◎ようこそのお運びで。春は人生と同じく忽ち過ぎてゆく。自宅で一人いると自然となだそうそうになってしまうのが厄介である。拙写真は3月上旬のものです。
◎満開から散り際の京都・城南宮の枝垂れ梅と椿(前回は六分咲きの枝垂れ梅)。地面に散り敷く花びらに注目。
蝦夷錦
七曜変化
千代の春
有楽
華園
お題
「秋をへて 時雨ふりぬる 里人も かかる紅葉の をりをこそ見ね」(源氏物語・藤裏葉)
◎夕風が吹き、色々な色、様々な濃淡の紅葉が錦をなす庭で、名門の家の可愛い童たちが舞を見せる。殿上で音楽の演奏も始まる。
源氏物語六百仙
◎物の興切なるほどに、御前にみな御琴どもまゐれり。宇陀の法師の変らぬ声も、朱雀院は、いとめづらしくあはれに聞こしめす。
☆秋をへて 時雨ふりぬる 里人も かかる紅葉の をりをこそ見ね
恨めしげにぞ思したるや。帝、
☆世のつねの 紅葉とや見る いにしへの ためしにひける 庭の錦を
と聞こえ知らせたまふ。御容貌いよいよねびととのほりたまひて、ただ一つものと見えさせたまふを、中納言さぶらひたまふが、ことごとならぬこそめざましかめれ。あてにめでたきけはひや、思ひなしに劣りまさらん、あざやかににほはしきところは添ひてさへ見ゆ。笛仕うまつりたまふ、いとおもしろし。唱歌の殿上人、御階にさぶらふ中に、弁少将の声すぐれたり。なほさるべきにこそと見えたる御仲らひなめり。
・・・興が最高潮の頃に、お三方の御前皆に御琴を差し上げた。和琴の名器・宇陀の法師の変わらぬ音色も、朱雀院は、まことに久しぶりでしみじみとお聞きになる。
☆秋をへて 時雨ふりぬる 里人も かかる紅葉の をりをこそ見ね
恨めしそうに思いなさったことであった。帝が、
☆世のつねの 紅葉とや見る いにしへの ためしにひける 庭の錦を
とお知らせ申し上げなさる。(帝の)ご容貌は年齢を重ねてますますご立派になりなさって、(源氏と)瓜二つに見えなさるが、中納言(=夕霧)のお控えなさっていた、(その容貌がまた、)別人と見えないのが驚くほどである。気品があって立派な様子は、思いなしで優劣があろうが、整ってはなやかなところは(中納言に)加わっているようにまで見える。(中納言は)笛をお吹き申し上げるのが、とても興趣がある。唱歌の殿上人が御階に伺候している中で、弁少将の声が優れている。やはりしかるべき優れた方々を輩出する家系なのだと思われるご両家であるようだ。・・・
興が最も高まった頃、冷泉帝・朱雀院・太政大臣に琴が用意され、帝と院は歌を詠み交わす。帝の容貌は源氏に瓜二つで、中納言(=夕霧)もそっくりだが、華やかさが備わっている。太政大臣の息子の弁少将の歌唱力も格別である。このように、源氏と太政大臣の両家は優れた家系だった。
◎歌を取り出し、検討する。
朱雀院の歌
☆秋をへて 時雨ふりぬる 里人も かかる紅葉の をりをこそ見ね
・・・幾度もの秋を経て、時雨が「降る」ように「古る」びてしまった里住みの私も、このような紅葉の折を見たことはありません。――私の在世中に、このような見事な紅葉の賀を設けることはできませんでした。・・・
①「時雨ふりぬる」・・・「ふり」は「降り」と「古り」との掛詞。
☆『古今集』
「782 今はとて わが身時雨に ふりぬれば 事のはさへに うつろひにけり」
☆『後撰集』
「448 秋はてて 時雨ふりぬる 我なれば ちることのはを なにかうらみむ」
②「里人」・・・宮仕えをしていない民間の人。ここでは、帝位を降りた朱雀院が自分を卑下して言う。
冷泉帝の歌
☆世のつねの 紅葉とや見る いにしへの ためしにひける 庭の錦を
・・・世間普通の紅葉とご覧になっているのでしょうか。昔の紅葉の御賀に倣った庭の錦ですのに。・・・
①「いにしへのためし」・・・過去の先例。ここでは具体的には桐壺帝の御代の紅葉の賀を指す。
☆『後拾遺集』
「1227 いにしへの ためしをきけば 八千代まで 命を野べの 小松なりけり」
朱雀院は、自身を宮中の政治から引退した「里人」と卑下し、幾度をも秋を経て年老いてしまった自らの在位期間にこのような紅葉の賀の盛儀は開催できなかったと自分の治世を情けなく恨めしく思っている。冷泉帝は、この紅葉の賀は、桐壺帝の聖代に倣ったものに過ぎず、その当時、院も東宮として聖代を支えていたと返答し、朱雀院を慰める。
おまけ
医大プロジェクトチームの研究に参加して下さった被験者の皆様のご尽力と、
ネンタ医師の困っている患者様を何とかして救いたいという熱意と、
被験者様に集まっていただこうとして開設したこの拙ブログの存在も少しばかり貢献して実現した論文
国際科学雑誌 「PLOS ONE 」の論文
「Brain Regions Responsible for Tinnitus Distress and Loudness: A Resting-State fMRI Study」
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0067778
二報目
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0137291