その腕の中で眠りたい ◇9 | 有限実践組-skipbeat-

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こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


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 弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、つねごろ様からお与かりした記念リクエストをお届け致します。


 何度も繰り返しますが、こちらは原作のネタバレを含んでおります。45巻に収録されるだろうACT.273の他に、この先ACT.278のネタもお話に盛り込む予定です。

 ネタバレ回避お嬢様は自己責任で閲覧をお願い致します。



 前話こちら↓

 【18】



■ その腕の中で眠りたい ◇9 ■





 病室で眠りに就いているキョーコを残し、一旦蓮はホテルに戻った。

 宿泊延長を決めたのはキョーコが運び込まれた病院がこのホテルと近かったというのが理由だが、蓮の本音はそれとは少し異なっていた。



「 延長でございますか、ありがとうございます。確認いたしますので少々お待ちください 」



 4つ星ホテルのジュニアスイートに先の予約が入っていないなどあるだろうか。

 厳しいだろうな…と予想していたのだが、フロントの返答は了解しましたという快いもので、蓮は胸を撫でおろした。



「 どのぐらい延長なさるご予定でしょうか? 」


「 ……最長で一ヶ月ぐらい、お世話になるかもしれないです 」


「 かしこまりました。ごゆっくりご滞在くださいませ 」



 ありがとう・・・とお礼を告げ、その場で蓮は延長分の支払い手続きを済ませた。以降、こんなことに気遣いをしている余裕などなくなるだろうという予感からだ。


 その後、一人で部屋に戻った蓮は、ドアを開けた途端に出迎えてくれたキョーコの残り香を嗅いで胸を震わせた。



「 ……っ…!! 」



 もっと思慮深くあるべきだった。

 なぜ自分はそれを怠ってしまったのか。


 雑踏の中で感じた視線に神経を尖らせたはずなのに。

 確かに自分たちを見ていた人影が先日のそれと同一人物かもと思ったのに。


 人類のるつぼと評されるこの地で、興味本位から自分たちに目を向ける人々とはどこか違うと感じた視線。

 この地で自分たちを知っている者などほぼ居ないはずなのに、その中で見つめられているという状況の異質さになぜ自分はもっと真剣に向き合おうとしなかったのか。



 後悔しても遅すぎだと判っていたが、それでも考えずにはいられなかった。




 身を投げ出すようにベッドに倒れ込んだ蓮は、ふと首を捻った。サイドテーブルに置きっぱなしになっているキョーコの荷物を眺める。


 全身を包んでくれるキョーコの香りを感じながら、蓮は目を細めた。



 良かった…。

 延長出来て、本当に。



 たとえ延長出来なかったとしても、移動した部屋からキョーコの元へ通うつもりではいたけれど、出来ることならこの部屋から移りたくなかった。


 持ち主が不在のまま、この部屋で主の帰りを待っている荷物に手出しをしたくはなかったし、そもそもこの部屋を出たあとで向かう先は両親の元だと決めていた。

 こんなことにはなってしまったけれど、たとえ回り道になったとしても、いずれ回復するキョーコと二人でちゃんとその日を迎えたい。この部屋から出発したいのだ。



 蓮は祈るように瞼を伏せた。そのときふと、足元に振動を感じ、不思議に思いながら上半身を起こした。

 視線を投げてすぐ理解した。振動の正体は携帯電話だった。恐らく乱暴に横になった時に投げ出されていたのだろう。



 発信者はデュリスで、蓮は慌てて通話を繋げた。



「 Yes、グランパ 」


『 久遠、見つけたぞ、筋力専門のトレーナー。それで、どうすればいいんだ? 』


「 ありがとう、本当に。その人、いつからなら平気かな。出来ればなるべく早くこちらに来てもらえたら有難いんだけど 」


『 …お前がいるホテルに向かわせればいいのか?それで、どういう経緯でそういうお願いが出て来たんだ? 』


「 もちろん話すよ、何があったか。もう一人、探して欲しい女に関係があることだし 」


『 探して欲しい女?違うだろ、久遠。始末して欲しい女なんだろ? 』


「 ……フッ。そんなこと、改めて復唱しないで欲しいんだけど。それに、グランパにしてもらおうとも思ってないしね 」



 冷淡な嘲笑を浮かべた蓮は、明瞭な口調で何があったのかをデュリスに伝えた。


 LAに到着した翌日にはその人物の視線を感じていたこと。

 その翌日にも姿を見た気がしていたこと。

 2~3日の間があったことで気が抜けてしまっていたことも、今日バンジー場で起こった悲劇も蓮は包み隠さず全てをデュリスに告白した。


 話を聞いたデュリスはとても驚いた様子だった。



『 …まさか、信じられない。本当にそんな事をしたのか?その女性が 』


「 間違いない…と思う 」


『 だが、久遠。バンジー場の手すりって言ったら結構な高さがあるだろう。なのに女性が一人で女性の足を持ちあげて柵の向こうに落とす…なんて芸当がそんな簡単に出来るか?だいたい、キョーコだって抵抗もせずに落とされる訳がないだろう。それに、周りには沢山の人がいたんだろ?助けを求めることだって出来たはずじゃないか 』


