おふたりさま物語 ◇14 | 有限実践組-skipbeat-

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 現代パラレル蓮キョの続きです。

 どうぞお付き合いください。


 前のお話はこちら⇒おふたりさま物語<110111213>


■ おふたりさま物語 ◇14 ■





 敦賀さんと約束をした水曜日の午後7時。私は緊張しながら敦賀さんと向き合った。

 場所は、敦賀さんが連れて来てくれた、やたらと雰囲気があるお店。



 店内はかまくらをモチーフにした個室がずらりと並んでいて、オレンジ色の照明がまるで雪国に来たかのよう。


 それはとてもあたたかな光景で、まさかこんなムード漂う素敵なお店に連れてきてくれるなんて…と、内心私は驚いていた。



 こちらのお席になります…と案内された個室は適度にこじんまりしていた。大きな円型のベンチに二人で腰を下ろす。

 時計で例えるとちょうど10時の所に私が、2時の所に敦賀さんが…と言うとイメージしやすいだろうか。


 お店は和をベースにした創作料理を提供しているのだそうで、この時期は特にお鍋が人気メニューらしかった。



「 最上さん、何がいい?大山鶏とゴロゴロ野菜が入ったトマトベースのお鍋とか、炙り大山鶏とトマトのとろ~りチーズ鍋とか、それから、やわらかラムと彩野菜の生姜豆乳鍋とか色々あるよ 」


「 ……えっと、そうですね 」



 今日、敦賀さんは約束通り、私が勤めている大学まで迎えに来てくれた。敷地内にある客員用駐車場を待ち合わせ場所にしたのだ。


 キャンパス内に踏み入れば様々な人の目があるのはどんな大学でも同じはず。それなのに敦賀さんは二つ返事で了解をくれていた。



 つまり、誰に見られても構わないって事よね?…と、土曜日からの5日間、私はずっとそんな自問自答を頭の中で繰り返していた。



「 私、豆乳鍋が気になります。敦賀さんはどれが気になりますか? 」


「 俺?俺も豆乳鍋が気になるかな。…ってことで、それにしよう!頼んじゃうね 」


「 はい 」



 朗らかな笑顔を向けられて心臓がキュンと縮み上がる。それだけで簡単に判ってしまった。

 私はもう、敦賀さんを好きになりかけているのだ。


 だからこそハッキリさせなければと思った。



 テーブルに設置されている呼び出しボタンを押すと、すぐ店員さんが来てくれて、敦賀さんが注文をして、それからすぐセッティングがなされた。



「 お待たせしました、こちらが豆乳鍋です。グツグツしてきたら食べ頃です。ごゆっくりどうぞ 」



 運ばれてきたウーロン茶に口をつける。


 なんて聞こう、どう訊ねよう…と、今日私はそればっかりを考えていたけれど、結局二人になったと同時に、私は社さんに訊ねたのと同じ質問を敦賀さんに浴びせかけた。



「 敦賀さん。一つお伺いしたいことがあるんですけど、いいですか? 」


「 うん、いいよ。なに? 」


「 敦賀さんって、まさか結婚詐欺師じゃないですよね? 」


「 …っっ…ぶっっほっ!!!…っっ?!げほっ、げほっ!!…っっ! 」


「 敦賀さん、大丈夫ですか??ウーロン茶がどこかに入っちゃいました?! 」


「 げほっ、ごほっ……っっ……な……っっん…げほっ……あっ……なに…も、一度言って? 」


「 ……敦賀さんって、結婚詐欺師じゃないですよね? 」


「 あ…当たり前じゃないか!なんでそんな…… 」


 敦賀さんは涙目で私に抗議をしてきて、そんな敦賀さんを見つめながら私は脳裏で社さんとの会話を思い出していた。




 敦賀さんに対して猜疑心が生まれたあのとき

 私は急いで社さんに電話を掛けた。



 社さんはすぐ電話に出てくれて、私が単刀直入に疑問を投げつけると、社さんは今の敦賀さんと同じように電話口の向こうでいきなり激しく咳き込んだ。



「 社さん、教えてください!敦賀さんって、まさか結婚詐欺師とかじゃないですよね!? 」


『 ……っっ…ぶっほっっ!!!…げほ、ごほっ……っっ…ちょっ……何、それ?!あんでそんなこと言い出したろ?…ごふっ…っ!まさか今日、敦賀くんに何かされた?突然抱きしめられたとか、いきなり押し倒されたとか?! 』


「 そっっっ…そんな破廉恥なことは無かったですよ!! 」


『 そうだよね?!何も無かったんだよね?じゃあ、なに?なんでそんな発想になったの? 』


「 だって、社さん… 」




 この懐疑の始まりは、敦賀さんのあのセリフより前にあった。



『 ――――――― 俺のプロフィール票、ちゃんと見た?

