『ベルファスト』(2021年) #京都シネマ #ベルファスト #ケネス・ブラナー | HALUの映画鑑賞ライフのBlog

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~映画鑑賞雑記帳 &京都・滋賀の季節の歳時記 & 読書などのお気儘ライフ~

先月の4月14日(木)。

私の父親の眼に出来た悪性リンパ腫の治療の為、両親を連れて病院の放射線科と血液内科まで診察に行っている合間の待ち時間を有効活用し、四条烏丸の京都シネマまで、一般会員の会員更新手続きの特典として進呈された無料招待券を使って、駐車場料金の関係からも、比較的に上映時間の尺も短い本作品を選んで鑑賞。

 

実は、この『ベルファスト』については、珍しく、滋賀県大津市のユネイテッドシネマ大津でも特別限定上映を実施して下さっていた様なのですが、この日が上映終了日で、あいにくと、病院での父親の診察の待ち時間の合間を使って観に行くには時間的にも距離的にもかなり無理があったので、クルマの駐車場代が沢山かかってしまうことも百も承知で、今回は、この日に、四条烏丸の京都シネマで鑑賞する事にした次第です。

 

今年の3月25日(金)に日本公開した映画ですので、もうかれこれ1ヶ月以上経過していることから、今作品も、既に上映終了をなされている映画館も多い事かと思われますが、今更ながらになりますが、あくまでも私自身の備忘録的に、当該ブログに感想を記録に残しておきたいと思います。

(※京都シネマでは現在も上映期間延長中とのこと。)

 

 

今年度の15本目の劇場鑑賞作品。

(※今年度の京都シネマでの1本目の劇場鑑賞作品。)

 

 

 

「宗教的紛争下の家族の笑いと涙(22.4/14・2D字幕版)」

ジャンル:人間ドラマ

原題:Belfast

製作年/国:2021年/イギリス

配給:パルコ

公式サイト:https://belfast-movie.com/

上映時間:98分

上映区分:一般(G)

公開日:2022年3月25日(金)

製作・脚本・監督:ケネス・ブラナー

キャスト(配役名):

ジュード・ヒル(バディ) / カトリーナ・バルフ(マ:バディの母) / ジュディ・デンチ(グラニー:バディの祖母) / ジェイミー・ドーナン(パ:バディの父) / キアラン・ハインズ(ポップ:バディの祖父) / ルイス・マカスキー(ウィル:バディの兄) / ララ・マクドネル(モイラ:バディに万引きを教える少女) / コリン・モーガン(ビリー・クラントン) / オリーブ・テナント(キャサリン)

 

 

【解説】

俳優・監督・舞台演出家として世界的に活躍するケネス・ブラナーが、自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品。

ブラナーの出身地である北アイルランドのベルファストを舞台に、激動の時代に翻弄されるベルファストの様子や、困難の中で大人になっていく少年の成長などを、力強いモノクロの映像でつづった。

 

ベルファストで生まれ育った9歳の少年バディは、家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごしていた。笑顔と愛に包まれた日常はバディにとって完璧な世界だった。

しかし、1969年8月15日、プロテスタントの武装集団がカトリック住民への攻撃を始め、穏やかだったバディの世界は突如として悪夢へと変わってしまう。

住民すべてが顔なじみで、ひとつの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断され、暴力と隣り合わせの日々の中で、バディと家族たちも故郷を離れるか否かの決断を迫られる。

 

アカデミー賞の前哨戦として名高い第46回トロント国際映画祭で最高賞の観客賞を受賞。

第94回アカデミー賞でも作品賞、監督賞ほか計7部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した。

 

(以上、映画.comより、引用抜粋。)

 

 

 

北アイルランド・ベルファスト出身の俳優で監督のケネス・ブラナーの半自伝的作品。

米国アカデミー賞で、作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞(キアラン・ハインズ)、助演女優賞(ジュディ・デンチ)、音響賞、主題歌賞の7部門にノミネートされ、結果、脚本賞にてオスカーを獲得した映画。

