小説老人ホーム  里坊さくら苑 2話 さくらお年寄り専門のセックスカウンセラーに

 こうしてランチが終わった後に大手ランジェリーメーカーの創業者で会長の塚山誠一を乗せてさくらのタクシーは南禅寺の隠れ里に向かっていた。百万遍から東大路を南下して平安神宮の赤い大鳥居をくぐり抜けて南禅寺の参道から山門の前を左折して日本家屋の豪邸が建ち並ぶエリアに入った、ここで塚山が、
「このお屋敷はたしか元総理の細川護煕さんの別荘で総理になられる前には佐川急便の会長など京都政財界の面々と会食を2回ほどしたことがあるが、すごいお屋敷だった」

 「へえ~このお屋敷で総理と会食ですか~すごいですネ、今から行くお屋敷も元総理の西園寺公望公の別荘で今は公望公の何代か後の西園寺公一さんが所有のお庭ですが、当時のお屋敷は山県有朋の無鄰菴に移築されて長い間お庭だけが残り、今は南禅寺隠れ里として離れ風の小ぢんまりした山荘が3棟あります。その山荘は完全会員制で正会員の紹介がなければ会員にはなれないシステムになっています」
「そうですか?、で、里井さんは会員ですか?」
「はい、私のタクシーの貸し切りのお客様はすべてこの南禅寺隠れ里の会員です」

 さくらのタクシーは細川邸の裏側にあるお屋敷の門に入ったが、ここは高い庭木に囲まれて丸太町通りや南禅寺に抜ける観光道路の車の騒音も完全に遮断された空間になっていた。表門から砂利道を右折した所に3棟の平屋の山荘があり右端の山荘以外はシャッターが閉まっているが、さくらはシャッターが開いているガレージにバックでタクシーを入れた。

 部屋は6畳と8畳ほどの和室だが、奥の部屋の奥には窓いっぱいの窓があり、そこには地泉回遊式の池があり、その水面が窓の真下にありカルガモが数羽こちらを気にしながら泳いでいる。庭の借景には東山連峰の大文字山の大の文字が目の前に見える。6畳の部屋には応接セットと大きなテレビとデスクパソコン、8畳の部屋にはダブルベッドがあり、透明ガラス張りの大きなバスルームもあった。

 塚山は思わず、
「いや~静かで素晴らしい~ここならあの煩わしい本社の会長室で仕事をするより楽しくてアイデアがどんどん湧いて来る気がする」
「そうでしょ~先週もアメリカのGMモーターズの会長のご子息で次期社長に決まっているご夫婦にここを京都観光の合間の休憩の場所に案内したところ塚山さんと同じことをおっしゃっていました」
「何?…あのGMの社長ご夫妻を里井さんの小型タクシーで…京都観光???」
「そうですよ~小型タクシーは狭い道の京都の文化的な乗り物で省エネにもなります。それに狭い車内だとご夫婦の距離が近くてより愛を感じるともおっしゃっていらしたは~ホホホ」
「なるほど~それなら~私も会長専用車を止めて里井さんのタクシーを利用します~ハハハ」

 さくらは備え付けのコーヒーメーカーでコーヒーを入れてソファーに座っている塚山に出している。さくらも座ってから塚山に、
「さて、なんのお話から始めますか?」
「そら~里井さんの看護師からタクシードライバーにトラバーユした話を聞きたかったが、それより、里井さんがなぜ?GMの社長を知っているのかが知りたい」
「塚山さん、たった今からさくらと呼び捨てにして下さい。私も塚ちゃんと呼びます。分かった?塚ちゃん!」
「はい、さくら、分かりました~それにしても塚ちゃんと呼ばれるのは50年振りかな?」
「でも塚ちゃんは京都商工会議所の理事で京都経済同友会の幹事長もされて同じ経営者仲間との飲み会などの交流も幅広いのに?塚ちゃんは皆さんからなんと呼ばれているの?」
「そら~塚山社長とか塚山会長だが?」
「へえ~でも皆さんとは仲が良かったの?」
「私もそう思っていたが、いざ、京都商工会議所の会頭選挙に立候補宣宣言と同時に陰口で婿養子で会社を乗っ取ったとか、滋賀県の百姓出身だとか、成り上がりの女のパンツ屋だとか言われて立候補を断念した」
「あらら、それが悔しくて悩んでいたの?」
「アハッハ~さくら、そこまでズバリ直球で来られると返す言葉がない…」
「悩んで解決する問題なら悩んだらいいが、悩んで解決しない問題なら悩むことは損ょ!塚ちゃん」
「そか、それならもう悩みません~さくら」

 ここでやっとさくらに打ち解けたのか?塚ちゃんもさくらにズバリ直球の質問をしてきた。
「さくらは私をこんなラブホテルのようなベッドのある部屋になぜ案内してくれたの?」
 「あら!ラブホテルだなんて~西園寺公望公が怒りますわよ!、それに塚ちゃん?、あのベッドが気になるの?、まだまだ若いやん!なんなら、さくらと一緒にお風呂に入ります?なにも遠慮は要らないのょ!」
 さくらに返り討ちにあった塚山は古希とは思われないほどの可愛いい仕草で「さくら…ゴメン」と謝っていた。

