約ひと月前の今年8月15日。コットンクラブで行われた宏美さんのライブの1stステージで、私は宏美ファンになって丸40年にして初めて、この「センチメンタル」のフルコーラスを生で聴くことができた。そのサプライズに、感涙に咽ぶばかりであった。

 

 なぜこんな代表曲をフルコーラスで聴く機会がなかったのか。私が宏美さんのコンサートに足を運ぶようになった1980年代初頭は、宏美さんはAOR路線や草花シリーズなど、大人の歌手への脱皮を模索する時期であった。初期のディスコサウンドを取り入れた一連のヒット曲は、メドレーの形で披露されることがほとんどであった。

 

 90年代後半、コンサート活動再開以降も同じである。デビュー曲の「二重唱」と、2ndシングルの「ロマンス」はフルコーラスで披露されることはあっても、この「センチメンタル」を単独で聴く機会には恵まれなかったのである。だから、初めてフルで聴けた感動は、皆さんお分かりいただけることと思う。

 

 さて改めて、この「センチメンタル」について述べておこう。3rdシングルにして、オリコン第1位2曲連続達成、春のセンバツ高校野球大会の入場行進曲にも選ばれた名曲中の名曲である。もちろん阿久・筒美コンビの作品だ。このコンビによるシングル制作はデビューから8曲続くが、キーがメジャー(長調)なのは、この「センチメンタル」と「想い出の樹の下で」の2曲のみである。まだ17才にもならない初々しいの宏美さんの声が、メジャーのメロディーに乗ってどこまでも明るく伸びてゆく。

 

 

 筒美先生によるアレンジも、今聴いても古さを感じさせない。7年前AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」が流行った時、私は何かとても懐かしい感じがした。どことなく、この「センチメンタル」などと風合いが似ているような気がしたのだ。

 

 

 榊ひろと氏の「筒美京平ヒットストーリー」の記述も、手放しの絶賛ぶりである。

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 連続No.1となった「センチメンタル」は、初期の傑作群のなかでも飛び抜けて完成度の高い楽曲で、彼女の声質と唱法を活かしきったメロディー展開にディスコ的なビート感と鮮やかなオーケストレーションを見事に統合させた全く非の打ちどころのない作品である。特にサビの部分で前半と後半のモチーフを少し変化させる手法と、エンディングで岩崎宏美が歌うスキャットに女声コーラスが別のメロディー(“とてもやさしい すてきなあなた”)が絡んでいく曲構成がすばらしい。

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 実は、私は太字部分がよく理解できない。「前半のモチーフ」を「少し変化させ」たのは、「♪ 夢のようね 今の私 しあわせ/あの日〜」の太字の16分音符のモチーフを「♪ 私は変えてみたの そんな気分よ〜」と変化させて使用していることを指していると思われる。だが、「後半のモチーフ」というのが、どこの部分を指しているのかがよく分からない。どなたかご教示願いたい。

 

 構成はちょっと見るだけだとシンプルに見える。いつものようにカッコ内の数字は小節数、歌詞のカッコはアウフタクトである。

 

A(8):夢のようね 今の私 しあわせ〜

B(8):ときめく胸を あなたに 伝えたいの〜

C(8):(ブルーの服)を バラ色に〜

 

 見事に4の倍数ずつで教科書的に見えるが、その中にちょっとしたアクセントが置かれている。通常4小節ワンフレーズの場合、4小節目は伸ばす音だったり、次のフレーズのアウフタクトだったりが多い。だがこの曲は、4小節目に「♪ しあっわっせー」と意表をつくシンコペーションが挿入され、そのままノーブレスで「♪ あの日」まで歌う。さらに8小節目には、「♪ 恋のーめばえー」と6音節のパッセージが入り、驚いたことにBメロの「♪ とーきめく胸を」まで、これもノーブレスで一気に歌ってしまう。この辺りも筒美先生のメロディーメーカーとしての面目躍如といった感じだ。

 

 先月のコットンクラブでは、青柳誠さんのピアノと古川昌義さんのギター、そしてお二人によるコーラスだけでこの「センチメンタル」を歌われた。嬉しいことに、先日の『ミュージック・モア』でも、同じお二人の演奏でこの曲をフルコーラスで披露してくださった。コットンクラブの感動が甦る。

 

 「♪ 好きよ(好きよ) 好きよ(好きよ) 好きよ/ブルーの服を(ブルーの服を) バラ色に(ブルーの服を)〜」の部分を聴きながら、コロナ禍が収まったら思いっ切り声援を送りたい!と思ったのは私だけではないだろう。

 

 

(1975.10.25 シングル)