令和6年度 上下水道部門Ⅰ-1【健全な水循環の構築】
【問題】Ⅰ-1 我が国では、水循環基本計画に基づき水循環に関する施策を着実に実施してきたところであるが、健全な水循環の維持又は回復に当たっては、依然として多くの課題が残されている。今後の持続可能な社会の実現には、健全な水循環が不可欠であり、様々な分野での取組が求められている。上記のような状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1) 上下水道事業においても、健全な水循環構築のための取組が求められている。これについて、技術者としての立場で多面的な観点から、健全な水循環の構築に関して上下水道事業に共通する技術面の課題を3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その課題の内容を示せ。
(2) 前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を、上下水道の専門技術用語を交えて示せ。
(3) 前問(2)で示したすべての解決策を実行したうえで生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。
(4) 前問(1)~(3)の業務遂行に当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意事項を題意に即して述べよ。
1 水循環の健全化に関する課題
(1)安定した水供給及び排水の確保
工場、事業場からの排水等により公共用水域において水質悪化が発生し、水道の水質にも影響を及ぼしている。また、長期間の少雨により危機的な渇水が発生している。上下水道は水循環の一部であり、水利用に応じた適正な水質・水量を確保するとともに水環境を保全する必要がある。
このため、上下水道において安定した水供給と排水を確保することが課題になっている。
(2)水災害への対応
地球温暖化による気候変動等の影響により集中豪雨が発生し、洪水、内水氾濫等による被害が頻発化・激甚化している。上下水道は、こうした実態を踏まえて雨水排除、水供給を実施する必要がある。
このため、上下水道において水災害対策を強化することが課題になっている。
(3)水インフラの戦略的な維持管理・更新
上下水道施設の老朽化は、水処理、雨水排除等の能力低下・機能停止、水道の漏水、汚水の流出、地盤沈下等に直結する。上下水道は水循環を構成する水インフラであり、施設の健全性を維持する必要がある。
このため、将来に渡って上下水道施設の維持管理・更新を適切に実施することが課題になっている。
2 最重要課題に関する解決策
安定した水供給及び排水の確保が損なわれると水循環は悪化する。このため、これを最重要課題と位置付けその解決策を示す。
(1)下水道における安全な水の確保
地域の実情に応じた適切な役割分担の下、下水道、農業集落排水施設及び合併浄化槽の整備を推進し、汚水処理システムの最適化を図る。公共用水域の水質状況を踏まえ、下水処理場において嫌気―好気法、嫌気―無酸素―好気法等の高度処理を導入する。
雨天時における合流管の越流を回避するため分流化を図るとともに、雨水吐口へのスクリーン設置等により河川の水質悪化を防止する。
下水道施設の維持管理を適切に実施し、計画的に更新することにより、公共用水域の水質保全を推進する。
(2)水道における良質な水の確保
水安全計画を策定し、水源から給水栓までの総合的な水質管理を実施する。原水中にクリプトスポリジウム等の指標菌が含まれる場合、ろ過水濁度を0.1度以下に管理し、必要に応じてろ過池二次側に紫外線処理を導入する。原水中にかび臭物質等が含まれる場合、粉末活性炭処理を実施し、必要に応じて粒状活性炭処理とオゾン処理を組み合わせた高度処理を導入する。
水道施設の維持管理と計画的な更新を適切に実施し、更新時に取・排水地点の再編等を行うことにより、安全な水道水の安定供給を推進する。
(3)上下水道における危機的な渇水への対応
水道において、無効水量を減少させるため管路の漏水防止を推進する。渇水時に定期排水等の事業用水量を調整できる体制を整える。
下水道において、渇水時に下水処理水や雨水貯留施設等の雨水を緊急的に利用できる体制を整える。
3 解決策の効果と懸念事項への対応策
前述の解決策により、水質・水量の両面から水循環の健全化を図るとともに、リスク管理の強化が可能となる。
