その腕の中で眠りたい ◇19 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちら↓

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■ その腕の中で眠りたい ◇19 ■





 そして結婚式前日の午前中。

 蓮とキョーコは、ロサンゼルス国際空港で招待客を出迎えた。



 日本から招待したのは、琴南奏江、天宮千織、社倖一と、LMEの社長であるローリィ宝田、そして、陰で蓮を支えてくれていた美容師のジェリー・ウッズのみである。


 到着便にキョーコの母の姿はなく、やはり一抹の寂しさを覚えたが、そう約束したものね、とキョーコは自身に言い聞かせた。



「「「 久しぶり~!! 」」」



 約ひと月ぶりの再会である。

 特に空腹感も無いというので、デュリスが手配してくれたリムジンバスに全員で乗り込み、ロサンゼルスの街並みを楽しみながら、招待客用滞在場所としてクーが用意してくれた海辺の家に向かった。



 そのレンタルハウスは、バスルーム付きのベッドルームが7つあって、全員が集まって過ごすことが出来る広いリビングダイニング、海を眺めるサンデッキ、温水プールとヨット用桟橋までついている、何とも豪華な4階建て。


 もちろん大きなキッチンもついていて、冷蔵庫には一通りの食材を詰め込んであった。

 滞在中の食事はそれで賄ってもらうのである。



「 わあ、すっご、ひっろ~い 」


「 なんだかすごく贅沢ね。一部屋にベッドが二つずつ付いているなんて 」


「 相部屋でも、個室でも自分で選べるようにって 」


「 見て、窓から海が見えるぅぅぅ 」


「 キョーコちゃん、おめでとう。式は明日だけど 」


「 ありがとうございます、社さん。今日は式のリハーサルとリハーサルディナーがあります。みなさん、どうぞよろしくお願いします 」


「 こちらこそ 」



 アメリカの結婚式は、日本のように結婚式と披露宴だけが行われるのではない。


 アメリカでは、結婚式前日に結婚式そのもののリハーサルが行われ、式の流れを確認したあと、リハーサルディナーが開かれる。

 ディナーに招待されるのは牧師やブライズメイド、グルームズマンを務めてくれる友人などで、結婚式当日は忙しい新郎新婦と独身最後の時間をゆっくりと過ごすのである。


 ちなみにリハーサルディナーは結婚式当日の食事内容と一緒ではなかった。場所もレストランなどで行われる。

 クーはレストランに前菜からデザートまでを大皿で提供するよう依頼をし、各自が自由に取り分けるスタイルを選んだ。そうすることでゲストが気楽に席を離れることが出来るように心配り、キョーコや蓮と自由に写真が撮れるようにしたのだ。



 そして翌日。

 結婚式当日は、準備が大変なのは新婦であるキョーコだけで、その他の者はおおむね自由に夕方の式までの時間を過ごした。


 結婚式場はクーが用意してくれた、と聞いていたこともあって、てっきりチャペルなのだろうとキョーコも蓮も考えていたのだが、意外なことに結婚式場はプランテーション・ガーデンの一角だった。


