緋和子(ひわこ) は夢の中のヒトです。
現実には存在しません。
私が一人で静かにしている時
頭の中で話しかけてきます。
彼女は私のパートナーです。
きびしく、しつこく
私をサポートしてくれます。
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ため息ひとつ付いて、
緋和子が私に言う。
『あなたって、全然わかっていないのね』
もう何度も聞いた、このセリフ。
はぁ。 しょーがないじゃん。。。
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緋和子は私に色々な助言(要求)をする。
例えば、
この本を読んで、理解して、考えて とか
(・・・厚い。そして重い。)
ここに行って とか
(けっこう 遠いんですけど・・・)
この人に話しかけて とか
(どうやって?)
・・・・・
ハードルが、高い
色々言うのは緋和子だけど、
実際にやるのは 私だ。
私には
仕事があるし
家事もあるし
人付き合いもある。
常識も、限界も、ある。
(ぜんぶ 言うとおりには、できないよ~)
『いいから、
つべこべ言わずに やって』
『やるの!
さあ、行きなさい。
ほら! はーやーく! 』
緋和子から見れば、
私の行動は グズったくてイライラするんだろうけど。。
いや、しかし、
しょうがないじゃん!
わたしだって、
わたしだって、
がんばってる!
私はぐいっと振りむき
力を入れて、緋和子の目を見た。
「 私は人間なんだ!
"やれ"と言われても、
心の準備が必要だし、すぐには動けない!」
緋和子がびっくりしている。
そして、ちょっと傷ついている。
でも、私は最後まで言いたかった。
モヤモヤしたものを
自分から べりっと剥がして、彼女に投げつけたい。
「だいたい、
緋和子は私にやらせてばかりじゃん!
私には、何も 見えていないのに!
本当に これで合ってるの?
私、間違ってない?
このまま行って、大丈夫になるの? 」
「ってゆーか、無理!
もう、なんていうか、
わたし、信じきれない 」
・・・・・・
後から振り返って考えると
あの時、私は緋和子に 優しくしてほしかった。
そして、「大丈夫。合ってる。ちゃんと 正しく やれてる」って、
肯定して欲しかった。
私を信じさせて
不安を、消して欲しい。
安心させてほしい。
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しかしながら、
緋和子の返答は、意外なものだった。
『・・・わからないの』
(はぁ!?)
『なんとなく、こっちの方向に行くような 気はする。
でも、それが 正しい道なのかどうか は
わからない』
『わたしにも、よく わからないの』
いつも強気な緋和子が、
ちょっと自信なさげに言う。
(ええー。そんな。 う そ だぁ)
足元がぐらつく。
どーしよう。
これから、どうすれば・・・・
『でも、大丈夫』
彼女が私の服の襟口をにぎっている。
(ああ、私が倒れないように
引き止めているんだ。)
『もし、正しい道から それたら
私が そこに、道をつくるから』
(・・・・・?)
彼女が、
もう一方の手の平を 下に向ける。
すると、地面に キラキラとした星屑が集まって、
天の川みたいな 光の道ができた。
(うわ・・・すごい )
彼女が、ちょっと笑って
言葉を続ける。
『現実世界で どうなるか は
わからない。』
『でも、どんな感じになっても
私は あなたと一緒に行く。
だから、大丈夫。』
彼女の目を見る。
目に、熱がこもっている。真摯な光がある。
彼女は本気だ。
(もっとも、彼女がウソをついたことは ないけど)
私の頭が冷えて、
ちゃんと目が見えるようになる。
言葉も、ちゃんと出てくる。
「・・・・山道になるかも しれないけど、大丈夫?」
彼女は長いスカートと
華奢なクツをはいていて、
どこかの お屋敷にいるような服装だ。
山道を行くのは、難しそう。
『ふふ。
その時は、登山靴に履きかえて、スキップしながら行くわ。』
緋和子が笑う。
気が付くと、私も笑っている。
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『ほら、行くわよ』
緋和子は、今日も絶好調だ。
これから どうなるのか わからないけど、
まあ、大丈夫。
どーにかなるだろう。
・・・たぶん。
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緋色の彼女(緋和子) については こちら↓
(小話: ふたたび 砂漠へ)
(小話: 春告鳥(はるつげどり)の知らせ)
2 二人分の夕焼け