ようこそのお運びで。コロナ後、よれよれになって2回転倒。顔・膝を強打。その上、明日は命日。鬱鬱です。

前向きにならねば。

◎京都・御苑の桃・梅(3月26日)

 

 

 

◎京都・首途八幡の木瓜(3月26日)

 

◎京都・三室戸寺の枝垂れ梅②(近景・中景)3月上旬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お題

なき魂ぞ いとど悲しき 寝し床の あくがれがたき 心ならひに」(源氏物語・葵)六条御息所をめぐる歌⑧

 

源氏が左大臣邸を去る日が来た、左大臣は源氏を見送り、葵の上も源氏もいなくなった部屋に入る。

 

御帳の前に御硯などうち散らして手習ひ棄てたまへるを取りて、目をおししぼりつつ見たまふを、若き人々は、悲しき中にもほほ笑むあるべし。あはれなる古言ども、唐のも大和のも書きけがしつつ、草にも真字にも、さまざまめづらしきさまに書き混ぜたまへり。「かしこの御手や」と空を仰ぎて眺めたまふ。他人に見たてまつりなさむが惜しきなるべし。

「☆旧き枕故き衾、誰と共にか」

とある所に、
 ☆なき魂ぞ いとど悲しき 寝し床の あくがれがたき 心ならひに
また、「霜華白し」とある所に、
 ☆君なくて 塵積もりぬる とこなつの 露うち払ひ いく夜寝ぬらむ
一日の花なるべし、枯れてまじれり。

・・・二人の御帳台の前に御硯などを散らして、源氏が手すさびに書いて棄てなさったものを手に取って、涙を絞りながらご覧になっているのを、若い女房の中には、悲しみの内にもくすりと笑う者もいるのだろう。しみじみ胸を打つ古人の言葉の数々を書き散らしては、草仮名でも漢字でも、さまざま珍しい様子で書き混ぜなさっている。「お見事な後筆跡だ」と空を仰いで物思いに沈むなさる。源氏を他家の者として見申し上げることが残念なのだろう。

「☆旧き枕故き衾、誰と共にか」

とある所に、

 ☆なき魂ぞ いとど悲しき 寝し床の あくがれがたき 心ならひに

また、「霜華白し」とある所に、

 ☆君なくて 塵積もりぬる とこなつの 露うち払ひ いく夜寝ぬらむ

先日、大宮に歌を贈った時、手折った撫子なのだろう、手すさびの反古の中に枯れて混じっていた。・・・

 

左大臣は源氏の手すさびの反古を涙を浮かべて見る。草仮名や漢字で古人の詩歌を書き散らしているのを見て、その筆跡の見事さに空を仰ぐ。「長恨歌」の一節を書いた傍らに源氏の歌が記されていた。

 

源氏物語六百仙

 

 

◎和歌、引用漢詩を抜き出す。

 

旧き枕故き衾、誰と共にか・・・以下の漢詩の引用。

「長恨歌」(白居易)

「鴛鴦の瓦は冷たくして霜華重し。旧き枕故き衾誰と共にせむ」

・・・夫婦仲の睦まじさの象徴である鴛鴦の形の瓦は冷たくて、白い華のごとき霜が深い。旧い枕や衾を(楊貴妃以外の)誰とともにしようか。・・・

寒い晩に、葵の上が傍らにいない独り寝を嘆いたもの。

 

☆なき魂ぞ いとど悲しき 寝し床の あくがれがたき 心ならひに

・・・共寝した床はいつも離れがたいものであったため、ここから立ち去る亡き人の魂のことがますます悲しく思われることだ。・・・

①「あくがる」・・・離れる。彷徨い出る。

『後拾遺集』

「1162 ものおもへば さはのほたるを わがみより あくがれにける たまかとぞみる」

『馬内侍集』

「164 身からこそ とにもかくにも あくがれめ かよはむ玉の をだえだにすな」

②「心ならひ」・・・習慣。心のならわし。

『重之集』

「27 うらもなき 心ならひに かりころも かへさじとまで おもひけるかな」

『伊勢大輔集』

「166 人をみる ひとはひとをや わするらん 心ならひの うきこころかな」

 

長恨歌の「旧き枕故き衾誰と共にせむ」を「旧き枕故き衾、誰と共にか」とすさび書きした傍らに、長い間共寝をしていた葵の上が亡き人となってしまった悲嘆を和歌で詠む。

 

 

☆君なくて 塵積もりぬる とこなつの 露うち払ひ いく夜寝ぬらむ

・・・あなたがお亡くなりになって塵が積もってしまった床で、涙を拭いながら、一体幾夜独り寝をしたことだろう。・・・

①「塵積もりぬるとこ」・・・共寝をしないので塵が積もる寝床

『和泉式部集』

「200 かはりゐん ちりばかりだに しのばじな あれたるとこの 枕みるとも」

『定頼集』

「148 恋ひわびて あひ見しとこに 立ちよれば まくらにちりぞ まちゐたりける」

②「とこなつ」・・・「常夏(=撫子)」の「とこ」に「床」を掛ける。

『古今集』

「167 ちりをだに すゑじとぞ思ふ さきしより いもとわがぬる とこ夏のはな」 

『後拾遺集』

「227 きてみよと いもがいへぢに つげやらむ わがひとりぬる とこなつの花」

 

「長恨歌」の「霜華重し」を「霜華白し」とすさび書きした傍らに、葵の上を亡くして幾晩も独り寝をしている悲しみを和歌で詠む。