こちらは先日完結いたしました連載のおまけです。
下のタイトルを見ていただければご理解いただけると思いますが、あらかじめ申し上げておきます。欲望を抑えきれなくてスミマセン(笑)
お楽しみいただけたら嬉しいです。
本編はこちら⇒おふたりさま物語<1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 ・15 ・16>
おふたりさま物語・おまけ
■ お父さんと私 ◇1 ■
敦賀さんからプロポーズをされた後日、私は久しぶりに実家に戻った。
理由はもちろん、両親への報告と、今後のことを含めた相談をするため。
このとき私は初めて二人に告白をした。
何をか…と言えば、両親のプロポーズ話を聞いてからずっとそれに憧れていた、という件を。
私の話を聞いて義父は嬉しそうに眼を細め、対照的に母の顔は無表情に変化して、機敏に腰を上げた母親は対面キッチンへと歩みを進めておもむろにコーヒーを淹れ始めた。
その姿を居間のソファから眺めて、相変わらずだな…と思った。
「 そうだったんだ。全然知らなかったよ。キョーコちゃんが、僕がお母さんにしたプロポーズにずっと憧れを抱いていたなんて 」
「 そうよね。言ったことなかったから。でも、本当に憧れていたのはお父さんが最初に立てていた計画の方よ? 」
「 ふ……。僕はどっちだって嬉しいよ。それで?今日はその彼、どうしているの? 」
「 あ、彼も今日は実家に戻って報告をしているはず 」
「 そうか。じゃあ、まだいつウチに挨拶に来るのかは… 」
「 うん、まだいつって具体的に話をしてないの。何しろこの前プロポーズされたばかりだから。それで、お父さんの都合はどうって聞きたくて…。お父さん、お母さんはいつなら平気? 」
「 お父さんたちはいつでもいいよ。君たちの都合に合わせる 」
「 ほんとに?ありがとう。じゃあ敦賀さんと相談し合ってから連絡するね 」
「 うん、そうして 」
そう言った義父は穏やかに微笑んだあと、ソファから腰を上げた。
カップにコーヒーを注いでいる母の元へと歩み寄り、対面キッチンを挟んで何やら母と言葉を交わす。
そしてコーヒーを受け取ると、父はもう一度私へと振り向いて、眼鏡の向こうで再び柔らかく目を細めた。
「 キョーコちゃん。今日はお父さん、仕事を持ち込んでいるからこれから書斎にこもってしまうけど、久しぶりに帰って来たんだからゆっくりしていくといいよ。夜は外で食べようか?食べたいものがあるなら何でもリクエストに応えるよ? 」
「 ありがとう。でも今日はいい。早めに帰って敦賀さんと話がしたいから 」
「 そうか。……じゃ、時間が許す限りはゆっくりしていきなさい 」
「 はい、ありがとう。忙しいのにごめんね? 」
「 なんの、お安い御用だよ 」
私に応じて右手を挙げてくれた義父の様子はなんだかウキウキしているみたい。
喜んでくれているのかな、と考えたら凄く嬉しくて、義父の姿が書斎に消えてしまうまで私はその背中を見つめていた。
パタン…とドアが閉ざされると居間に静寂が訪れる。
それからすぐ母がコーヒーをテーブルに置いてくれて、先ほどまで義父が座っていたソファに今度は母が腰を下ろした。
「 ありがと…… 」
「 キョーコ。あなたもまだまだね 」
「 へ? 」
「 あなた、あの人のこと思いっきり誤解していると思うわ。言っておくけどね、あの人はそんな殊勝な男じゃないわよ? 」
「 ……何のこと?それって、もしかしたらお父さんのこと? 」
「 決まってるでしょ。あなた、本気で信じていたの?ホテル側の手違いで部屋に入れなかったプロポーズだなんて… 」
「 え?違うの? 」
「 違うに決まっているでしょ。むしろ、まかり間違って部屋になんか入れたらプロポーズなんてしてこなかったわよ。あの人 」
「 なんで、そんなこと言うの? 」
「 最初からそういう計画だったからに決まっているでしょ。そもそもあの人がそんなミス、するものですか 」
確かに。
弁護士としての義父の手腕を考えるとちょっと不思議だなと思った時期もあったけれど…。
「 ……じゃあ、お母さんはどうしてお父さんのプロポーズを受け入れたの?感激したから受け入れたんじゃないの? 」
「 残念ながら違うわね。どちらかと言うと、面倒ごとを無くすためよ 」
「 めっ…面倒?! 」
「 黙って聞きなさい。そうよ、あの人からのプロポーズはホテルのディナーだったわ。しかも案内されたテーブルはレストランの中央よ。レストランは満席で、それだけでどんな状況なのかは大体想像つくでしょう? 」
そのディナーの最中。メインディッシュが運ばれて来る直前に、いきなり藤道がジュエリーケースを私の目の前に置いたのよ。
もちろん、そこには指輪が入っていたわ。
今しているコレがそれよ。
「 ……まさか、これが今夜のメインディッシュってことかしら、藤道さん? 」
