緋和子(ひわこ) は夢の中のヒトです。

現実には存在しません。

 

彼女は私のパートナーです。

 

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『逃げても いいわよ』

 

突然、緋和子が言った。

 

 

最初は、聞き間違いかと思った。

次に、何かの引っ掛け だと思った。

 (逃がす気なんか、ないくせに!)

 

でも、彼女は真剣だ。

真面目に らしくないことを言っている。

 

 

何か あったのかな?

 

 

彼女の意図が知りたくて

ちょっとだけ頭の中を のぞいて見る。

 

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彼女は今

こわばっている。緊張している。

そして、ウソをついている。

 

(私が逃げたら、彼女は困る。

 逃げて欲しくない。一緒に歩いて欲しい。)

 

 

でも、私をだまそう という感じでもない。

 

 

(どうしたんだろう?

 私、何か変な事 したかな?)

 

 

とうとう彼女に聞いてみた。

 

「どうしたの?

 私が逃げたがっているように、見えた?」

 

 

彼女は少し考えて、口を開く。

 

『いいえ。反対。

 

 あなたは、逃げないようにしている。

 

 逃げないように、頑張っている。

 

 そう、見えたの。

 

 だから、言いたくなったの 』

 

 

『・・・逃げても、いいわよ。 どうする?』

 

 

 

今度は

私の目を見て言った。

 

 

にげる?

何から逃げるのだろうか?

 

緋和子から?

彼女とチームを組んでいる、今の状況から?

 

それとも、自分自身から だろうか?

 

 

 

 

彼女が私の様子を

うかがっているのが、わかる。

 

 

「逃げたりしないよ」って言って、

彼女を安心させようと 思ったんだけど

ふと 考えがよぎる。

 

 

逃げてみようか?

逃げて、何をしようか?

何か、するのだろうか?

 

・・・・・

 

 

不意に ぜんぜん関係ないことが

頭に思い浮かんだ。

 

 

(海を、見に行きたい)

 

 

海を見たいと思った。

あるいは、広大な地平線 とか。

 

とにかく でっかいものを見たいと思った。

 

途方もなく大きいものを

目の前にしたら

緋和子もびっくりして、言葉を失うだろう。

 

二人して 胸をいっぱいにしながら

無言でたたずんでいる。

 

・・なんとも感動的な場面だ。

 

 

(ああ、私は、緋和子と離れる気は ないんだな)

 

ちょっと笑えてきて

口元がゆるむ 私を、

彼女が いぶかしげに見る。

 

 

私は彼女を振り返る。

 

「海を、見に行こうよ。

 海じゃなくても、

 なにか、

 でっかくて 素敵なものを 見に行かない?」

 

 「どう?いいと思わない?」

 

 

彼女が

目を柔らかくして同意する。

 

『・・・・ええ。いいわね』

 

 

うん。

我ながら

ナイスアイデアだ!

 

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”海”が何をあらわすのか

それは どこにあるのか

全然 検討もつかないけれど

 

私は、行く気満々だった。

 

(たぶん、遠い所にあるから、

 いろいろ準備しなくちゃ。)

 

緋和子は 隣で静かにしている。

 

 

不思議だ。

いつもは背中を押される側なのに、

今は、私が彼女の手を引っ張っている。


 

・・・あれ?

私たちは、そもそも どこを目指していたのだろうか?

 

元々の目的地が、思い出せない。

??? んん??

 

 

 

・・・まぁ、いっか。

二人で海を目指して、エスケープだ。

 

きっと、楽しい旅路になる。

 

 

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緋色の彼女(緋和子) については こちら↓

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