 「ところで塚ちゃんは奥様と仲がいいの?」
「いや、もう40年も仮面夫婦を演じているが、離婚すればなにかと商売に影響があるとズルズル40年にもなってしまった」
「それなら奥様とのHは?」
「そんなものは社長の長男が産まれてから一度もない」
「へえ~それならどこかに女性を囲っているの?」
「それもない!」
「それなら性処理は自分で?」
「若い時はそれもあったが、なにせここ45年間は商売に夢中でフラワーをここまで大きくしてきた」
「へえ~まだ70歳と若いのに性的不能者になったの?塚ちゃん!」

 塚山はここまでさくらに質問攻めにあって、それに素直に答えている自分を発見して苦笑していた。それはそうだろう~たまたまタクシーに乗った運転手がさくらであって、それもまだ5時間ほどしか経っていないのに妻とのセックスの有無まで聞かれて正直に白状していたからだ。

 ここでさくらが、
「私は看護学校を卒業してから終末ケア専門のいわゆる老人病院の医療法人陽気日会観音病院に就職したの。その観音病院の看護師や介護士はほとんど女性で男性は1割程度しかいなかったの、入院患者は寝たきりやアルツハイマーや軽度の認知症が多くて食事の介護からトイレ、風呂まで看護師や介護士がしなければならないが、特に患者を風呂に入れるのには重労働でナース服では汗まみれになっていたの。そこで私は院長に風呂に入る時は水着で介護することを提案したらそれが許されて女性も男性の看護師、介護士も思い思いの水着でお風呂場で仕事をしたら、それが男の患者はもちろん女の患者までオオウケになったの。私の水着は真っ白のセクシーなビキニで患者さんの身体を洗ったりしていたが、それから男の患者も女の患者も看護師や介護士が各患者にリハビリや認知症改善のメニューを渡していたが、患者たちは率先してメニューをこなしてたった半年で天国へ旅立つ予定だった終末患者と思われていた5名が自宅や元の老人ホームに引き取られるほど病気が改善したの」

 これを静かに聞いていた塚山は、
「ほう~これはすごくいい話だ、私のフラワーでも老人福祉に力を入れているが、老人が元気になるという原動力の源とは性に関する色気、事柄が一番だと分かった、さくらありがとう。早速、会長のアイデアとして商品開発部に開発を命令するが、その続きは?さくら」
「はい、この老人サービスが噂になってこの病院の人気もうなぎ登りで入院を希望する患者も予約制になりそれも5年待ちになり、この病院に入院するまでは元気でいたいとジムに通ったり、ボケ防止教室に通ったり、80歳の老婆が英語教室に通ってたりで院長も看護師長ももっと患者が元気になる作戦のアイデアを病院職員に募集するようななったの」

「これはおもしろい!、自分が終末を迎える病院の予約の順番が来るまでは健康でいたいという願いの目標があるからなんでもに挑戦できる。私も京都商工会議所の会頭が目標だったが、さくらと一緒にいたらそんなことよりもっと大切なことがおぼろげに頭の中に浮かんできた」
「ところが有名な暴露週刊誌の「週刊文秋」に私が水着姿で患者さんの背中を流したり、患者さんと同じ浴槽に浸かっている写真が盗撮されて週刊誌の見出しには「過剰ピンクサービス老人ホーム」だとか「美人看護師のヘルスサービスで患者家族から苦情」なんて書かれて病院院長が辞職したの。その記事の2弾で全日本看護師協会の会長の意見として「看護師が水着姿で介護するのは看護師倫理に違反」するという記事を見て私も看護師を辞めてタクシードライバーにトラバーユしたの」
「そうか~でもさくらが看護師を辞めていなかったら私はさくらと知り合うチャンスがなかった…それに会長も辞職していた」
「あら!塚ちゃん本当にそう思っているの?それで私はタクシーに乗りながらボランティアでお年寄り専門のセックスカウンセラーを始めたの」
「ふむ…セックスカウンセラーとは…?」

 あら、塚ちゃん、そんな真剣な目でさくらを見ないで!その話はまた今度お会いした時にします。それにもう午後4畤前で私は入庫しなければならないの、塚ちゃんを送りますからどちらまで?」
「もうフラワー本社には出勤しないと決意していたが、本社の会長室で私の今後の生きる目標を模索して見るが、さくらまた私に会ってくれる?ハハハ」
「はい、いつでも私のタクシー貸し切り予約をお待ちしています」

 さくらはフラワー本社の玄関で京都商工会議所新頭取が出てくるのを待つ間に塚山誠一を最初にさくらのタクシーに乗せた12年前のことを思い出していた。
                                    (3話に続きます)

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