その腕の中で眠りたい ◇18 | 有限実践組-skipbeat-

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■ その腕の中で眠りたい ◇18 ■





 蓮とデュリス、そして仁子が乗った車が出て行くのを見送ったキョーコの肩を、ジュリが優しく抱き寄せた。



「 キョーコ、体はもう平気なの? 」


「 はい、平気です。あばらが折れているのと、まだ体のあちこちに痣とか傷とかがあるので痛み止めが切れると歩くだけで辛いときもありますが。薬が効いていてくれれば何も問題はありません 」


「 そう。まだまだ無理は禁物ね。でも良かったわ。とても心配していたから 」


「 あの、すみませんでした!!お約束を守れなかったばかりか、ご心配までおかけして! 」


「 そんなのはいいのよ。それより、仁子が家にいるのを見てとても不快に思ったでしょう?でも許してね。それしか思いつかなかったの。あの子をこの家に縛り付けておくことが、きっとキョーコを守ることになると私たちは考えたのよ 」


「 私、正直に言うとびっくりしました。だってまさかお二人に真相を知られていたなんて思いもしませんでしたから 」


「 あら、ふふふ。ですって、クー 」


「 まぁ、そう思われるような状況を意図的に作っていた訳だから、むしろバレバレではこちらの面目が立たないのだが。しかし久遠も驚いていた所を見ると、わたしたちがまんまと仁子に騙されているとでも思っていたか 」


「 本当にすみません!!でも、そうじゃなかったって知った瞬間に良かったって思いました 」


「 うん? 」


「 最初からご存知だったのであれば、騙されたと知ってお二人が傷つくことは無いんだって。だから良かった…って 」


「 そうか。相変わらずだな、キョーコは 」


「 さ、いつまでもこんな所で立ち話をしていないで、中に入りましょう。クー、キョーコも。

 実はキョーコに是非!見せたいものがあるのよ。ね、クー! 」


「 ああ、あれは今世紀最大の傑作だからな 」


「 ? 」


「 さー、行きましょ、行きましょ 」



 二人に導かれてキョーコが向かった先は、ホームゲストスイートと呼ばれる部屋だった。

 スイートというだけあって部屋の中にはベッドはもちろん、バスとトイレもついていて、窓際には座り心地の良さそうなソファも配置されていた。


 そのソファのすぐそばに、キョーコが夢で見たウエディングドレスが佇んでいた。



「 …っ!!うそ…… 」


「 どうだ、美しいだろう?キョーコの望み通りになっているかな? 」


「 うそ、信じられない。夢で見たドレスそのままです。シルエットはマーメイド。でも背中が大きく腰辺りまで開いていて、両肩が出ていて、膝下が丸見えのスカート丈で・・ 」