 プランテーションとは、大規模農園のことである。

 現在は観光客に開放され、観光地となっている所が多いのだが、歩いて見て回れるような広さでは到底なかった。



 そんな広大な自然の中で、二人の結婚式は執り行われた。



 南部の風が吹き渡り

 ガーデンの自然に見守られながら


 真っ白なドレス姿の花嫁キョーコはどこから見ても美しく気高く


 並んだ黒のタキシードで決めた花婿の蓮は颯爽としていて


 二人が式場に現れると

 周囲を取り囲むように集まっていたクーやジュリの友人一同が、二人に盛大な拍手を送った。


 その尋常ではない人数に二人は悟った。


 なぜ自然の中での式なのかを。



 結婚式の参列者を決めるのは新郎新婦である。

 つまりクーやジュリは自身の友人たちを正式に招待出来ない。


 それでも、息子の晴れ姿を彼らに見せたかったのだろう。それ故、自然の中での結婚式を選んだのだ。



「 私、久遠・ヒズリは、キョーコを幸せにすると誓います 」



 牧師の言葉のあと、誓いの言葉を宣誓し

 誓いのキスを捧げた二人の式は30分とかからず終了した。


 キョーコのウォーキングは完璧で

 全治3ヶ月であることなど、恐らく誰一人気づかなかったに違いない。


 式の直後にブーケトスがなされた。もちろんブーケは争奪戦。


 二人の結婚式は実にアメリカらしい

 清々しく開放的なものだった。



 さて、問題はこの後である。


 アメリカでは、結婚式のあと少しの間をおいてディナーパーティ、つまりレセプションが幕開けとなる。


 ディナー会場は式場の隣のガーデンに設けられ、芝生の上に透明なテントで大きな会場がいくつもいくつも作られていた。

 中央にはダンスフロアも設けられている。


 アメリカでは日本とは異なり、両親や兄弟姉妹、祖父母など、血が近い親族ほど新郎新婦に近いテーブルに配置となる。

 逆にゲストたちは遠くなるのだが、二人の招待客は少なく、またキョーコに限っては血縁者の列席すらなかったため、日本から招かれたゲストたちは親族と一緒の特等席に座ってもらった。

 末席を埋め尽くしたのは、外野から結婚式を見届けてくれていた、クーやジュリの友人たちである。



 レセプションの始まりは、新郎新婦の入場が合図となった。


 新郎新婦によるファーストダンスはアメリカの結婚式では欠かすことが出来ないもの。

 過去にはレセプションの終盤でダンスをすることが多かったらしいが、最近は最初に踊るのが主流だ。


 キョーコの体調に合わせ、二人はゆったりとした曲で華麗にワルツを舞った。



 多少の痛みを覚えても、絶対にやり通すとキョーコは決めていた。

 頑張るしか自分には出来ないと思ったからだった。




 ――――――― え?


「 それ、本当ですか? 」


「 ああ、だがさっきも言ったように気にしないで欲しい。黙っていようとも思ったのだが、第三者から事実を聞かされるよりはわたしたちから言っておいた方がいいと考え、いまこの話をしたのだから 」



 デュリスが約束を果たしてくれた美味しいディナーの最中に、キョーコはクーからある告白をされていた。

 それは結婚式の費用に関することだった。


 日本でもアメリカでも、結婚式に相当の費用がかかるのは変わらないらしい。


 しかし特にアメリカでは、新郎より新婦側の負担の方が大きく、リハーサルディナー以外の全ての費用は新婦サイドが負担するのが通常だという。


 つまり、ゲストたちが宿泊するレンタルハウス、式場設置費用、神父様の手配、レセプションディナーパーティ会場設置費用および土地レンタル代と、当日そこでディナーを振る舞ってくれるシェフの手配及び飲食にかかる材料費に至るまでの全てを、新婦が負担するのが通例だと教えてくれたのである。



 この話を聞いたとき、さすがのキョーコも息を飲んだ。

 それは一体いくらかかるのだろうか。


 支払いに関しては一切気にしなくていい…とクーは言ったが、気にならない方がどうかしていた。

 キョーコが戸惑わないはずがなかった。



「 すみません、私、何も知らなくて!!折半するものだとばかり思っていたんです!!あの、少しずつ、少しずつですが必ずお返ししていきますので 」


「 違う。いいんだ、キョーコ、本当に 」


「 でもそういう訳にはいきません! 」


「 違うの、キョーコ。そんなことがして欲しくて告白した訳じゃないのよ。あなたに隠し事をしたくないから言っただけ。だってね、キョーコ。私たちは、キョーコにとても感謝しているの 」


「 か…感謝…? 」


「 そうだ。久遠が立ち直れたのも、久遠が久遠としてわたしたちの元に戻って来てくれたのも、全てキョーコのおかげなのだ。それを心から感謝している。

 なのに、わたしたちはやっと母親と和解出来たキョーコを、結婚という形で母親から引き離そうとしているんだ。それを本当に申し訳ないと思っている。だが、やはり久遠のそばに居て欲しいんだよ 」


