いつもありがとうございます、一葉です。
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繰り返しになりますが、このお話は45巻に収録されるACT.273のネタを含んでおります。コミックス派でネタバレ回避お嬢様は45巻発売後にお付き合いください。なお、閲覧は自己責任でお願いいたします。
前話こちら↓
■ その腕の中で眠りたい ◇8 ■
沈鬱になっている場合じゃない…と、蓮は顔を上げた。
「 ……ありがとう。本当にありがとうございました 」
キョーコの落下を一部始終目撃していた彼とティナが自分の前から去ったあと、蓮は気丈な様子で電話を持った。
コールの相手は父である。
きっと留守録に入れることになるだろう、と蓮は予想していたのだが、意外にもクーはワンコールで蓮の電話に応じた。
『 久遠か?! 』
「 …驚いたな。仕事中なのに出るなんて 」
『 驚いたのはわたしの方だ。どうした? 』
どうした、と訊ねられて一瞬だけ言葉に詰まった。
だが蓮は平静を装う。
先日、悲しい思いを味わわせたばかりの父に、キョーコがこんなことになってしまったと伝えたところで余計な心配をかけるだけだと思ったし、話したところで事態が好転するわけでもないと考えたからだった。
「 実は、お願いがあって電話したんだ 」
『 お、なんだ、何でも言っていいぞ 』
「 ありがとう。まず明後日のことなんだけど、そっちに行けなくなった。ごめん 」
途端にクーの声が曇った。
『 …っ…どうしてだ、久遠?キョーコと二人で顔を見せに来ると約束してくれていたのに 』
「 ごめん、本当に。キョーコの都合が悪くなってしまったんだ。最初は俺一人だけでも…とも考えたんだけどキョーコと離れる訳にはいかなくて…。そっちに行ける目処がついたらすぐ連絡するから 」
『 なんだ?都合が悪くなったって何があったんだ?まさかキョーコの母親に何かあったのか?確か日本を発つ前に親子でテレビ出演したんだよな。和解したはずの母親と何かあったのか? 』
そうなのだ。
LAに来る少し前、キョーコは実の母親である最上冴菜とある番組に出演していた。
出演の目的はキョーコへのご褒美で
一人前の女優になれたら頭を撫でてもらえる…という、以前母親に約束してもらっていたそれを番組内で叶えてもらうというもの。
当初、冴菜は出演をひどく嫌がっていたのだが、結婚式に参列しなくてもいい…という条件と引き換えに渋々承諾してくれた。
それでも、キョーコはよほど嬉しかったのだろう。
母親からいい子いい子をされて目にうっすらと涙をためたキョーコは本当に嬉しそうに笑っていて、見ていた蓮が激しいヤキモチを覚えるぐらい幸せそうだった。
本当に。幸せしかなかったのに……。
「 ……いや、違うよ。元気そうだったし、元気だと思う。ちゃんと笑顔で送り出されたし。その辺は心配しなくていいよ 」
『 じゃあ、何なんだ? 』
「 ごめん、ちょっと今は言えない事情なんだ。それで、一つお願いしたいことがあるんだけど 」
待ち望んでいた息子からのお願いに、クーは一段も二段も声のトーンを弾ませた。
『 お願い?!いいぞ、何でも父さんに言ってみろ。出来る限りの願いをかなえてやるぞ。一つと言わず、二つでも三つでも! 』
「 くす、ほんとに?気前良いな。でも今は一つでいいよ。実は、キョーコのウエディングドレスをお願いしたいんだ。結局、色々な所で探したんだけど見つからなかったから 」
『 なんだ、そんなことか。いいぞ、いいぞ。それで?どんなドレスをキョーコに着せたいんだ? 』
「 俺が着せたい訳じゃないよ。言っただろ。キョーコが着たいって言っていたデザインがあるって。それが少し特殊で、やっぱりオーダーメイドじゃないとムリって判ったから 」
『 なんだ、そうか。もちろん大丈夫だ、父さんがどんなデザインのドレスでも実現させてやる。とは言え、父さんが作る訳じゃないけどな。いいぞ、久遠、言ってみろ 』
クーが明るい声で胸を叩く。
