バッハのブランデンブルク協奏曲。シモン・ゴールドベルクが55年に結成したオランダ室内管弦楽団を率いての58年録音盤です。リヒター、ミュンヘン・バッハの録音が68年のものでした。十年先行する録音です。ポーランドに生まれ、ランドフスカに見出されたゴールドベルク。フルトヴェングラーの元のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、コンサート・マスターの二十代での就任。リリー・クラウスとの共演のモーツァルト、ヴァイオリン・ソナタ録音といった有名な逸話の持ち主です。カール・フレッシュに学ぶ。ユダヤ系だったためにベルリン・フィル時代は短いものでした。ナチス政権下に安息の地はありませんでした。モーツァルト録音が有名なために、見逃されがちだったために、もっとも大切にしてきたバッハ演奏は埋もれがちです。アーノンクールらによってはじまった時代楽器によるブランデンブルク協奏曲。特に、楽器の音量のバランスは大きく変わっていきました。編成が異なる協奏曲集は、名手が揃えられた音色を楽しむものから合奏隊と独奏楽器(群)と響きの対比の音楽へと変わっていったのです。ランドフスカのチェンバロ復興は、発想的には時代楽器の使用と異なることはありません。使用楽器が金属フレームのもので響きは現代の復興チェンバロとは異なるものです。発想は、バッハの音楽の響きに迫ることにあります。シモン・ゴールドベルクがフルトヴェングラーに評価されたのは、演奏の直截性でした。ロマン的な身振りからは遠く、音楽を直接伝えるものでした。ブランデンブルク協奏曲では、アンサンブルの中にあり、全体をコントロールしています。その指揮にも評価が及ぶものとなっています。今日的には人間的な温もりのある演奏ですが、身振りは少なく率直です。モダンの響きは時代楽器と異なり、音量に差異があります。楽器配置なども行い、音量操作を経て楽譜は読み込まれています。発想的には時代楽器の演奏的なバランスとなっています。

 ヴァイオリンの響きも特別です。ヴァイオリン協奏曲を加えての選集として出ています。指揮と同様に、持ち味はアンサンブルの中で生きるものでした。リズムははっきりとして、一定の速度感を持っています。何より、バッハ的な響きの再現ということではなく、音楽的な感興を伴ったものでもあることです。衒学ではなく演奏行為なのです。

 

人気ブログランキング
人気ブログランキング