ベートーヴェンのミサ・ソレムニス。ジュリーニ指揮のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団。独唱にヘザー・ハーパー、ジャネット・ベイカー、ロバート・ティアー、ハンス・ゾーティンを揃えた75年の録音です。合唱はニュー・フィルハーモニア合唱団。ロンドン、キングスウェイホールでの収録です。ジュリーニのディスクではEMIでの収録は古い。歌劇の録音も多数ありました。イタリア的な流麗さを伴ったジュリーニの指揮。「荘厳ミサ」の訳語をあてられることもある作品。ベームの古い方の録音やクレンペラーなど堅固な演奏とは対照的な流れる美しさを引き出しています。ジュリーニはベートーヴェンのもう一つのミサであるハ長調の作品も録音しています。ハ長調の作品は、ハイドンで有名なエステルハージ家の依頼によるものです。第五、六の交響曲、第四ピアノ協奏曲という歴史的な公開初演の際に、このハ長調ミサの一部が演奏されました。最もベートーヴェン的な作品が生み出された時期のハ長調ミサ。エステルハージ家、ハイドンの作品を検証の上に生まれたものでした。当時の常識とは乖離があるものです。その十六年後のミサ・ソレムニスもまた当時としては規格外の作品であることには変わりありません。ベートーヴェンはミサ・ソレムニスを生み出すために過去のポリフォニーを検証しました。バッハ、ヘンデル、さらに古くルネサンスのパレストリーナにまで踏み込みます。作品は教会音楽を大きく超えるものとなりました。ハ長調ミサにも当時の常識を超えていたことを思えば、ベートーヴェンの教会音楽も見えてくるのです。ポリフォニーの昇華もベートーヴェン流。個性的なものとする意思の力が働いています。

 

第九交響曲の「幾百万もの人々よ、抱き合え」はシラーの詩に基づいています。教会の典礼文ではありません。教会音楽であるはずのミサ・ソレムニスにも共通するのは人類愛的な発送です。先述したようなドイツ的な演奏とは、作品のこうした堅固な資質を音楽的に展開したものでした。ジュリーニの流麗には、こうした作品の本質からも宗教的なものを引き出しています。これは奏者の資質と言えるものです。祈り、教会音楽的な面も浮かんできます。ポリフォニーの各声部もよく歌う。

 

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