 趣味の欄とか、年収の欄とか、写真とか、ちゃんと見た? 』




「 本当は私、最初から違和感を覚えていたんですよ?だって社さん、私のプロフィール票を作る時に私にこう言ったじゃないですか。

 趣味の欄に本当の趣味をただ書くだけなのはダメだよって。ちゃんと書き方があるんだからって。なのに、どうして敦賀さんのはこうなんですか? 」



 そう。プロフィール票の趣味の欄は個人の趣味を書く場所ではない…と、私は社さんから教わっていた。


 一般的に趣味というと、職業や専門としてではなく個人が楽しみで愛好している物事を指し、その多くは休日にたしなまれる。



 休日。すなわちそれは、結婚したら二人のプライベートな時間ということだ。


 だから趣味の欄に書くのは、結婚後を楽しく想像できる内容であることが好ましい…と社さんは言ったのだ。



「 いい?キョーコちゃん。趣味の欄っていうのは、二人が結婚したあと、どういう時間を過ごせるかを想像できるものを書くんだ。

 履歴書なんかで、読書とか映画鑑賞とかよく見るけど、そもそも本を読んでいる間は会話が無いし、映画を見ている間も会話はないよね。そんな毎日を想像して楽しそうって思える? 」


「 思えないです 」


「 だよね。他にもショッピング、とか、海外旅行なんて書く人もいるけど、休みのたびにそんなことしてたら散財だよ。金遣い荒そう~って感じにならない?

 ましてやスマホゲーム…なんて書かれちゃったら、一体この人、月にどのぐらい課金しているんだろって気になっちゃったりするでしょ? 」


「 す…するかも。絶対、します 」


「 ね!でもね、こういうのは書き方次第なんだ。たとえば、物語に登場した場所を実際に訪れる(海外旅行)…って書いてあったらどう?普段のお休みの時は好きな本を読むのかな。けれど連休の時には二人で旅行を楽しめるかも…って想像できない? 」


「 できます。楽しそう 」


「 でしょ。女性に良くある料理好きっていうのもね、たとえば、B級グルメを食べ歩いて気に入ったメニューを自宅で再現(多国籍OK)なんて書いてあったら、普段のお休みではいろんなお店を二人で一緒に食べ歩いて、ついでに食材探しをしても楽しそうかも…って想像できるでしょ? 」


「 はい、確かに 」


「 そう。趣味の欄っていうのはね、そんな風に、この人と結婚したらどんな生活になるのかなっていうのを想像しやすいように書くのがポイントなんだ。そういうプロフィール票の方が絶対インパクトがあるし、印象として残りやすいから 」


「 そうですね、確かにそう思います。すごい、勉強になります。そっか、そういう風に書けばいいんだ… 」




 そう教えてくれたのは社さんなのに、どうして敦賀さんのはこうなのだろう。


 写真だってそうだ。


 写真館ではなく、自撮りのスナップとしか思えないこれを、どうしてお見合い写真にしたのだろう。そもそも顔が見えないのに。



 実物の敦賀さんはとても素敵な人だ。それこそ道行く女性が振り返るほど。

 なのに、なぜLME結婚相談所はそれを押そうとしなかったのか。どうして敦賀さんのプロフィール票をこれでOKにしたのだろう。



 考えても当然のことながら答えは出なくて…。

 ただ何となく分かるのは、敦賀さんには結婚したい意思が無いのかも、ということだけ。



 それでもLMEに登録し続ける理由がもしあるとするならば、それはお金を騙し取るためではないだろうか…と考えてしまったのだ。

 そんなことある訳ないと、頭の片隅では判っているのに…。



 私が全ての疑問を吐露し終えて黙り込むと、受話器の向こうで社さんが大きく息を吐き出す音が聞こえた。



『 …なるほど。それで結婚詐欺師? 』


「 そうです。でもあり得ないですよね。判っているんです、ほんとは 」



 そう、あり得ないのだ。


 なぜなら結婚相談所に登録するためには、企業や役所が発行した書類を必ず提出しなければならないのだし、たとえばそれらを偽造したとしても、LMEに登録する必要性がないのだ。


