パリ管弦楽団時代のバレンボイム。フランス音楽の精華であるドビュッシー作品集の一枚です。77年録音の交響的断章「聖セバスティアンの殉教」、二つのファンファーレ、交響組曲「春」を収録しています。バレンボイムのパリ管弦楽団主席時代は75年から89年のことです。ミュンシュに始まるフランスの高峰オーケストラの一つ。ベルリオーズの幻想交響曲、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第二組曲といったフランス音楽にまじり、ブラームスの交響曲第一番の録音がありました。フランスのオーケストラを揶揄する喩えとしてやる気を見せない時があり、質の低下を指摘されるのです。ドイツ音楽の典型でもあるブラームスの演奏では本気の時だけに発揮される勢いに満ちたものでした。もともと熱演タイプのミュンシュの指揮。大きく風車のように振り回す独特のスタイルでした。大味となってしまう寸前の時もありますがパリ管弦楽団の響きは違いました。そこには名手を寄せてのオーケストラの「はじまり」があったのです。あっという間にミュンシュは亡くなり、その後のドイツ系の指揮者が続くことになります。バレンボイムはドイツ系ではありませんが、フルトヴェングラーへの私淑をはじめワーグナーのニーベルングの指輪ではドイツ人以上に濃厚な演奏を展開します。ベートーヴェンは管弦楽に、ピアノソナタの複数回に及ぶ録音という無双ぶり。バレンボイムのパリ管時代は十年を超える長期政権でした。そして、合奏力の低下を招いたとして批難もされるものでもありました。パリ管弦楽団は異国の指揮者が率いてもフランスらしさを失わないオーケストラです。独特の音色を持ったもの。バレンボイムはプログラムのうちにドイツ音楽や、二十世紀音楽を取り入れます。世界には多くの管弦楽曲があります。固有の特性を持つことは当然ですが、各国の音楽を表現できる団体でなくてはなりません。地域の楽団から世界的な楽団へと成長する契機を与えたのはバレンボイムの功績とされます。
ドビュッシーの録音では、ここに収めたもの以外に「海」や「夜想曲」「牧神の午後への前奏曲」「映像」も録音しています。「聖セバスチャン」は代表曲からやや外れた位置にあります。晩年の作品で歌劇化する計画もあったとされています。当盤は助手として管弦楽化に携わったカプレによる断章を収めています。ファンファーレはこの断章にはありません。劇音楽からとられたものです。交響組曲「春」も若き日の作品をビュッセルが管弦楽化したもの。つまり作曲者以外の手が入ったものなのです。ドビュッシーは自身、固有の管弦楽の扱いを持っていた作曲家でした。バレンボイムの当盤は、フランス的なトーンをよく引き出していルト思います。