小説老人と性 里坊さくら苑 11話 MKタクシー値下げの陰 4 サービス満点・京都観光個人タクシー倶楽部発足

 里井は昨日孫娘のさくらと洋服の青山で買ったばかりのスーツとワイシャツとネクタイ、それにピカピカの靴で京都駅の八条口で客待ちをしていた。そして簡易の灰皿を手に持ちタバコを吸っていると顔なじみの個人タクシーの運転手が数名集まってきた。その運転手から、
「里井さん~えらいパリッとして観光の客の予約が入っているの?」
「いゃいゃ、これからMKに勝とうと思ったらまずカッコウから入れと孫のさくらから説教されて…アハハ」
「そらま~MKの制服はなにせ森英恵のデザインでデザイン料が200万やからね~そんなんには里井さん、勝てへんで…」
「まぁね~しかし、個人タクシーがMKより、サービスが満点ならMKとはいい勝負が出来る。そもそも、あのMKの青木会長は京都の個人タクシーの接客サービスを見習い追越せば必ず京都市民に愛されてMKの天下になると予言をしていたが、そうなった。だから我々個人タクシーの有志が反対にMKの接客サービスを見習い追越せば必ず全国の観光客に愛されて我々の個人タクシーグループの天下になると孫のさくらが予言したが、わしは孫を信じている」

 この里井の大演説はこの京都駅八条口や北口でも連日行われたが、里井の考えに賛同するものは極小数で反論する運転手が里井を見つけては反対のための論争を仕掛けてきた。その反論のほとんどが、
「MKは運賃が10%安いから市民に支持されているだけだ」になるが、この反論には、
「もし、貴方の大事な人が夜中に病気になったが、救急車を呼ぶほどでもないので近くのワンメーターぐらいの病院に行くためにタクシーを呼ぶが、どこのタクシーを呼ぶ?」
 この質問には全員がまず法人タクシーは呼ばない。次に知り合いの個人タクシーを呼ぶだが、もし、貴方が一般の市民なら?」
「そら~MKを呼ぶ…MKしかないだろう」
「それは運賃が10%安いから?」
「……………」
「私が個人タクシーの免許取得したころは夜中の急病や大事な家族の輸送には個人タクシーが一番安心だったが、その信用を取り戻すことが、すなわちMKに取られた客を取り返すことになる」

 里井のランチタイムは百万遍の京都大学近くのランチ喫茶「らんらん」の日替わり定食でもうかれこれ20数年は通っている。この店には里井と同じ個人タクシーのベテランなど15名ほどが客となり色々な情報を共有していた。ここの運転手は観光を得意としている運転手ばかりで最近流行りだした携帯電話をどのタクシー運転手より早く導入していた。その携帯電話に関東方面の観光客からいつ電話があっても京都駅に迎えに行けるように身なりは今日の里井と同じようにパリッとしていたが、普段の里井はさくらが指摘するだらしない方だった。

 その里井が、MK打倒にはまず服装から入らなければならないと駅などのタクシー乗り場で力説している噂は個人タクシー仲間では有名になっていた。ただこのランチ喫茶のメンバーはMK打倒などにはまったく興味はなく里井がいう京都観光客を増やす作戦にホームページを活用する大作戦には賛同している。

 この店のママの一人娘の静香は京都大学法学部の二年生でランチ時には百万遍の信号一つ渡った大学から店の手伝いに毎日来ている。その静香はノートパソコンを持っているので里井は静香にここの個人タクシーの仲間にMKタクシーのホームページを見せてやってくれと頼んでいた。里井もそうだが、携帯電話は持っているが、まだメールさえ出来ない連中ばかりでこの静香に皆んな教わっていた。

 里井はこの静香が産まれた時にはこの店の常連客で母親の愛子は静香を生んですぐに離婚していた。愛子は母親の店のママになり、静香は愛子の両親に育てられてきた。里井はこれらの母娘の境遇を見てきたが、まさか自分の娘が離婚して孫を自分が育てるとは当時は思ってはいなかった。その静香は愛子ママ似の色白美人で京大の学生や個人タクシーのおじさんのアイドル的存在だが、なぜか里井と気が合うのか里井が考えているMKタクシー打倒大作戦を一緒に考えてくれるという。そして静香とさくらが「サービス満点・京都観光個人タクシー倶楽部」のホームページを製作することになった。

