タイトル通り宏美さん19才の2月にリリースされた、12thシングルである。YouTubeで「二十才前」の動画をいろいろチェックしていたら、「自分は宏美さんと同い年なので、この歌を聴くと自分の二十才前の頃を思い出す」といったようなコメントがいくつか見られた。私自身は宏美さんよりも3つ年下なのだが、“遅れて来たファン”であったため、この曲を初めて聴いたのが19才になる年の1月であった。なので一番頻回にこの歌を聴いていたのは、間違いなく19才の時であろう。宏美さんの同い年の方々と同様に思い入れも強いのである。この後宏美さんは20才になる前にあと3枚のシングルを出しており、実際の10代最後のシングルは「さよならの挽歌」になる。

 

 宏美さんのシングルは、8作目の「想い出の樹の下で」を区切りとしていったん阿久×筒美コンビの手を離れる。その後、阿久先生的に言えば「岩崎宏美をどう成人させるか」若干の試行錯誤が見られる。そして11枚目のシングルである初のバラード「思秋期」が、「ロマンス」「センチメンタル」に次ぐ自身3位(当時)のセールスを記録する大ヒットとなった。その直後のシングルということで、もしかするとスタッフも頭を悩ませたかも知れない。

 

 「二十才前」の作詞は引き続き阿久先生、作編曲はシングルでは初起用の穂口雄右さん。「思秋期」の大ヒットにあやかり、大人っぽいバラード路線をもう1曲続けるのか。それともまだ落ち着くのは早いと考えて、アップテンポのポップな楽曲に回帰するのか。スタッフは頭をひねったことだろう。

 

 

 そこで生まれたのが、今われわれがよく知っている「二十才前」だ。印象的な6連符の下降形のイントロで始まり、「思秋期」よりもさらにグッとテンポを落としたスケールの大きなヴァースを訴えかけるように歌う。「♪ 逢って下さいと」まで歌うと、突如倍テンに近い速さになり、疾走感さえあるビートを伴った軽快な曲調に変貌するのである。

 

 「『作詞家』岩崎宏美はヴァースがお好き?」のブログでも第1位として扱ったが、宏美さんの歴代シングルでもスローなヴァースの後に劇的にテンポアップ、という曲は他には「未完の肖像」があるだけである。10代にしてこのようなドラマティックな構成を難なく歌いこなしてしまうところが、やはり「岩崎宏美」なのである。

 

 内容的には、「十六 十七 十八と愛した」人が忘れられず、目の前の人を愛せない主人公がその気持ちを手紙に託す、二十才前の揺れる乙女心を歌ったものである。「ザ・マン」のブログでも触れた通り、「ザ・マン」の後日譚と考えることもできるし、16〜18才というと高校生活の3年間と考えるのが自然で、そうなると「思秋期」の続編という風にも聞こえる。

 

 この曲を宏美さんのボーカルという視点から捉えると、何と言っても特徴的なのは宏美さんの「♪ いつもいつも心にー」という、ロングトーンである。この曲は、音域的にはデビュー当時の他の曲に比べると低い。最高音はB音に過ぎない。「二重唱」から「夏に抱かれて」まで*のシングルは、「二十才前」を除いて最高音がハイC、ハイC♯(ハイD♭)、ハイDのいずれかである。ハイCが「熱帯魚」のみ、ハイDは「ロマンス」「悲恋白書」「夏に抱かれて」の3曲で、他の曲は全てハイC♯(ハイD♭)で圧倒的に多い。だが、「二十才前」を聴くと、宏美さんの伸びやかな高音が印象に残るのは、このB音でのロングトーンの所為なのである。

 

* 次の「万華鏡」の最高音はB♭止まりで、「岩崎宏美の得意技を全て封じた」名曲とも評される。

 

 そのロングトーンが冴え渡って聞こえるのは、穂口さんのメロディーメイク、アレンジワークが絶妙で、功を奏しているためとも言えよう。全体の構成はヴァースのあとABC×2のシンプルなツーコーラスである。だが、ブリッジに当たるBメロ「♪ あなたがいる あなたがいる」は、音域的に一旦低めに下がり、バックのビートも止まる。そして「♪ いつもいつも心にーーーーーーーーーーーー」で再びビートが動き出し、B音で約3小節に及ぶスーパーロングトーンが飛び出すのだ。さらに巧いと思うのは、その後のサビ「♪ このままー二十才の 階段をのぼればー」と同じB音のロングトーンを繰り返すところ(太字)である。しかもここはオクターブの跳躍を伴い、劇的ですらある。『夜のヒットスタジオ』の映像からご覧いただこう。

 

 

 レコードの録音や、今お聴きいただいたテレビの音源では柔らかなロングトーンであるが、これがこの曲を歌い慣れた78年後半のリサイタルになると、どこか吹っ切れたような、歌いっ放す感じがこれもまた良いのでこちらもご紹介しておこう。

 

 

 「二十才前」と言えば、シングル初回プレスのいわゆる“鼻声バージョン”に触れなければなるまい。私がこの歌のスタジオ録音を聴いたのは『岩崎宏美 ベスト・ヒット・アルバム』(1978)、次いでアルバム『二十才前…』、そしてしばらくしてシングル盤の「二十才前」という順だった。なので、シングル・バージョンを聴いた時はビックリすると同時に、何も事情を知らないなりに、「レコーディング時点で鼻声だったので、アルバム収録時に差し替えられて、ベスト盤でもアルバムのテイクが採用されているのだろう」と勝手に了解していた。当時はインターネットもないし、私にはファン仲間の情報網もなかったのだ。もちろん、「これはこれで貴重な音源」というマニアックな想いはその時からあった。😉

 

 だが、後年事実が概ね自分が推測した通りと知り、内心ニヤリ。そこを宏美ファン代表である音楽マーケッターの臼井孝氏が“イニシャル・バージョン”と題し、『二十才前…+4』のボーナストラックとしてCD化(2007年)を実現してくれたのである。今聴いてもすごい鼻声で、サビなど「♪ こどばばー二十才の 階段をどぼればー」と聞こえる❓😅💦このテイクは今なお貴重で、YouTubeでも Apple Musicのサブスクでも見つからなかった。皆さん、どうぞ紙ジャケの『二十才前…+4』をお求めください(笑)。

 

 YouTubeを検索していたら、宏美さんの親友・森昌子さんが歌う「二十才前」を見つけた。これまた貴重なので、今日はこれを聴いていだいてお別れしたい。

 

 

(1978.2.5 シングル)