「 コーンとの結婚は、私自身が望んだ事です! 」


「 ありがとう。その言葉が一番嬉しい。そしてだからこそ、余計に判って欲しい。わたしたちがキョーコにしてやれることは、こんな事でしかないんだ。それを奪わないで欲しい 」


「 でも… 」


「 キョーコ 」


「 コーン 」


「 頑なになる必要はないよ。だってそうだろ?君にとってクー・ヒズリは、もう君の父親だっただろう?3年前から、それを覚えているだろう? 」


「 それとこれとは… 」


「 あ、そうか!そうだったな、そうだった。だから新婦の父親であるわたしが負担をするのは当たり前のことなのだ。なんだ、そうじゃないか。な、キョーコ!悩む必要などない! 」



 そもそも全て二人に相談せず、勝手にこちらで手配してしまったのだし…と、クーは続け、結果としてキョーコが言いくるめられる形でこの話は終わってしまった。



 もう蒸し返すことは出来ない。そんな失礼をしてはいけない。


 ならば自分が出来ることは、その恩に報いるために

 やると決めたことを、こなすだけ。



 有難いことに、デュリスが万全のバックアップを敷くからとそのとき約束をくれていた。

 ここで万が一キョーコの体調に異変が出ても、医者が待機してくれているのだ。心配はいらない。



 だが、そもそも不安などは必要ないものだったらしい。

 ダンスフロアに出てすぐ、キョーコはそう思った。


 ダンスの練習が出来たのは昨日だけ。

 しかもたったの1時間だけだったが

 蓮のリードは今日もしっかりと安定していて、それが何よりも心強く、また頼もしかった。

 キョーコは安心して、全てを蓮に任すことが出来た。



 BGMの終了とともに

 大きな歓声がレセプション会場に轟く。

 キョーコは大きく息を弾ませると、つつましく礼を捧げた。




 以降の流れは、日本の披露宴とほぼ同じ流れである。


 食事をしながらスピーチをもらい

 歓談しながら式の余韻を味わう。


 そして一通りの食事が落ち着いた頃、キョーコが席を外した。


 お色直しである。


 その間、ゲストはフロアでダンスを楽しむ。または飲み放題のアルコールを嗜む。

 お祝い事は心から楽しむのが鉄則なのだ。


 しばらくして

 ドレスを着替えたキョーコが会場に戻ると、どこからかピアノが運ばれてきた。


 本来なら、新婦としてのスピーチをすべきなのだろうけれど、気の利いた事を自分が言えるとは思えなかったから、キョーコは歌を捧げることにしたのだ。



 弾き語りが出来たらカッコ良かったのかもしれないが、残念ながらギターは松太郎のを見たことがあるだけで、自分で演奏などした事が無かった。

 かと言ってアカペラは勇気がいるし・・・と悩んだら、ピアノなら俺が出来るかも、と蓮が手を上げてくれたのだ。


 新郎のピアノと

 新婦の歌でのおもてなし。



 キョーコが選曲したのは、衝撃的な引退を果たした日本の歌姫の曲だった。


 日本語訳で 『 ついに 』 というタイトルが付いたその歌が、ふとキョーコの脳裏に浮かんだから。



 アイコンタクトを交わしたあと

 静まり返った会場に

 軽やかなピアノの音色とキョーコの声が

 夜風とともに鮮明に響き始める。



 その歌詞は


 二人のこれまでの努力と

 頑張りと

 歩みを語り


 そして互いに惹かれ合い

 ようやくこの日を迎えることが出来た二人の心、そのもののように聞こえた。



 歌声にはその実感が込められていた。

 キョーコの想いはきっと歌に聞き入った総ての人に届いたに違いない。


 なぜなら、日本語が判らないはずの人たちでさえ、キョーコの歌声を聞いて、感極まっていたから。



 食事が終わり、酔いが深まって来た頃、それぞれがそれぞれのタイミングで帰るのもアメリカ流。


 それでも多くの人々はそこに残り

 二人のレセプションパーティは、夜遅くまで盛り上がった。






 ⇒◇20 に続く


すみません、19話で終わりませんでしたぁぁぁ。もう一話お付き合いください!



⇒その腕の中で眠りたい19・拍手

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