夢の中のヒトが登場します。

 

緋色の彼女 については↓を見てください。

2  二人分の夕焼け

1  彼女の やさしさについて

 

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「あら、いいじゃない。それ」

 

 

緋色の彼女が言った。

 

私がネットサーフィンをしていた時、

画面を覗き込んだ彼女が ある記事に興味を示した。

 

デザイナー志望の女性が

自分の作った服を紹介する記事だった。

 

記事の中で その女性は、自分の”好き”を紹介し、

これからの展望を語っている。

 

ああ、楽しそうだな。いいな。 と

私も丁度思ったところに、彼女の言葉が降ってきた。

 

 

 

 

 

(彼女が何かを誉めるなんて、珍しいなぁ・・・)

口には出さずに、私は頭の中だけで考えた。

 

 

彼女は いつも強気で、尊大で、自己主張が強く

あまり他人に関心を持たない。

 

私のことも、ダメ出しすることはあっても

誉めることは皆無だ。

 

(まぁ、彼女の”ゆるぎなさ”が

 私の背中を押してくれるので、別にいいんだけれど。)

 

 

彼女が他所に興味を持つことも、あるんだ。

ふーん。 そーなんだ・・・

 

 

自分の考えに一区切りがついた所で、

私は その”ちょっと珍しい一コマ”を 日常の中に埋め込んだ。

 

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その後。

 

彼女から時々、見覚えのある感情が流れてきた。

”あら、いいじゃない。それ” の感情だ。

 

ちょっと面白いものを見つけたとき。

同僚の、小さな仕草をカワイイと感じたとき。

他人の考えを聞いて、 なるほど と思ったとき。

 

 

それらの光景は、私の目を通して

彼女にも見えている。

 

そして、ふと気付くと

彼女から あったかくて強い感情を感じるのだ。

 

熱意。興味。関心。

彼女が 目の前の事象に注目している。

 

ふーん。

 

 

・・・・・

 

 

あれ?

彼女は こんなヒトだっただろうか?

 

こんな、好奇心旺盛な感じだったっけ?

今の彼女は ずいぶん柔らかで、子供っぽい。

 

 

彼女は強くて、情熱的で、厳しくて、

凛としていて、ゆるぎない、落ち着いた・・・・ヒトだった、はず。

 

 

私は彼女を しげしげと見た。

 

何があったんだろう?

どこが変化したのだろうか?

 

あれ?私の認識が間違っていたのか?

 

 

 

感情と思考が混ざって ぐるぐるしている私に

彼女が温度のある目を向けた。

 

その目が示すのは

”あら、いいじゃない。” だ。

 

彼女が私に、温かく優しい目を向けている。

彼女が、私に・・・・!

 

 

信じられない事態に

私は いよいよ混乱してくる。

 

 

彼女の目が いたずらっぽく光る。

”ようやく 気付いたの?”という感じだ。

 

 

 

彼女が言う。

 

「変わったように見えるのは、私じゃない」

 

「今まで 私をイメージだけで見ていたあなたが、

 私の別な所に 関心を向けたの」

 

「気付いてる?

 変わったのは、むしろ あなたの方なのよ」

 

ふふ。

 

言うべきことを言って、

彼女は言葉を閉じた。

 

 

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変わったのは私の方だ と彼女は言う。

 

本当だろうか?

私は変わることができたのだろうか?

 

私は、少しはマシになれたのだろうか?

 

 

 

じわじわと、達成感に似たものが浸み出てくる。

 

信じがたい事態だけれど、

私は、彼女の言うことなら信じられる。

 

どうやら、私は変化している らしい。

ふーん。 きっと、そーなんだ。