 後ろから見ればスカートはロングドレスで、レースがふんだんにあしらわれ、スカートの裾まで長く伸びている。


 クーが用意してくれた真っ白なウエディングドレスの生地には光沢があり、それが庭にあるプールの水面に反射した太陽光を一身に浴びて、まぶしいほどキラキラと輝いていた。



「 なんて、なんて素敵… 」


「 でしょう?私もそう思ったのよ。クー、やるじゃない!ってね 」


「 本当にすごいです。嬉しい!!ありがとうございます!! 」


「 結婚式が楽しみね、キョーコ!!このドレスを着て、あなたは私の娘になるのよ。その日が待ち遠しいわ。

 もし痣や傷が見えてしまう様なら特殊メイクで隠してしまいましょう。久遠とあなたの晴れ舞台だもの、素敵に仕上げなくちゃ 」


「 ありがとうございます。でも、もし傷が見えたとしても私はそれを隠すつもりはありません 」


「「 え? 」」


「 今回の件でついた体の傷の全ては、私がコーンを守るためについたものです。

 成功した、とはとても言い難い回避方法でしたが、それでも、私にとっては勲章なんです。こんな私でもコーンを守れた。それを隠すつもりはありません 」


「 キョーコ… 」


「 大丈夫です!そんな傷、きっと皆さんの目に映らないぐらい完璧にウォーキングしてみせますから!!だって私、女優ですからねっ 」



 自分でドンと胸を叩いたくせに骨折部に響いたのだろう、眉間に皺をよせた直後にやせ我慢の笑顔を浮かべたキョーコを見て、二人は頼もしげに微笑んだ。


 卑怯な毒牙にかかって傷を負ったにもかかわらず、それに対する恨み言を一切吐かず、健気なほど前を向く彼女が自分たちの娘になるのだ。

 誇らしく思わないはずがなかった。



「 そうか。キョーコがいいなら、わたしたちもそれでいい。あれこれ言うつもりはないよ 」


「 お気遣い、ありがとうございます 」


「 うん。しかし、キョーコ 」


「 はい 」


「 そんな状態で本当に結婚式をして平気か?いくら痛み止めがあるとはいえ、ダンスなんてして本当に平気なのか? 」


「 はい? 」


「 そうよね、心配だわ。将来のことを考えるなら絶対に無理はさせたくないもの。だからって結婚式でのファーストダンスを省略する訳にもいかないし 」


「 だよなぁ 」


「 はい?あの、結婚式でのファーストダンスって何ですか? 」



 素朴な疑問を浮かべて小首を傾げたキョーコを見て、クーとジュリは目をぱちくりとさせた。



「 ……まさか、キョーコ。久遠から何も聞いていないのか?結婚式のことを 」


「 いえ、聞いている、と思います。結婚式場はお二人が手配してくださったんですよね?それで、神父様へのご依頼も既に済んでいるんですよね?その上、ドレスまで用意してくださって、感謝しかありません!本当にありがとうございます 」


「 それだけか? 」


「 それ、どういう意味でしょう?他にも準備してくださったことがあるのでしょうか? 」


「 …参ったな。この様子じゃ久遠、、何もキョーコに話してないな 」


「 ええ、たぶんね 」


「 あの、どういうことですか?他にも感謝すべきことがあるなら全て教えていただけませんか?あ、費用に関してはあとでお支払いをするつもりで… 」


「 費用とか感謝はどうでもいいんだ、キョーコ。念のために確認をするが、結婚式の流れは?聞いているか? 」


「 え?特に聞いていないです。だって、洋風の結婚式って言ったら、チャペルで式を挙げて、アメリカだから宣誓書にサインをして、ブーケトスとかやって、披露宴で食事して…。それで終わりですよね? 」


「 大まかにはその通りなのだが 」


「 細かく言うと違うんですか? 」


「 だいぶ違うな。そもそもキョーコ、アメリカの結婚式は3日間に及ぶのが通常だってことをキョーコは知っているのか? 」


「 はいっ?!しししし知らないです!みみみ3日間?!冗談ですよね?! 」


「「 ……oh my gosh 」」



 そのとき、タイミング良く蓮とデュリスが戻って来た音が聞こえた。

 ガレージに車を停め、そこから直接家に入って来たらしい。


 海外ドラマなどを観ると訪問者は必ず正面ドアを出入りするから、家主もそうなのだろうと日本人は思いがちだが、アメリカは車社会の為、だいたいにおいて一軒家の場合はガレージ側のドアから家に直接出入りをする。



 スイートルームを後にした3人がリビングルームに戻ると、思った通り、そこには蓮とデュリスの姿があった。




「 早かったな、久遠。ところでお前… 」


「 コーン!! 」


「 ただいま、キョーコ…って、どうした? 」


「 結婚式でダンスが必須ってなに?そもそもアメリカの結婚式って3日間もするの?私、そんなの一つも聞いてないわ! 」


「 え 」


「 お前、キョーコに式の流れのことを一切説明していないだろう? 」


「 あぁぁ…。いや、だってそれは、こっちに来てからびっくりさせようと思って、それで黙っていたんだ。でもキョーコがこんな事になって、完全にタイミングを失っちゃって…。だけど、だから俺、言っただろう。全治3ヶ月だって言われた今のキョーコに結婚式なんて無理だと思うって 」