「 とんでもないよ、最上。ちゃんとお腹を満たすメインはこのあと運ばれてくるよ。けど僕としてはその前に心を満たしておこうと思ってね。
もう僕の気持ちは知っているだろう?僕と夫婦になろう、最上。君の一人娘のキョーコちゃんはこれから大学に進むだろう。あの子は優秀な子だから、きっとその上すら目指すことになる。そのとき、僕は君の同僚としてではなく、夫婦として寄り添いたいんだ 」
「 まさか、キョーコを当て馬にするつもりですか? 」
「 違うよ。キョーコちゃんは大きく飛翔して、年を重ねた君はそれを眩しく見守る立場になっているってことだよ。そのとき、一人より二人でいた方が寂しくないだろうって僕は言っているんだ。君の寂しさに寄り添える男でありたいんだよ。どうか、僕の気持ちに応えて欲しい 」
あの人の声はそこそこ通るから、周囲の人たちが藤道のセリフで耳を澄ませたのが判ったわ。
藤道はとにかく優秀な弁護士だから、そちらに視線を向けずとも空気が変わったことなど肌で分かる男なの。裁判中なんて特に敏感に反応してるわ。
「 ちなみにね、私の答えを待っている間の藤道の顔は信じられないほどワクワクしていたわ。そりゃそうでしょう。藤道からすればどちらに転んでも良かったのでしょうから。イエスでも、ノーでも 」
「 はい?プロポーズしているのにどっちでもいいってある? 」
「 だからあなたは判ってないって言うのよ。
藤道はね、片桐先生曰く、MでGでHな性格なのよ 」
「 は??? 」
「 私がどうしてすんなりプロポーズを受け入れたと思っているの。それは判っていたからよ。これを断ったとしても、きっとこの人はあの手この手を繰り出して衆人環視のプロポーズを何度もするに決まってる…って。
藤道はかなり深みにハマったMだから、断られたって落ち込むなんて絶対しないのよ。いいえ、むしろ味をしめて何度もやるに決まっているわ。そういうの、面倒でしょう? 」
「 ………っっ…… 」
正直、絶句してしまった。
そのときふと、義父の言葉が蘇った。
プロポーズを快諾してもらえたことを、義父はとても嬉しそうに私に報告してくれたのだ。
――――――― キョーコちゃん、聞いてくれるかい?!予想外だったよ。たったの一回で彼女がハイと言ってくれたんだ!!
僕はね、何度振られても頑張るつもりでいた。だって、今日は無理でも明日はOKを貰えるかもしれないだろう?そう考えたら頑張れるだろう?!
その言葉を聞いたとき、お父さんはとても前向きな人だと思った。
だからこの人なら大丈夫だろうと私は思ったのだ。
もちろん、義父がただの前向きな人とはちょっと違うかも…ということには薄々気づいていた。
そのきっかけは、義父のマニアな趣味の話から。
『 僕はね、序盤は相手側から猛攻撃されるのが好きなんだ。手厳しければ手厳しいほど燃える質でね、最初は相手を優位に立たせておいて、周りの人間が僕の事をもうだめかも~なんて思い始めた頃に追い詰め締め上げていく。あのギリギリのスリルがたまらないほど滾る瞬間なんだよ 』
……そう。確かにちょっとMが入っているかも、と気づいていた。
それでも、私はそんな義父が好きなのだ。
なぜかと言うと、義父が母に寄り添ってくれている事だけは紛れもない事実だから。
「 クスクスクス…。お父さん、クセあり過ぎ…… 」
「 笑い事じゃないわよ、キョーコ。その彼を連れて来たときにあなたも判るわ 」
「 ?……なにを判るの? 」
「 藤道が、どうしてあなたを自分の籍に入れなかったか 」
「 え?それは、どうせ結婚したら名字が変わっちゃうんだから、変えない方がいいって… 」
私がそう言うと、母はコーヒーカップを口元に運んだ姿勢を保ったまま、まるで出来の悪い娘を包み込むような笑みを浮かべた。
「 フ……。まさか、それも信じていたの?あなたは本当にまだまだね。そんなんで結婚して先方に迷惑をかけないといいけど。先が思いやられるわ 」
母のセリフはどこか優美で、そこに嫌味っぽい所は少しも無かった。
不思議なことに、この瞬間、私の脳裏には敦賀さんの声が蘇っていた。
プロポーズのとき、彼が私に言ってくれたあのセリフだ。
―――――― 俺が守る。何も知らない君を俺が一生、守るから…
優しく私の口元に笑みが浮かんだ。
どうやら私、まだまだ修行が足りないみたい。もしかしたら、お母さん、お父さんから見たら私はまだまだ子供に見えるってことなのかしら。
私、こう見えても大学では准教授なんですけど……ね。
⇒お父さんと私◇2 に続く
キョーコちゃんがこの話をしたとき、一葉の頭の中で藤道氏プロポーズシーンが浮かんでしまって、しかも藤道氏の笑顔を見てしまったら書かずにはいられなく……(笑)
1ということは当然、2もあります。求められていなくても書く奴。
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