現代パラレル蓮キョの続きです。
どうぞお付き合いください。
前のお話はこちら⇒おふたりさま物語◇1
■ おふたりさま物語 ◇2 ■
その女性が、婚活業界ではようやく中堅に位置するようになったLME結婚相談所に来店をしたのは4月半ば。平日、20時過ぎのことだった。
ローリィ宝田所長はいつものようにプロフィール交換会で事務所に不在。
平日あと一時間で受付時間が終了する頃合いは大抵相談所には社員のみしか居ないもので、だからすぐに判った。その人影が、電話で事前アポイントを取ってくれた最上さんだということは。
「 すみません。一時間ほど前にお電話を差し上げた最上ですけど… 」
「「 …っっっ!? 」」
礼儀正しくノックをしてから入ってきた彼女を目に止めた瞬間、所長代理兼仲人である俺、社倖一や、アドバイザーのジェリーウッズを始めとした全社員はおそらく同じことを考えたに違いない。
彼女は、一言で表現するならスレンダーな美人だった。
こんな女性でも婚活しなければならない時代になったのか、と全員がガチで疑うハイレベルな容姿だったのだ。
「 こんばんは、いらっしゃいませ 」
「 こんばんは、最上様。お待ちしておりました 」
「 お待ちしておりました、最上様。どうぞこちらへ 」
「 ありがとうございます。失礼します 」
社員に次々と声を掛けられ、最上と名乗った女性は控えめに笑みながら小さく頭を下げた。
女性事務員に促され、お礼を告げて応接セットへ歩き出す彼女を視線で追いかける。
20代後半から30代前半と推測される彼女は凛とした佇まいをしていて、知的さを連想させるショートヘアに楚々とした服装と上品なふるまい。それは素直に好感が持てるものだった。
ちなみに言うと、LME結婚相談所は所長の意向により基本的には来るもの拒まず。けれど相談所の中には厳しく査定する所もあって、彼女はそういう厳しめな所に行っても大歓迎されるだろうと思われた。
ただ一つだけ気になった。
俺以外で気づいた人が居たかどうかは判らないけど、彼女は触れたら簡単に折れてしまいそうな、そんな危うい雰囲気をまとっているように見えたのだ。
必要な資料を持って、所長代理である俺が彼女と対面した。
「 失礼します。こんばんは、最上さん。わざわざお越しくださってありがとうございます。LME結婚相談所で所長代理兼仲人をしております社倖一です。よろしくお願いします 」
「 こんばんは、遅い時間にすみません。最上キョーコです。どうぞよろしくお願いします 」
関係ないけど結婚相談所の人間は、良くも悪くも、入会してくれるかもしれない人を特にじっくり観察する。
簡単に挨拶を済ませて自己紹介をしたあと、少なくとも最初のうちはこちらが会話のリードを取る。
その間に分かったことは、彼女は人の話をよく聞き、また質問に的確に答えることが出来る、どちらかというと控えめな性格の女性のようだということだった。
「 数ある結婚相談所の中から弊社にご連絡をくださってありがとうございます。お電話では話を伺いたい…とのことでしたが、それは入会についてでしょうか。それとも別の何かで? 」
「 はい、私が御社にご連絡を差し上げた理由は、電車内の広告を拝見したからです 」
「 え? 」
「 その広告に綴られていた所長さんのお言葉が胸に刺さって…。それで、ほとんど衝動的にご連絡を差し上げてしまったんです 」
意外だ、マジか!
まさか所長のアレで連絡をしてきたとは意外中の意外。キングオブ意外だった!!
『 自分の婚活に疑問を感じたら、セカンドオピニオン感覚でまずは気軽にご相談ください。愛をもって対応させていただきます 』…に反応したとはびっくり仰天!!