「 …っ…そうだね。言われたら確かにその通りなんだけど。正直そのからくりは判らない。でも、キョーコが落とされたことだけは事実なんだ。けど、ごめん。信じられないっていうのなら聞かなかったことにして、どうかこの件は忘れ… 」


『 待て、久遠!お前を信じていない訳じゃない!とにかく、私がお前の言うその女を探してやる。だが、いいか?決して早まったマネはするな。お前、分かっているよな?お前はもうただの久遠・ヒズリじゃない。敦賀蓮でもあるんだ。早まったマネだけは決してしてくれるな! 』


「 ……わかって、ます 」



 蓮は苦々しく固唾を飲み込んだ。


 そうだ。もう自分はクー・ヒズリの息子というだけじゃ済まない立場にいるのだ。



 敦賀蓮は、今や日本を代表する俳優の名でもある。

 この名を汚すことは今まで関わってくれた全ての人を裏切り、その好意に泥を塗ることになると同時に、今まで自分がしてきた全てのことを意味なきものにしてしまうかもしれないのだ。



 そんなことは分かっている。分かっていたつもりなのに。


 でも自分は、その前にキョーコのコーンなのだと思った。



 一人の男として、キョーコを心から愛しているただ一人の……。




『 ……久遠? 』


「 …はい 」


『 トレーナーからいま返信が来た。明日朝9時、そちらのホテルに行くとある 』


「 ありがとうございます 」


『 ところで、病院には許可をもらっているのか? 』


「 貰わないとダメでしょうか 」


『 ふ…。いいよ、そういうのは私が手をまわしておいてやる。そうだよな。キョーコ、かなり頑張って身体を鍛えていたんだろ?私もその話はアルジから聞いていた。物凄く頑張っていると 』


「 ……本当に頑張ってくれていました。一切の妥協もせず。無駄な所なんて一つも無いんですよ 」


『 ああ、それだけに残念だ。どんなに時間をかけて育てた筋肉でも、使わなければあっという間に落ちてしまうからな 』


「 冗談じゃない。俺はそれに抗います。キョーコのためにしてやれることはほんの少しかもしれないけど、1%でも2%でもそれを食い止めることが出来るのなら、俺はキョーコのために自分が出来ることをします 」


『 ああ、よく分かった。トレーナーにもそのことはちゃんと伝えておく 』


「 ありがとうございます 」


『 久遠。ビジネスライクにお礼を言うのは止めて欲しいな。おじいちゃん、ありがとうって言われた方が私は嬉しいのだが 』


「 ……ありがとう、グランパ 」


『 うん、うん。それで、探して欲しい女のことだが、写真はあるのか?元女優なんだろ? 』


「 俺は持っていません。けど、社長に問い合わせればすぐ手に入ると思います。当時のものになるかと思いますが 」


『 当時の…な。だが3年も経っているんじゃ顔つきだって変わっているだろうし… 』


「 その心配はいりません。あの頃と何も変わっていませんでしたから 」


『 ・・・・・それ、本当に同一人物か?いくら何でもそれは無いだろう、久遠。3年だぞ?ましてやキョーコと同じ年なのだろう?その子は 』


「 俺も最初はそう思いました。だから、気のせいだと自分に言い聞かせてしまったぐらいです。

 3年もの月日が流れているのにその頃と全く変わった所がないなど、むしろあり得ないじゃないですか 」


『 …ふむ。それで、その元女優の名前は何だって?もう一度教えてくれるか 』


「 ――――――― 森住仁子。以前、キョーコを二人がかりでテナントビルの踊り場から投げ落とそうとした、死に神級の女です 」



 途端に蓮は自嘲した。


 こんなセリフ、ティナが聞いたら大笑いするのだろうと思った。






 ⇒◇10 に続く


蓮くんの愛情は偉大なり



⇒その腕の中で眠りたい◇9・拍手

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