 

 

「北アイルランド紛争」と「平和の壁」。 

 

先ず、この「ベルファスト」という土地柄ですが、北アイルランドにある港街で世界最大級の造船所があり、あのタイタニックもここで建造されたことが本作の冒頭でも紹介されます。

 

 

そしてまた、私は、本作にて、このベルファストに”平和の壁”なるものがあることを初めて知りました。

 

それは、1969年8月15日に勃発したベルファストでの暴動を発端とした宗教上の対立による紛争と分断の歴史の負の遺産ともいえます。

 

プロテスタント信者の武装集団が、カトリック信者の住民を攻撃した、所謂、「北アイルランド紛争」が始まり、これを契機に、平和だった街は、同じキリスト教徒の別の宗派によって分断がなされ、衝突を避けるために設置されたバリケードがこの”平和の壁”のもとになっているそうです。この壁は様々な場所に短いもの長いものと点在している事から総称して”平和の壁”と呼ばれているそうです。

 

 

では、そもそも何故カトリック教徒とプロテスタント教徒が「北アイルランド紛争」とも呼ばれる酷い争いをしていたのか。

 

本作『ベルファスト』の公式サイト内に記載されている、佐藤泰人さん(東洋大学准教授・日本アイルランド協会理事)の解説によりますと、以下の様な歴史的変遷を辿っているらしい。

 

――カトリックvsプロテスタントという対立の根は16世紀の宗教改革にある。キリスト教の最大教派ローマ・カトリック教会に対して反旗が翻され、そうした対抗諸宗派はまとめて「プロテスタント」と呼ばれた。

イングランドは、国王ヘンリー8世の離婚問題をきっかけにローマ・カトリックから離反する。国の勢力を拡大していく過程でイングランドは隣のアイルランド島への植民に力を入れ、プロテスタント植民者が土着のカトリックから土地を奪うという構造ができあがっていった。

 

17世紀末にはプロテスタント優位体制が確立、1801年にアイルランドはグレートブリテン王国に併合される。アイルランドの自治復権を目指すその後の長い闘争は、20世紀になってようやく実ることになる。血みどろの独立戦争の末、1921年にイギリスとアイルランドは条約を締結、プロテスタントが多数派のアイルランド島北部6州が「北アイルランド」としてイギリス領に残り、島の残りは「アイルランド自由国」として自治を獲得、実質的独立を果たした。

 

1960年代、米国の公民権運動に影響され、北アイルランドではカトリックに対する差別撤廃を求める運動が盛り上がる。この運動には少なからぬプロテスタントの人々も賛同していたが、デモ行進などはプロテスタントによる過剰反応を呼び、双方の対立は暴力化していった。人々は、「カトリック」対「プロテスタント」というレッテル、または「ナショナリスト」(アイルランド全島で一つの国家【ネイション】となることを目指す)対「ユニオニスト」(北アイルランドがブリテンと連合【ユニオン】している現状を維持する)というレッテルを貼られて二分されたのである。――

 

即ち、遡れば16世紀に、イギリス国王ヘンリー8世がそもそもカトリック教徒が多いアイルランド国王となり、イギリスから多くのプロテスタント教徒を移住させたことになどに起因するそうです。

それ以降、アイルランド北東部で多数派となったプロテスタント教徒が元からいた少数派の土着のカトリック教徒を迫害するようになったらしいです。

 

 

9歳の少年バディの視点の範囲内で描く。 

 

何れにしても平和に暮らしていたベルファストの人たちの暮らしを瞬時にして暴動に巻き込まれていく様子を、本作では、映画好きの9歳の少年バディ(ジュード・ヒル)の視点で描いていきます。

 

背景には前述した「北アイルランド紛争」といった宗教的紛争がありますが、暴動のシーンもありはしますが、決して血生臭い映画ではありません。

 

