さよならは いつも悲しい と同じ場所でのことです。
夢の中の話です。
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『君に信じて欲しかったんだ。
それは もう叶った。
だから これでいい』
彼女が静かに言う。随分と穏やかだ。
彼女が思い残すことは何もない。これで、最期だから。
ここは駅のプラットホームで
ここは、お別れの場所だ。
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彼女は無念の人だ。
こう表現すると気を悪くするだろうけど、彼女はいつも悔しがっていた。
『ちくしょう。バカにしやがって』
『ちくしょう。なんで私がこんなことに・・・』
『見返してやる』
彼女は負けない。
悔しがりながら、怒りながら、でも諦めない。
傷ついてでも、前に行こうとする。
厳しくて、強烈で、哀れだと思う。
悔しがって泣く彼女を何とかしようと、私は精一杯頑張った。
いつか彼女が喜びで満たされて、私は達成感と誇らしさで一杯になる。
それが私のゴールだった。
だから、皆に認められるよう、優秀であるように、努力して、一生懸命 考えて...
それで出来ることがあったり、失敗したり。
そうしているうちに、疲れてしまった。
いつになったら満足できるんだろう。
やってもやっても終わらなくて、嫌気がさしてしまったのだ。
ごめん。
今から去るのは彼女だけど、
最初に見捨てたのは私の方だ。
なんて情けない。
『君はよく頑張ったよ』
「・・うん」
彼女がねぎらう。
罪悪感がずんと重くなる。
いつもみたいに厳しく言ってほしかった。
(私を許さないでほしい)
どうしようもなくなってる私を見て、
彼女が話題を変えた。
『これからが大変だよ』
『私が離れたら、君は善い人ではいられなくなるからね。』
言われて気がついた。
彼女の期待に応えようと頑張ることで、私は自分を信じていられたのだ。
(自分のしていることは善いことに繋がるはず。)
彼女と離れた後、
彼女を見捨てた情けない自分を抱えて
これから どうやって生きていけばいいだろう。
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お互いに無言の時間が過ぎる。
もうすぐ別れが来るのに、答えが見つからない。
(行かないでほしい)
(私1人で、何をしていけばいいんだろう・・・・)
留まってほしいと思いを込めて彼女に目をやった。
視線が合って、彼女はちょっとだけ目を細めた。
”あ 思い直してくれた?”と
期待を持ったのも束の間で、彼女は立ち上がった。
もう行く、という合図だ。
『これからは、自分でやるんだよ』
彼女が厳しい声で言った。
「・・うん」
ホントはNoだけど、うんと言った。
つい、彼女の期待に応えてしまったんだ。
彼女は今、私に強さと覚悟を求めているから・・・
と、思い至った所で、唐突に逆らいたくなった。
こんなの、今までと一緒じゃないか?
「い 行かないでよ」
「無理だよ。できないよ」
「ごめん。私はもう やらない」
わざと違うことを言ってみた。
さすがに彼女の顔が見れなくて、目を逸らしながらだったけど。
・・・・
『ふふ』
声が聞こえた。
顔を上げると
彼女が困ったような優しい表情をしていた。そんなの初めて見た。
え?これで良かったの?
ええ?
と、彼女の目に力がこもった。
いよいよだ。
『元気でね』
「うん」
『ネコと仲良くね』
(驚いた。彼女はネコなんかに興味ないと思ってた)(ネコは彼女にとっては無益だから)
「うん」
じゃあ、という感じで彼女が背を向けてスタスタと歩き出した。
その背がすうっと消える。
行ってしまった。
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あっさりした最後だった。
彼女は潔い。
どうしようもないことをグダグダするような、見苦しい真似はしない。
(でも、ちょっとは思い残して欲しかったなぁ。)
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彼女の言うとおり、これからが大変だ。
でも、一つ希望がある。
彼女の望みは叶わなかったけど
できないと言った私を、彼女は許した。
彼女は そんな自分に満足したのだと思う。
”他人を許す自分”は、それまでの彼女には無かったものだ。
・・・私が、彼女に与えることができたものだ。
私にも、できることがあった。
だから、たぶん大丈夫だ。
(いや、はっきりとは わからないけど。)
(大丈夫かも。たぶん。)
”世界は たくさんのデタラメで回っている。”
(どこかから声が聞こえた。・・・誰かな?)
まぁ、いっか。
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