今から45年前の今日、私にとって、いや多くの宏美ファンにとって特別な楽曲である8thシングル、「想い出の樹の下で」がリリースされた。宏美さんの歴代シングル売り上げでは13位(本日現在)であるが、40周年時のアンケートでは第7位、昨夏のねとらぼ調査隊によるアンケートでは第5位にランクされている。私の肌感覚でも、宏美ファン・一般の方を問わず「想い出の樹の下で」が大好き、と言われる方は非常に多い。まさに「記録より記憶に残る」という言葉がピッタリの名曲である。

 

 作詞:阿久悠、作編曲:筒美京平。デビュー曲から8曲続いた阿久×筒美コンビの作品だが、宏美さんはこの曲を以っていったん京平先生の手を離れることになる。その分、京平先生はこの曲を岩崎宏美作品のある意味集大成と考え、かなり力を込めた作品だったに違いないと想像するのだ。数ある宏美さんの名曲の中でも、私は最高峰に位置する傑作であると考えている。

 

 

 私には行きつけの床屋さんがある。小学校で私の一級下だったYちゃんが一人で切り盛りする昔ながらの床屋さんである。今でも散髪に行くと、Yちゃんとの他愛のない会話の中に、時折り懐かしい小学校時代の先生や近所の友だちの名前が飛び出す。私の心のオアシスの一つだ。

 

 45年前の今頃、高校受験生だった私はその床屋に行った。もちろんまだお若かったYちゃんのご両親が現役バリバリでいらした頃である。そしてその時、宏美さんの「想い出の樹の下で」がラジオから流れて来たのである。私は髪を切ってもらいながらそれを聴いた。当時全く歌謡曲に関心がなかった私だが、それが「ロマンス」で「何て歌の上手い新人が出て来たのだろう」とインプットされた岩崎宏美の声であることは認識できた。

 

♪ 私は忘れない 私は忘れない

 晴れた日の 想い出の樹の下を

 

 それにしても何と伸びやか且つ爽やかで、透明感に溢れた歌声なのだろう。晴れた冬空にピッタリの、高らかにどこまでも響いてゆく彼女の声は、印象的なこのサビの歌詞・メロディーと共に、私の奥底深くに潜在意識となって長く残ることになる。

 

 それから約2年半後。久しぶりに見た宏美さんに知らぬ間に惹かれるようになった経緯については、「万華鏡」のブログをどうぞ。そして私の中の「万華鏡」ブームが一段落した頃、眠っていた記憶が呼び覚まされ、どうしても「想い出の樹の下で」をもう一度聴きたくてたまらなくなる。そして弟が買って来てくれた『岩崎宏美ベスト・ヒット・アルバム』が、宏美ファンへまっしぐらの道の引き金になったのだ。

 

 この「想い出の樹の下で」は、宏美さんの高校卒業を記念して阿久先生が書かれた内容である。若い二人の幼い誓いを、儚い想い出と知りつつ、心の支えにして信じて生きてゆこう、という爽やかな青春讃歌である。

 

 が、ギャランティーク和恵さんは、『少女から大人へ……「70年代の岩崎宏美」の軌跡を知る10枚をギャランティーク和恵が聴く』の中で、このシングルが収録されたアルバム『ウィズ・ベスト・フレンズ+2』を評して、実に興味深いことを言っている。一部引用しよう。

 

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このアルバムで一気に岩崎宏美さんのヴォーカルが大人びてきます。この頃にもしや失恋なんかをしたのでしょうか……? 全編彼女の歌声にどこか憂いが漂っています。(中略)とはいってもやはり8枚目のシングルでもある京平センセー作「想い出の樹の下で」は最高なわけです。この一聴明るく突き抜けるような歌も、ちゃんと恋を知ってそれを失った悲しみを知った上での声になってます。だからこそ切ない。ボーナス・トラックで加えられた7枚目のシングル「ドリーム」と聴き比べればよく分かります。7枚目と8枚目の間に一体何があったというのでしょう?

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 私のように鈍い人間には、その辺りはサッパリ判らないのだが、もしかしたらこの「想い出の樹の下で」の一度聴いたら忘れられない魅力は、そのような内面の変化のためかも知れないと思うのだ。昔見た番組で、堀越学園高校の時「“色黒でミッキーマウスのように耳の大きいモナリザ少年”と交換日記やデートをし、大人への階段を登った」と言う発言があったのだが、もしかしたらそのモナリザ少年と関係があるのではないか。🥰

 

 あまりに素晴らしいボーカルのため忘れがちだが、バックトラックも捨て難い。クラシックのようなホルンのハイノートから始まり、ストリングスの16分音符がユニゾンで駆け上がるイントロ。そして前サビの歌い出し「♪ 私は忘れない〜」もまるでFマイナーの曲のように始まるが、「♪ 晴れた日の 想い出の樹の下を」で底抜けに明るいレラティブ・キーのA♭メジャーに転調する。このメロディーメイクとサウンドは、京平先生ならではだ。

 

 短いホルンソロの後は、16ビートのグルーヴィーなベースとカッティングギターが小気味良いAメロ「♪ この樹の下で 愛を誓えば」に入る。「必ず♬♪二人は♬♪」と入る合いの手のギターも印象的で、宏美さんが2本指をクリクリッとさせる動作に合わせて、親衛隊もペンライトを振っている。😊

 

 Bメロの「♪ 信じましょう 信じて生きましょう」では、バックのコード進行にクリシェが用いられており、A♭- A♭aug - A♭6 - A♭7 と動くところの徐々に高揚する感じが良い。「♪ そしていつか 奇跡のように〜」からはバッキングでブラスのハーモニーが盛り上げ、ストリングスのユニゾンでサビが回帰するのが何とも言えない。

 

 宏美さんの突き抜けるような美声を受け継ぐように、間奏ではスタイリスティックスの「愛がすべて」へのオマージュと考えられるトランペットソロが、まさに天高らかに響き渡る(→「トランペットが華々しく鳴る宏美さんの歌ベスト20❣️」)。

 

 『夜のヒットスタジオ』の素晴らしい歌唱の動画も上がっているが、オリジナルキーのギリギリの高音の美しさ、京平先生のヒロリンディスコ路線総決算のアレンジ、そしてトランペットの見事なソロということで、やはり今日はオリジナルのテイクを聴いていただくことにしたい。

 

 

 この歌については、まだまだ語りたいことが山ほどある。冗長になりそうなので、それはまたの機会に譲るとしよう。

 

(1977.1.25 シングル)