…………だとしたら、何かつらいことでもあったかな。
「 そうでしたか。じゃあ何かがあって、その何かを知りたいと思ってわざわざ弊社に…。分かりました。早速どうぞ。遠慮なく 」
「 あの、その前にお伺いしてもいいでしょうか 」
「 もちろん、何でもどうぞ。ただ結婚相談と違うことは的確にアドバイス出来ないこともありますよ 」
「 …クス。ありがとうございます。実は私、CMでもおなじみの結婚相談所に登録していたんです。期間はあと二ヶ月で一年半というところで、その間に出来たお見合いは6回でした。……これって普通なのでしょうか? 」
「 あ~~~~~…… 」
長く結婚相談所に登録をしている人ほどこの手の質問を割とする。そしてこの答えは相談所による…としか言えなかった。なぜなら本当にその通りだから。
「 それは相談所による、としか言えないです。そこの規模や登録人数などにも影響されることですから。それに、どんな相談所でも年齢や条件によってある程度差は出ますよ 」
「 ……そうですか。じゃあ質問を変えます。30代女性の場合、お見合い申請が来るのは年上になってしまうのが普通なのでしょうか。同年代の方とお見合いをするのは難しいですか? 」
「 いや、同年代の人とお見合いするのがむしろ普通だと思いますよ。逆に伺いますが、その意思をちゃんと相談所に伝えました?言わないとこの業界は特に… 」
「 もちろんです!!これを見てください!私のプロフィール票です。同年代の方を希望している旨もちゃんと記載していますし、担当者にもそうお伝えしていました。でも、いつも年上の方ばかりなんです。……同年代でも話が合うかどうかは未知数なのに、10歳も年が離れていたらもうお話を合わせるのだって大変で…。なのに今日、また年上の方から申請を頂いたんです。それも50代後半の方から。それで私…… 」
「 拝見しますね。本当だ、ちゃんと書いてありますね。なのにいつも年上の人ばかり? 」
「 いつも年上の方ばかりです。それで私、今日思い切って担当者の方に…… 」
彼女の瞳がじわりと濡れた気がした。
トーンの下がった言葉尻から彼女の苦悩が垣間見える。
そしてプロフィール票に一通り目を通した俺は正直かなりぎょっとした。
間違いなく、この女性の婚活が上手くいかない理由は、彼女のスペックが高すぎて釣り合う男性がいないからだと思われた。
「 最上さん。差し支えなければ教えてもらえますか?CMで有名な相談所に登録した理由は何でした? 」
「 それは……知名度のある相談所なら自分と同年代の男性も多くいるに違いないと考えたからです。実際、入会の時に見せていただいた資料では決して少なくなかったという記憶があります 」
「 オーマイガー…… 」
正直めまいを覚えた。
まさかその担当者はそれに関する知識を持っていなかったのだろうか。それともわざと話をしなかった?
いずれにせよきちんと説明してあげなければと思った。なによりこれは婚活中の本人が一番知っておかねばならない事だと俺は思うから。
「 最上さん。世界人口70億人で言うと、男女の比率はおよそ1対1だということをご存知ですか?自然界における男女の出生比率は、男性が105であるのに対し、女性は100だと言われています。ですがこの比率は国によって異なる。分かりますよね? 」
「 もちろんです。知っていますし分かります 」
「 そう。ちなみに数年前のデータですが、日本の男女比率は女性が100であるのに対し、男性は94だと報告されています。けれどこれはあくまでも人口比率の話 」
「 はい…… 」
「 これが婚活市場になると男女の比率は全く違うものになるんです。特に関東地方は全国の中で最も婚活男性が少ないと言われていて、現在は男性3に対して女性が7なんです 」
「 え?……そんなに違うんですか? 」
「 そんなに違います。この数字をリアルに表現すると、婚活市場にいる男性全員が女性と結婚したとしても、婚活している女性の半分は結婚できないという状況なんです 」
この瞬間、彼女は俺の目の前で明らかにお先真っ暗…という顔をした。
「 ……そうだったんですね。知らなかったです。じゃあ、しょうがないですよね。私なんかじゃ… 」
「 はい、出た、私なんかー!婚活が上手く行かない人が必ず言うセリフです。ダメですよ!そんなことを考えちゃ。婚活で!何より必要なのは、やる気と勇気!! 」
「 でも、同年代から申し込みが欲しいっていう私のそれは高望みってことですよね。だから年上の男性ばかりから… 」
「 違います。確かに登録した直後の2週間で、申し込んできた人の中に自分が会いたいと思える人が居ないとか、誰に申し込んでも全てから断られるとか、そういうのは高望みと言えるケースもありますが。
…ちなみに話を聞いた限り、今まで6回あったというお見合いは全て男性が申し込んできたものだと思いますが、自分から申し込んだことはありますか? 」
「 ないです。私、自分が奥手だから、私を引っ張ってくれる男性がいいと思っているんです。だから自分からお見合い申請をしたことは一度もありません 」
「 ほら、やっぱり!大丈夫。あなたは絶対そうじゃない。高望みなんて考えなくてもいい女性です! 」
「 でも、そこの結婚相談所は……っ…!! 」
そうこぼした瞬間、彼女は両目からいきなり大洪水を起こした。
自分自身でも驚いたのか、慌ててバッグの中からハンカチを取り出し顔を覆ったけれど全く間に合わず。
あっという間に言葉をつなぐことも出来なくなって、彼女はエグエグと肩を揺らし始めた。
さっき感じた危うさはきっとこれだったのだと思った。恐らく頑張って頑張って自分の腹に不安と不満を押し込んでいたに違いない。
泣き声が聞こえたのだろう、アドバイザーのテンさんがパーテーションの向こうから心配そうに顔を覗かせた。気が利くことにその手はタオルを持っている。
俺が無言のまま顎でどうぞ…と促すと、テンさんは労りの眼差しでそっと彼女にタオルを渡した。
⇒おふたりさま物語3 へ続く♪
実は一葉、時々婚活している方のブログを当てもなく拝読しに伺います。目的は愛が生まれる瞬間を目撃したくて(笑)
でもそのうちに婚活している方ばかりじゃなく、それをサポートしている相談所員さんのブログも拝見するようになりました。そこで知った現在の婚活実情のアレコレ。
そういうのを織り交ぜてお届けして参ります。
⇒おふたりさま物語◇2・拍手
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