 何しろ婚活業界にはLMEより費用の安い相談所がたくさんあるのだから。



「 だから余計混乱してしまって… 」


『 そう。だったらね、キョーコちゃん。思い出してごらん? 』


「 なにをですか? 」


『 俺がキョーコちゃんのプロフィール票をゆるふわお嬢様にしたのは何のためだった? 』


「 それは…男性は、基本的にお嬢様が好きだからって。そういう人が申し込んでくれるかもって…… 」


『 そう。それと同じことだよ。敦賀くんのプロフィール票がそうなのは、彼がそれを望んだから 』


「 ……つまり、敦賀さんはこのプロフィール票の内容で申し込んでくれる人を望んだって事ですか? 」


『 そう。ちなみに敦賀くんはLMEに登録して3年以上が経っているけど、その間、彼がお見合い申請をしたことは一度も無いし、申請が来たことも一度も無かった。キョーコちゃんが初めてのお見合い相手なんだ。敦賀くんにとっては 』


「 さ…三年間、何もせず?嘘ですよね?だって、年収270万円の人が、そんな無駄なこと… 」


『 あれ?敦賀くんの年収欄をチェックしたんだ。もしかしたら本当はそれで敦賀くんに疑心を抱いたんじゃないの?こんな低収入な男、結婚相手にしたくないって思って…。違う? 』


「 違います!私は敦賀さんに年収も学歴も求めていません!私が望んでいるのは、私を引っ張ってくれる人で、結婚したい意志がある人です!

 ……だから、もし敦賀さんに結婚する気が無いのなら…って。でも、今まで30人以上の方とお見合いしましたけど、敦賀さんだけなんです、私がいいと思った男性は。だから、もし敦賀さんにその気持ちが無いのなら、私がその気にさせてみようかって考えていました。だって敦賀さんだけなんだもの。だけどやっぱり不安で…。だから本当はどうなのかを知りたくて…… 」


『 …気持ちは判る。けど、だったらなおさら、抱いた疑問は俺じゃなくて本人にぶつけるべきじゃない?

 そもそもキョーコちゃんは結婚相手を探しているんだよね?自分の気持ちを晒せない相手と結婚なんて出来ないでしょ? 』


「 っっ!!…そう、ですね。そうです、私が間違っていました。社さんじゃなくて、私が聞かなきゃならなかったのは敦賀さんだったんですよね 」




 それでも水曜日までの間

 ずっと私は、敦賀さんに会ったら何を聞こう、どう聞こう…と、そんな事ばかりを考えていた。


 でもいざ敦賀さんを前にしたら、自分の頭に浮かんでいたのはたった一つの疑問だけだった。



 写真のことでも、趣味のことでもなく

 たった一つの疑問だけ…



「 だったら教えてください。敦賀さんは……結婚したい願望をお持ちなのでしょうか? 」


「 持っているよ、もちろん 」


「 それは、本心…ですか? 」


「 もちろん本心から思ってる。……それで、これは嫌ならそう言って欲しいんだけど、出来るなら君とがいいと思ってる。最上さんと結婚出来たらなって、俺はそれしか考えていない 」



 瞬間、私の心臓が驚くほど高鳴った。



「 …っ?!……ほ…んとう、です…か? 」


「 本当に。そう思っているよ、俺は 」



 ここで私は大きく息を吸い込んだ。



 いまこそ勇気を出すのよ、最上キョーコ!

 平気よ!だってこんなの、清水の舞台から飛び降りるより全然マシなことじゃないの!!



「 じゃ…じゃあ敦賀さん!!私と…私と真剣交際をしてください!もちろん、結婚を前提として 」



 敦賀さんの両目がみるみる見開き、明らかに驚いている風なのが私にもわかった。

 それから徐々に変化して、本当に嬉しそうに微笑んでくれた彼のそれで、涙が溢れそうになってしまった。



「 もちろん!!!ぜひ、喜んで!! 」


「 …っ!!どうぞ、よろしくお願いします 」


「 こちらこそ!どうぞよろしく!! 」



 豆乳鍋はとうに食べ頃を過ぎていて、ただグツグツぐつぐと煮えていた。

 その音が、なんだか地味な拍手みたい、と思った。






 ⇒おふたりさま物語15 へ続く♪


お話に出てきたお店はこちらデス。ご興味ある方はどうぞ♡⇒( ̄▽ ̄) ボクも行きたい。



⇒おふたりさま物語◇14・拍手

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