「 無理じゃない!痛み止めさえ飲んでいればちゃんと歩けるのよ、私は。そもそも式を挙げるためにロサンゼルスに来たのよ。やらないでどうするの! 」


「 …って、君が言うから、だから俺が出来る限りフォローすればいいかって、そう考えたんだよ 」


「 でもダンスなんて聞いてない。いくら何でも言葉が足りなさすぎでしょう! 」


「 今夜、説明するつもりでいたんだ。それで、皆でどうしようか相談し合おうと思っていたんだ。ほんとだよ! 」


「 そんな後出しじゃんけんみたいなこと! 」


「 本当だって!! 」



 遠慮を挟まない二人のやり取りを見て、デュリスが苦笑を浮かべた。

 次いでジュリが口を開き、それにクーが応じた。

 どうやらこの一族の結束は固いらしい。



「 まぁ、まぁ、キョーコ。久遠も。ソコも含めて式に関する話はキョーコが希望した美味しいご飯を食べながらにすればいいだろう 」


「 あら、賛成。でも私、思うのだけど、キョーコの荷物が明らかに少なすぎると思うのよね。だから色々揃えてあげたいと思うのだけど 」


「 いいな、ジュリ、それ。じゃ、今からキョーコを連れてロデオドライブにでも行くか 」


「 なるほど。じゃあ、キョーコ希望の美味しい食事はフォーシーズンホテルのディナーにするか。キョーコ、それでいいか? 」


「 え?突然そう言われても… 」


「 あら、良いと思うわ。じゃあそれに合わせて夜はドレスアップをしなきゃね、キョーコ。ディナーのお洋服はロデオドライブで私が選んであげるわ。あら、楽しみ。何がいいかしら~♪ 」


「 母さん。キョーコを着せ替えして楽しむのはキョーコが治ってからにしてあげて。まだまだ痛み止めが欠かせない状態なんだから 」


「 分かっているわよ、それぐらい 」


「 え?あの、あれ?待ってください、そもそもロデオドライブってなんですか? 」


「「「「 大丈夫!キョーコは何も心配しないでついて来ればいいだけだから 」」」」


「 え・・・ 」



 このあと、キョーコを連れたヒズリ一族ご一行様は、あたかも中世に迷い込んだかのようなクラシカルな建造物が建ち並ぶロデオドライブでこれでもかと買い物を楽しみまくった。


 ロデオドライブはセレブ御用達のショッピングモールである。

 中世チックな外観がずらりと並んだ景観は見事の一言で、だがそれとは裏腹に一度でも各店舗に足を踏み入れば、煌びやかで高級感溢れる空間が広がっている。

 失礼のないよう教育された各店舗のスタッフ達の接客は完璧で、ストレスなくショッピングが楽しめると有名な場所なのである。


 現代と中世が交錯したかのような街並みに、キョーコはずいぶんとはしゃいだ。



 途中、優雅なカフェでティータイムを楽しんで疲れを癒し


 一通りの買い物を済ませたあと、5人は各界の著名人やセレブ御用達と言われている高級ホテル、フォーシーズンの一室で着替えを済ませ、デュリスが予約してくれたレストランディナーに向かった。



 著名人の舌を満足させるべく、超一流シェフたちが腕を振るった芸術的な料理は、見て楽しみ、味わい深い味付けでも存分に楽しむことが出来る。


 その贅沢なひと時を堪能しながらアメリカの結婚式事情についての話を一通り聞き及んだキョーコは、結婚式の詳細な流れを真剣に相談し合う未来の家族、コーン、クー、ジュリ及びデュリスの様子に深い感謝を覚えた。






 ⇒◇19 に続く


全然お話とは関係ないですけど、このお話が弊宅にとって記念すべき1000記事目です!

月並みですがお礼を言わせてください。ありがとうございます!!



⇒その腕の中で眠りたい◇18・拍手

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