2001年録音。キーシンのムソルグスキーの展覧会の絵の録音です。ラヴェルの編曲で世に広まった作品。遅れてピアノ版が認知されることになりました。ムソルグスキーにはアカデミックな書法に関して問題がありました。ロシア五人組の多くは音楽以外に生業があります。アマチュアの集団です。ピアノ版の展覧会の絵も作曲者の死後五年目の1886年に出版されました。それは作品完成からすると十二年を経過。遺構を整理していたリムスキー=コルサコフの手を加えたものでした。晩年のムソルグスキーは作品への関心を失っていました。作曲も歌劇制作の家庭の中の気晴らしのようなものだったのです。最初のピアノ版も作曲者オリジナルのものとは区別されています。ラヴェルの編曲が優れたもので、繰り返されるプロムナードも楽器編成を変え、用法も隅々まで考慮されています。ホロヴィッツの展覧会の絵も非常に有名なものですが、これもホロヴィッツ版ともいうものでした。のちに原典版が見直されると作品の面妖な面と、独自性が認識されることになりました。今なお多くの編曲がつくられ続けています。十九世紀、ロシアに限らず、ここまでの独自性を備えた作品はありませんでした。キーシンの演奏は、ピアノ版がすでに認知されたところから出発しています。一枚のアルバムを満たすには展覧会の絵は短い。あわせて収録された作品にも奏者の考えが反映します。バッハ(ブゾーニ編)のトッカータ、アダージョとフーガBWV584に、グリンカの歌曲「ひばり」のバラキレフのピアノ編です。難曲をこなすのは自明のこと。プロムナードのわかりやすい音楽が間をつなぎ、ハルトマン(ガルトマン)の絵画を巡ります。一曲いっきょくの性格を描き出す作品。グロテスクなものから、後半の威容があり、キーシンは作品の力学を捉えています。切れ味はかなり鋭い。

 

バッハの編曲も、オリジナルであるオルガンから響きも異なります。ブゾーニの手を経て現代のピアノの性能を生かしたものとなっています。バロックよりもロマンを感じさせルものです。かつてホロヴィッツもとりあげていました。グリンカの歌曲のピアノ編と合わせて、改めてキーシンのロシア出自を感じさせるものとなっています。

 

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