バッハ/カンタータ第106番「神の時こそいと良き時」
ウェストミンスター、シェルヘンの復刻第二期。バッハのカンタータ集、第76番「天は神の栄光を物語り」、第106番「神の時は最良の時」の二曲を収めています。オリジナル・マスターテープからの復刻。50年代にウェストミンスターに複数残されたカンタータ。復刻はLPとは組み合わせが異なります。58年の録音。アーノンクールとレオンハルトによる最初のカンタータ全集が制作されたのは71年から89年。およそ18年がかかりました。リヒターのカンタータ選集は59年から78年のことでした。多くの識者は「バッハの音楽の本質はカンタータにある」と指摘します。200曲以上あるために実像に迫るのは容易ではありません。この数字も現存するものです。ライプツィヒ時代には五年分の作品を残したとされています。合わせても四年分。さらにライプツィヒ時代にだけ書かれた訳ではありません。音楽を重んじたドイツ・プロテスタント教会の精髄ともいえるもので、テキストも内容にそって綿密に選ばれました。選集はえり抜かれたものとなっていて良き導き手となるのです。若き日のカンタータ第106番は哀悼行事用として知られています。名品中の名品である一曲です。哀悼行事ということもあり死生観が滲む。バッハの典型的なカンタータは冒頭に合唱を置き、コラールで締めくくる。間にレチタティーヴォとアリアを幾つか挟みこむものです。冒頭にガンバに導かれる二本のリコーダー。最後はコラールで結ばれますが、合唱、アリオーソ、アリアなどで紡ぐ構成は定型とは異なります。 死は誰にでも訪れる。旧約聖書には掟(Mensch, du mußt sterben)として描かれ、新約聖書には救済としての死が浮上してきます。音楽はHeute wirst du mit mir im Paradies sein.ホイテ、ホイテと歌われる。死者はキリストの傍、楽園にあるという浄福が描かれます。シェルヘンの演奏は時代楽器の登場、整然とした演奏とは異なる人間的なものを伝えています。浄福は、残された生者の悲しみを慰撫するものです。様式的には、バッハの時代とは異なるものかもしれません。それでも心情を伝える優れた演奏で心打つものです。人気ブログランキング