むしろ、愛に包まれた家族の、笑いあり涙ありの物語でした。

 

 

ケネス・ブラナー監督の半自伝的作品。 

 

ケネス・ブラナー監督は、生まれ故郷であり幼少期を過ごしたベルファストの記憶をもとに自身で脚本を書き作り上げた本作は、先日の米国アカデミー賞で、見事脚本賞に輝きました。

そしてまた、ケネス・ブラナー監督の眼差しは、自身を投影した9歳の少年バディとその家族に温かく注がれます。

時にバディの目線まで下がるカメラは、少年から見た世界がいかに大きいかを伝えます。

そういった、あくまでも少年バディの視点を崩すことなく最初から最後まで一貫させた話し運びが素晴らしかったです。

なので宗教上の対立や父親が抱えている問題などについても解説や説明的なところが一切ありません。

 

 

逆に言えば、少年バディが見て理解した範囲内の中でドラマが進行していくからこそ上映時間の尺が100分以内に収まっているとも言えるかも知れません。しかし、それで全く問題はありませんでした。

激化していく宗教的紛争のなかでのバディの体験。

 

 

路地で怪獣退治ごっこをしたこと。

単身赴任の父親が週末に帰ってきて家族で『恐竜100万年』や『チキ・チキ・バン・バン』の映画を劇場まで観に行ったこと。

教会でやたらと牧師の力強い迫力の言葉に怖い思いをしたこと。

小学校で同級生の女の子に恋をして隣の席に座れるように算数の勉強を頑張ったこと。

テレビの人気番組を夢中になって見ていたことなど――。

そういった誰もが経験する人生の1ページが、郷愁をいざなうモノクロの映像で描かれるのでした。

 

 

また、暴動のどさくさに紛れて、バディがスーパーマーケットから、あるものを”拝借”してくるシーンと、それに続く母(カトリーナ・バルフ)への言い訳などには思わず笑ってしまう、ユーモアを愛するイギリス人気質が溢れた映画でもありました。

 

 

素晴らしいシーンは沢山あったのですが、特に、家族みんなで映画館で観た『チキ・チキ・バン・バン』の思い出の映画の描写が白眉と言えるでしょう。

 

 

また『宇宙大作戦(=スター・トレック)』をテレビで夢中になって見たり、クリスマスに貰ったプレゼントには『サンダーバード』の1号の玩具に、扮装一式。『007』のジェームス・ボンドが乗るアストンマーチンのミニカー。(更には、ケネス・ブラナーらしく)、アガサ・クリスティの推理小説なども混じっていたり。

そして、バディが家の前の路上で読んでいたコミックはマーベルの『マイティ・ソー』だったりと小道具のネタにも凝った作品でした。

 

 

終盤、バディの一家にも身の危険が迫り、ベルファストを出るかどうかの決断に迫られます。

 

 

生まれ故郷を出た者が故郷や残してきた人たちに抱く複雑な感情を、ケネス・ブラナー監督は優しく包んでくれるのでした。

ラストシーンの祖母(ジュディ・デンチ)の一言に、救われる人も多いはず。

ここでもこの映画が世界中で支持される理由が分かるかと思います。

 

 

ウクライナ侵攻に揺れる現在の社会情勢とダブる。 

 

ケネス・ブラナー監督の脚本はコロナ禍の中で書かれたらしく、決して、ロシア軍によるウクライナ軍事侵攻に揺れる現在の世界情勢を反映したものではありませんが、社会的分断の問題や、たまたまとは言え、ウクライナ軍事侵攻問題とほぼ同時期の日本公開となり戦火の中におられる多くのご家族のご苦労とも重なり、この映画を観た人は、誰しもが胸を痛めることでしょう。バディの家族と同じように、「平和で幸せな暮らしを奪われた人たちが、さぞや沢山いるに違いない。」と。

 

 

