まさかーーー。今日一日の仕事を終え、何気なく友人のfacebookを見たら、「昭和歌謡を代表する作曲家筒美京平さん死去」の文字が目に飛び込んで来た。誰しもいつかはこの日が来るのは仕方のないことではあるが…。

 

 とは言え、私などに筒美先生の死を悼む方法があるとすれば、それはこのブログを、宏美さんの楽曲を通じて、筒美作品の素晴らしさを語ることしかない。そう思って、ほぼ書き上がっていた今日アップ予定の下書きは明日に回し、昨日の「飛んでイスタンブール」に続いて、急きょ筒美先生の作品を取り上げることにした。選曲に迷いはない。世に「岩崎宏美」の名を知らしめたNo.1ヒット曲、「ロマンス」である。

 

 今月4日、NHKの『The Covers』で、エレファントカシマシの宮本浩次さんが、宏美さんの「ロマンス」を披露した。あまりに反響が大きく、CD発売前に先行配信が決まったそうだ。宏美さんご本人もSNSで大絶賛されていた。私はテレビを見逃してしまい、YouTubeで見たのだが、本当に聴き入ってしまった。アレンジも宮本さんのパフォーマンスも凄かった。しかし、私はそれ以上に、この「ロマンス」という楽曲の素晴らしさ(詞・曲とも)を再認識していたのである。

 

 

 この曲を私は何度聴いたことだろう。間違いなく何千回、というオーダーで聴いているのだろう。しかし、あまりに聴き過ぎてしまい、また好き過ぎてしまって、もうこの楽曲の素晴らしさは何ゆえなのか、冷静に、または客観的に語ることなど、到底できないのだ。しかし、宮本さんがこの曲に宏美さんと全く違うアプローチをされたことによって、阿久先生の詞や、筒美先生のメロディーの素晴らしさが、突如新鮮な感慨を伴って私の胸に押し寄せてきたのである。こんな曲だったのか!45年も聴いてきて、この作品のまた新たな側面に気づくことができ、ゾクゾクするような想いにとらわれていた。

 

 語れない代わりに、いつもの榊ひろと氏の言葉をお借りしよう。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 第2弾シングルとなった「ロマンス」では、笹井*の提案により当時流行していたヴァン・マッコイなどのディスコ・サウンドを取り入れ、筒美自身がアレンジも手掛けることになった。デビュー曲と同様に曲先で、阿久が“カタカナ・シリーズ”のタイトルを付けた。リズムの構造とクラヴィネットやストリングスが刻む細かいフレーズなどは、確かにヴァン・マッコイの「ハッスル」を意識したものになっているが、コーラスの歌唱法や全体的なサウンドは従来の歌謡曲的な側面を残しており、過渡期的な作品とも考えられる。(略)曲構成の面では頭サビに加えて、いわゆるCメロにあたるブリッジの部分(“まるで今の私、迷い子のようね”)が登場するなど、さらに凝ったものになっている。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

*笹井…当時の担当ディレクター、笹井一臣のこと

 

 ウケウリだけではあまりに申し訳ないので、私が以前からこの「ロマンス」のサビがよくできているなぁ、と思っていた部分を紹介する(楽譜参照)。

 

 

 サビは、「♪ あなたお願いよ」から、同じモチーフを少しずつ変化させて4回使っている。赤枠の(A-G-F)は3回、同じメロディーだ。そしてその後の「♪ あなたが」で、赤枠と同じ(A-G-F)が再度使用される。そして合いの手的なバッキングに、イントロでも用いられている緑枠の印象的なキメのリズム*(Dm-C-Dm)が2度繰り返されるのだ。さらに言えば、このリズムは歌い出しの「♪ お願いよ」と同じである。

 

 青枠の(A-C-A-G-A)も3回出てくるが、コード進行に変化をつけている。1回目 Dm、2回目 F、そして最後の A7-10(赤丸)にご注目いただきたい。これは、A7のコードではCに♯が付いてC#となるが、メロディーはナチュラルのCとなっていて、音がぶつかってしまうのだ。カラオケをお持ちの方は聴いていただくとよくわかるが、バックの演奏ではC#の音が鳴っている。3回同じメロディーが歌われるインパクト、そしてノンコードトーンが鳴る緊張感を優先したのだろうか。とても耳に残る部分である。

 

 いずれにしても、この頭サビの部分によって、この曲のヒットは半分くらい約束されたと言っても過言ではないほど、よくできたフレーズだと思うのだ。

 

 この阿久先生・筒美先生の一大傑作が、“岩崎宏美”の新人離れした美声と歌唱力、さらに阿久先生をして「岩崎くんが歌うと、色っぽく聞こえない」と言わしめた宏美さんのフレッシュな爽やかさをもって歌唱された時、No.1ヒットとなったのはむしろ必然ではなかったか。

 

 最後に、筒美先生ご自身のアレンジによるシングルバージョンを聴いていただいて、先生のご冥福をお祈りしたい。筒美先生、本当に素晴らしい歌をたくさんありがとうございました!そして長らくお疲れ様でした。どうぞゆっくりお休みくださいね。

 

 

(1975.7.25 シングル)

 

【2022.11.16 追記】野口五郎さんは、テレビ番組等でこの決めリズムについて再三言及。「イントロ、歌メロ、決めリズムと何度も聞かされれば頭に残る。レコード屋さんに行きますよね」と京平先生の曲作りを絶賛している。