有難いな、と本気で思った。
このときの蓮は、キョーコの希望を叶えてやる事だけを念頭に置いていた。だから、出来上がったウエディングドレスを見て自分が何を思うのかなんて一切考えていなかった。
このときその配慮があったなら、きっと違う結果になったのだろう。
「 …っていうドレスなんだけど 」
『 いいぞ、分かった!キョーコが泣いて喜ぶようなドレスを絶対用意してやるからな!!父さんに任せておけ 』
「 ありがとう。キョーコにそう伝える 」
そして蓮はクーとの電話を切ったあと、今度はデュリスに電話を掛けた。
表向きは4つ星ホテルの手配をしてくれたお礼と、お祝いのワインのお礼だったのだが、蓮の本音は他にあった。
意外なことにデュリスも、蓮のコールに即座に応じた。
『 久遠?! 』
「 ハロー、グランパ? 」
『 どうした、まだ明るい時間のうちに電話を寄こすなんて、珍しいじゃないか 』
「 ちょっとね。時間が出来たから 」
『 そうか。どんな理由でも思い出してもらえたのなら嬉しいぞ。ちなみに、クーの所には電話をしたのか? 』
「 うん、さっき。…っていうか、一昨日あたりに父さんから電話が来て、なぜ到着したと知らせないんだって怒られたよ 」
『 ははぁ。子供っぽいヤキモチだな、いい大人だというのに。だったらな、久遠。私がホテルとワインの手配をしたことは永遠に内緒にしておいた方がいいぞ 』
「 くすくす。そうしておきます 」
なぜか少しだけ心が和んだ。
もしかしたらそれは、これからしばらく笑顔になることはないだろう…という予感がそうさせたのかもしれない。
「 それで、そのホテルの件なんだけど 」
『 ん?どうした? 』
「 事情があって延長しようと思っているんだ。もちろん延長分は自分で支払うけど、その連絡がホテルから行くかもしれないことを了承しておいて欲しいと思って 」
『 延長?……そんなのは構わんが。どうした? 』
このときも一瞬、蓮は言葉に詰まった。
なぜこんな事になってしまったのだろう。それを考えると胸が痛かった。
だが、しょげている時間は無いのだ。
いまこの地でキョーコを守れるのは、自分しかいないのだから。
「 グランパ。事情は後で話すから、お願いしたいことがあるんだ 」
『 なんだ?クーじゃなくて私でいいのか 』
「 ごめん。勝手だけどグランパにお願いしたい。父さんにはなるべく心配をかけたくないから 」
『 ……っ…それは、クーより私を信頼しているという意味だな?いいぞ、久遠。私に何をして欲しい? 』
「 人を……探して欲しい 」
『 人?誰だ 』
「 一人は筋力アップに詳しいトレーナーを。出来れば専門的な知識を持っている人で、リハビリなんかにも詳しい人ならなおいい。見つかり次第、連絡が欲しい 」
『 筋力アップ?何か知らんが分かった。…で?一人は、と前置きしたということはまだ探して欲しいのがいるんだろ?誰だ? 』
「 いる。もう一人。女を探して欲しい 」
『 女?ずいぶん物騒な言い方をするな。どうした?キョーコとの結婚前に整理したい過去の女でも思い出したのか 』
デュリスはわざと茶化したが、それに蓮は冷ややかに答えた。
「 整理したい女じゃない。始末したい女だ 」
『 しまっ?!それはどういう…っ!! 』
じゃあ、よろしく…と続けた蓮は詳細はあとでと告げて、デュリスの返事を待たずに通話を切った。
自分が今どんな顔をしているかなど判っていた。
ティナに再会したばかりでこんな感情を抱くなんて愚かだと判っている。
それでもキョーコをこんな目に遭わせたあの女を、心の底から憎く思う気持ちを止めることなど出来なかった。
改めて実感する。
自分を見射るティナの眼の鋭さの理由を。
自分はそれだけのことをしたのだ。
そしてあの女もまた
そういう事をしでかしたのだ。
⇒◇9 に続く
蓮くん、こっわ!!
⇒その腕の中で眠りたい◇8・拍手
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