あの国の狂信的な指導者に、バディの祖父(キアラン・ハインズ)や父(ジェイミー・ドーナン)の台詞を聞かせてやりたいと思うのは私だけではないでしょうね。

 

 

ケネス・ブラナー監督の「個性」を発揮。 

 

聞く耳を持つこと。お互いを敬うこと。決して難しいことではない。確かにあまりにも理想的に過ぎるかもしれないですが、シェークスピア原作やアガサ・クリスティ原作ものをはじめ『マイティ・ソー』などのマーベル作品まで、何を撮ってもそつが無く、逆説的に言うと、これまで「彼らしさ」があまり見えてこなかったケネス・ブラナー監督の個性。それが、この映画の中では半自伝的作品であるが故に、一本貫いていると言うことも出来るでしょう。

 

 

バディ役を演じた本作が長編映画デビューとなるジュード・ヒルくんがとても良かったですね。

 

 

英国・アイルランドの豪華俳優陣の競演。 

 

また、中でも、ごく自然に綺麗な母親役のカトリーナ・バルフ。

心優しい祖母役のジュディ・デンチ、祖父役のキアラン・ハインズが特に印象的でした。

 

 

と言いつつ、単身赴任の父親役のジェイミー・ドーナンも良かったですし、結局は、脇を固めるバディの家族の配役陣は皆キャラが立っていましたし、あたかも本当の家族のようで、兄のウィル役のルイス・マカスキーを含め皆さん素晴らしかったです(笑)

イングランド、アイルランドの豪華俳優陣が競演し見事に演じきっていました。

 

郷愁に満ちたモノクロ映像の成功例。 

 

尚、ケネス・ブラナー監督や撮影を手掛けたハリス・ザンバーラウコス(『マイティ・ソー』『ナイル殺人事件』など)は、本作の映像をカラーではなく、あえてモノクロにすることを提案し選択。この優れた決断により、陰影が際立つ類い稀な力強さと美しさ、そして更にはモノクロ映像から心の柔らかい部分をもギュッと締め付けるようなノスタルジーを付与し、その反面、バディが観る映画のシーンなど一部のみをカラー映像にするといった画作りもとても魅力的でした。

 

 

私的評価:★★★★☆(90点) 

 

私的な評価としましては、

本作は、ケネス・ブラナー監督が体験した半自伝的作品であるばかりか、その1969年当時の社会背景が、現代の様々な局面での社会的分断や或いはロシア軍によるウクライナ軍事侵攻問題などと重なって映る面も多く、「たられば」を言ってはキリがないのですが、もしも、米国アカデミー賞における投票時期がウクライナ軍事侵攻ともっと時期を同じくしていたら、おそらく第94回米国アカデミー賞作品賞も『コーダあいのうた』ではなく、本作『ベルファスト』が受賞していたのではないかと思われるほどに良く出来た作品でした。

 

 

これまでのケネス・ブラナー監督の作品は、概ね、実にそつなく撮ってはいるものの、あくまでも私見ですが、「可もなく不可もなし」といった印象の作風で、謂わば、没個性的な作品が多かったようにも思えましたが、今回の映画の場合には、彼の半自伝的作品であることからも、否が応でも「彼らしさ」といった個性を一本貫いた作品になっている点でも評価に値するかと思いました。

小道具に至るまで凝りに凝った芸が細かい点も、なかなか面白くユーモアを愛するイギリス人気質が溢れた作品にもなっていたと思いました。

 

 

従いまして、五つ星評価的には、ほぼ満点の★★★★☆(90点)の四つ星半の高評価も相応しい映画かと思いました。

 

※私事ですが、この作品を観るために、今回は、京都シネマの近くの駐車場に止めて映画を観ましたが、結果、駐車場料金を精算しますと、2.500円も要してしまいましたが、それでも観に行って良かったと思えるほど素敵な作品でした。

 

○祝!アカデミー賞®3月25日(金)公開『ベルファスト』60秒予告編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回も最後までブログ記事をお読み下さり有り難うございました。