 さくらが企画した「サービス満点・京都観光個人タクシー倶楽部」はとりあえず里井タクシー、駒井タクシー、新垣タクシー、山本タクシー、大塚タクシーの5個人タクシーで発足されて里井和博が理事長となり、4名が理事となった。静香はMKタクシーのホームページを参考にこの5名にテキパキ指示を出していた。まず5名の顔写真と各自のタクシーとともに撮った写真2枚だがこれは必ず携帯電話のカメラで撮って静香のパソコンに送ることだが、これとて静香に手取り足取り教えてもらわなくてはならない。

 次に各運転手のプロフィールと自己紹介だが、この書き方も静香にひな型を作って貰って書くだけだがかなり苦労していた。そして各運転手のお薦め観光スポットを3箇所書けという静香の命令だが、各運転手は京都観光のベテランばかりだが、それは口だけで各自のお薦めスポットを自慢げに静香に話をしているが、静香は、
「はい、里井さんの推薦する「鈴虫寺」は私も一度は行きたくなりましたので、今、私に説明したことをそのまま書いて下さい」とかなり冷たくあしらっていた。それは静香もMKタクシーの値下げで京都のタクシー運転手の悲惨な状況を知り尽くしていたからで、ここのメンバーが必ずいずれMKに取られた客を取り返すと信じていたからこそMKの運転手に負けないあらゆることを学んでほしいという希望があったからだ。

 この口だけ達者な個人タクシー運転手だが、これが里井の指示命令ならとっくに、
「個人タクシーは一国一城の主で誰にもわしに命令はできない、なんで今頃、こんな書き方を勉強しなあかんのや~アホらしい~辞めます」になるが、この母子家庭の静香の成長を個人タクシーの運転手が見守り、高校入試の心配や京都大学の試験に合格の喜びを我が孫のように思っていた静香が今度は個人タクシーのために働いてくれることに感謝をしても裏切ることはできないからこの5名はランチ時には必ず集まり接客サービスや京都観光の勉強をしていた。

 こうして各5名のプロフィールに自己紹介、お薦めの観光スポットの原稿や関連写真は静香に集められてその資料はさくらのパソコンに送られてさくらかホームページに掲載していた。まだこの時期はパソコンはそんなに普及はしていなくてホームページへの誘導はアナログ的なビラ、チラシが有効だとさくらは考えてチラシを1万枚印刷して会員が乗せた乗客やタクシー乗り場、それに観光地で観光客に配布する作戦をした。これはパソコンよりもすぐに効果があり、たまたま乗せた観光客を駅から近いホテルまで輸送する途中でチラシを見せて乗客に、
「5人で「サービス満点・京都観光個人タクシー倶楽部」を運営しています。その写真の真ん中は私です。裏面には私の携帯番号、プロフィール、料金、それに会のホームペーのURLと検索方法もありますからまた宜しくお願いいたします」
 と宣伝していたが、観光案内をしてくれるのが目の前の運転手で言葉使いも丁寧で身なりもパリッとしているので安心したのか、その夜には昼間乗せた客からの明日の京都観光貸切りの予約が少なくあった。

 さらにさくらは京都のタクシー運転手が最も嫌う駅から近いホテルの乗客には親切丁寧に接客して必ずホテルに着いたらドアサービスする、もしドアボーイかいても必ず降りて挨拶することを決めていた。これは最もサービスを重要視するホテルへのアッピールのためでここでもボーイに観光倶楽部のチラシを手渡していた。そのタクシーが明くる日の朝にはホテルに泊まった客を玄関で待っている光景はホテルの上層部までも驚かせていた。

 まだホームページは表紙だけで「工事中」とあり、秋の観光タクシー予約は9月20日からと記載で完成はしていなかったが、全国紙の小林記者から13歳のさくらが祖父ら個人タクシー運転手の悲惨な状況をなんとかしょうとホームページと京都観光個人タクシー倶楽部、それにNPO法人の立ち上げる課程とそれに協力している京都大学法学部二年生の静香に取材依頼があった。さくらは夏休みで毎日のように観光客接客サービスと京都観光、それに一般常識の勉強会をしている百万遍のランチ喫茶「らんらん」で静香と観光倶楽部理事5名ともに取材を受けることになった。

 記者は小林記者と女性記者の吉川春江、それにカメラマンで取材は6時間にもなりその時の記事は明後日の8月25日の朝刊の全国版と決まっていた。その25日の朝にはその全国紙を購読している会員は新聞配達員より早く家の前で新聞を待ち、さくらと爺ちゃんは3時には新聞配達店の前で新聞を乗せたトラックの到着を待っていた。
                                       (12話につづく)

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