人でそのオーナーは直ぐに工務店に電話して店の鍵の取り替えを頼んでいた。そうこうしているうちに妻の兄が中京区役所で離婚届けの書類を貰って持ってきた。私は無理矢理だが、その離婚届けにサインさせられた。

 尚美は、
「そうなの~私のためにすいませんでした」
「いゃいゃ、悪いのは私で尚美は何も悪くはない」
「それでマスターはどうするの?」
「私はすぐにATMで店の金を下ろしたが、それが95万円あった。それに家の近くのガレージに停めてあった私の軽四輪を持ち出してきた」
「マスター、そのお金は店の家賃、酒屋さん、カラオケのリース代、それに私と泰子、京子ら5人のアルバイト代ではないの?」
「それはそうだが、それを払うと私は無一文になる。この金を持って岡山の実家に帰る、実家には母が一人だが家賃も要らない、また一からやり直す」
「マ、マスター、私は奥さんから訴えられた上に私が紹介したアルバイトなのに、私は泰子らにどういう説明をすればいいの?」
「それは~すまん…」
「すまんですまないわよ~それに~もう、東友スーパーのパートにも行けないし…」
「すまない…私は今から岡山に帰るが、また岡山から電話する」
「ちょちょちょ待ってよ、取り敢えず今夜はどっかに泊まって明日の朝10時に電話して」
「分かった…」

 尚美が中学ニ年生の時に母親は不倫した男と駆け落ちして残された尚美は父親に育てられた。その父親にはさくらのお産の費用から別れた夫の借金250万円だけならまだしもさくらが4歳になる今日まで生活費のすべてを父親のタクシーの稼ぎで養って貰っていた。尚美がパートで貰う月々6万円程度の金もさくらのために使えと父親は受け取らなかった。その金で週一だが、飲み会に参加してその店で知り合った男と何回も不倫して相手の妻から慰謝料を請求されてもその金を父親に出してほしいとは絶対に言えない。そしてこんな世間の狭い京都の中京区では尚美の不倫は明日中に地域を駆け巡る、当然ながらさくらの保育園のママ友にも知れ渡るので昼間は表も歩けないし買い物も行けない、仮にさくらを連れて新天地を求めてもやはり金がいる。父親からは「夜はウロウロするな、魔物が支配している」と何回も意見されていたが、それを無視して罰が当たったと悩みに悩んでも答えは朝まででなかった。

 明くる日の朝、尚美はさくらを自転車で保育園に送り自転車から降ろす時にはさくらをいつもより力を入れて抱きしめていた。家では父親が個人タクシーの営業の用意をしていた。尚美は父親に、
「お父さん、悪いけど私今日どうしても用事があるの、だからさくらを午後4時に迎えに行って」
 父親は毎度のことで嫌な顔をしないで頷いていた。

 そして父親が出発したのを確認してから父親宛に置き手紙を書いていた。そして尚美は大きなバック二つに当面必要な下着から服、靴まで詰めてマスターの電話を待っていた。そして家の前でマスターの軽四輪にバック二つとともに尚美も乗りこんでいた。
                              (6話に続く)

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