ただし、水循環に関する取組みを事業体、自治体単位で推進するには限界があり、財政状況の悪化により取組みに遅れが生じる可能性がある。
このため、こうした取組みを流域全体に拡大し、総合的な対策を講じるとともに、PDCAサイクルにより継続的に改善する必要がある。
また、解決策に携わる技術者の不正や違法行為により、公衆の安全・健康が損なわれる可能性があるため、研修等により技術者倫理を徹底する必要がある。
4 業務遂行において必要な要件・留意事項
業務遂行にあたっては、水循環基本法等の関係法令を遵守し、公衆の安全、健康及び福利を最優先にしなければならない。
また、上下水道に係る施設整備等が水循環と社会に及ぼす影響を予見し、リスクを低減する必要がある。
【出題された背景や狙い・解答に繋がるポイント】
この問題のリード文は、水循環基本計画について言及しています。水循環基本計画は、国内の水循環に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために策定されたものです。この計画は、平成27年度に策定されたもので、令和2年度に全体の見直し、令和4年度に一部見直しが行われています。令和6年度は、計画の全体見直しを行うため「水循環施策の推進に関する有識者会議」が開催されており、このことが当該テーマの出題された背景になっていると思われます。
水循環基本計画は、重点的に取り組む主な内容と水循環に関する施策を提示しています(表1・図1参照)。重点的に取り組む主な内容は、①流域マネジメントによる水循環イノベーション、②健全な水循環への取組を通じた安全・安全な社会の実現、③次世代への健全な水循環による豊かな社会の継承の3つです。これらのうち、この問題文の趣旨に合致するのは、2番目の「健全な水循環への取組を通じた安全・安全な社会の実現」です。このため、これに紐づけられた6つの施策を踏まえて、上下水道の両方に関連する課題をピックアップすることが解答を作成する際のポイントになります。
【出題された背景や狙い・解答に繋がるポイント】
この問題のリード文は、水循環基本計画について言及しています。水循環基本計画は、国内の水循環に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために策定されたものです。この計画は、平成27年度に内閣官房が策定したもので、令和2年度に全体の見直し、令和4年度に一部見直しが行われています。令和6年度は、計画の全体見直しを行うため「水循環施策の推進に関する有識者会議」が開催されており、このことが当該テーマの出題された背景になっていると思われます。
水循環基本計画は、下表に示す通り、重点的な取組内容を掲げた上で、これに関連する水循環の施策を提示しています。重点的な取組内容は3項目あり、このうち2番目の「健全な水循環への取組を通じた安全・安全な社会の実現」が問題文の趣旨に合致しています。
このため、この取組内容に紐づけられた6つの施策に着目して課題を抽出すれば良いです。具体的には、①貯留・涵養機能の維持及び向上、②安定した水供給・排水の確保等、③災害への対応、④水インフラの戦略的な維持管理・更新等、⑤水の効率的な利用と有効利用、⑥地球温暖化への対応です。これらの中から、上下水道の両方に関連するものをピックアップして、内容を詳述することが解答を作成する際のポイントになります。
【当該テーマについて上記以外で勉強するべき事柄】
前述した通り、現在、水循環基本計画の見直しが行われています。令和6年6月28日、「水循環施策の推進に関する有識者会議(第15回)」が開催され、計画の主要な変更内容が公表されました。具体的には、①代替性・多重性等による安定した水供給の確保、②施設等再編や官民連携による上下水道一体での最適で持続可能な上下水道への再構築、③2050年カーボンニュートラル等に向けた地球温暖化対策の推進、④健全な水循環に向けた流域総合水管理の展開について変更が行われる予定です。これら変更事項のうち2番目で上下水道がクローズアップされています。
このため、来年度以降も引き続き水循環基本計画について勉強しておくべきです。勉強する際は、水循環全体のイメージをつかんだ上で、上下水道の施設再編、官民連携、地球温暖化対策等の内容を整理しておくと良いでしょう。
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