メンデルスゾーンのエリヤは三大オラトリオの一角を担っています。あとにはヘンデルのメサイア、ハイドンの天地創造の二作品。バロックと古典を代表するものです。ロマンのエリヤと音楽史の時代配分に分布します。リリングの94年のエリヤ録音は宗教的声楽曲を得意とする指揮者の代表的な録音の一つとして知られているものです。メンデルスゾーンのエリヤも先達であるヘンデル作品に強く感化されて生まれました。二十歳の時のバッハのマタイ受難曲の蘇演がバッハ再考のきっかけとなったことも見逃せません。ヘンデルのオラトリオには歌劇で培った劇場的な展開がありました。バッハの対位法を駆使した書法。メンデルスゾーンは、その融合的な効果を狙ったのです。メンデルスゾーンは完全な歌劇を扱うことを計画していました。オラトリオは劇的な展開の可能性を持った分野です。聖書からとられる内容を劇のように配置するのです。新訳聖書で描かれるのはイエスの変容です。ペトロ、ヨハネ、ヤコブの三人の弟子を伴った山上。イエスは旧約聖書のモーゼ、エリヤとともに聖なる変容した姿を見せるのです。ここでのエリヤは預言者の代表格。オラトリオで描かれるところは新約聖書ではなく、旧約聖書中での活躍です。冒頭、エリヤの「わたしの仕えるイスラエルの神」と歌い出されるところからはじまります。これに続き序曲が置かれるのです。神の助けは信仰なきところにはもたらされない。イスラエルは二つの国に分裂していました。アハブ王の妃イゼベルはバアル神を信仰していました。エリヤは王権を批判してまで信仰を貫いた預言者として英雄視されています。有名なカルメル山での対決。王国には雨がなく、神への祈りを奇跡対決という形で行うものでした。バアルの祭司は四百五十人。エリヤは一人で趣木、神からの返答を受けることになるのです。奇跡はもたらされますが、イゼベルとの対立は決定的となります。孤高を恐れない頑なな信仰。これも大きなテーマとして織り込まれます。

 

リリングの指揮は自然な楽曲の流れに対応しています。ことさらに劇性を強調はしていません。メンデルスゾーン作品もヘンデルの展開、バッハの書法からの影響など、教会音楽の系譜にあるのです。メンデルスゾーンはマタイ受難曲、蘇演の際にも時代に適応するものとして管弦楽に手を加えました。バッハの時代当時はなかったクラリネットの使用があります。エリヤにも民衆の合唱など聖書中にないものも挿入されます。キリスト教に改宗したメンデルスゾーン家。教会音楽には、私的な心中も反映しているものでしょう。

 

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