今日は宏美さんがデビューされてちょうど45周年のおめでたい日。デビュー記念日だから、やっぱり「二重唱」かな、と最初思った。だがそこで思い直し、私が宏美さんの熱狂的なファンになるきっかけとなったこの曲、「万華鏡」を選んだ。

 

 

 時は1979年10月。当時も今も相撲ファンの私だが、テレビで何気なく『慈善大相撲』を見ていた。お相撲さんと歌手の歌比べのコーナーに、宏美さんが出ていた。当時ほとんど歌謡番組というものを見ていなかった私は、久々に見た彼女の姿に驚いた。私の記憶にあったのはデビュー当時のオカッパ頭の健康的な少女のイメージ。それが、すっかり美しく変身し、大人の女性らしさを漂わせていたのだ。そして、彼女が披露した曲を聴いて2度ビックリ。「万華鏡」。その一風変わった曲に感じるところがあった私は、いっしょにテレビを見ていた弟に、「この曲、絶対ヒットするよ」と言って、そのまま忘れてしまっていた。

 

 しばらくして、弟が「お兄ちゃん、『万華鏡』ベストテンに入ったよ」と言ってきた。その時は知る由もなかったが、「万華鏡」は、「二十才前」以来6曲ぶり(オリコン調べ)と宏美さんにとって久々のベストテンヒットだったのだ。私は、宏美さんの「万華鏡」がきっかけで、歌番組を見るようになった。

 

 

 「万華鏡」を何度か聴き、知らぬ間に宏美さんに惹かれるようになると、私が中学校卒業間近、たまたま床屋のラジオから流れてきたのを聴いただけで、その伸びやかで爽やかなリフレインが頭から離れなくなった「想い出の樹の下で」を、もう一度聴きたくてたまらなくなる。そこで弟に、「『ロマンス』と『万華鏡』と、想い出の樹がどうのこうの、ってヤツの3曲が入ったベスト盤があったら買ってきて」と頼んだのである。当時、クラシックのレコードしか聴かなかった私は、アイドルのレコードを買いに行くのが気恥ずかしかったのである。

 

 果たして、その3曲とも収録されたベスト盤は当時売っておらず、「二重唱」から「あざやかな場面」までを収録した『岩崎宏美ベスト・ヒット・アルバム』と、「万華鏡」のシングル盤とを弟は買ってきた。聴いてみると、タイトルは知らなくてもどこかで耳にしたことのある曲も多く、知らなかった曲も良い曲ばかりだった。そしてもちろん、宏美さんの素晴らしい歌声と歌唱力の虜になっていったことは言うまでもない。そのベストと「万華鏡」をコピーしたカセットテープを、毎日繰り返し聴いていた。

 

 

 年が明け、新曲「スローな愛がいいわ」が発表された頃、隣町で宏美さんのコンサートがあった。時に、1980年1月29日。私は受験生で、共通一次試験と二次試験の合間だったが、足を運んだ。その時はまだ、「どうしても行きたい!」という感じではなく、「まぁ近くに来たし、B席なら小遣いで何とか行けるか」程度のノリだったように思う。そして、このコンサートが、大げさでなく私の人生を大きく変えることになったのである。このコンサートのことについては、また別の回に改めて書いてみたい。

 

 

 思い出話ばかりで、少しも曲そのものに触れていなかった。「万華鏡」については、あまりに好き過ぎて、聴き過ぎて、客観的に語ることができない(汗)。一度記憶を失って、もう一度初めてこの曲を聴く感動を味わってみたい、と思うほどだ。榊ひろと氏は、『筒美京平ヒットストーリー』の中で、「…『夏に抱かれて』と続く『万華鏡』では、馬飼野康二による作品で都会的なAOR路線へとシフトしていった…」と評している。また、どなたの評か忘れてしまったが、「この曲で岩崎宏美は全ての得意技を封印している。この曲には、泣きもなければ歌い上げもない」みたいなものを読んだことがあり、なるほどなと思った。確かに、この時期の宏美さんにしては、この曲は最高音がB♭止まり、しかも短い音だけ。(ライブではツーハーフ終わって、ハミングの後の「♪Ah〜」というDまで上がるところを、宏美さん自身が歌っているが、レコードではコーラスの方の声である。)この前後の「夏に抱かれて」「スローな愛がいいわ」が2曲とも最高音がD、しかも高音のロングトーンが多いことを考えると、「万華鏡」は、宏美さんの必殺技の伸びやかな高音を敢えて封印した、異色の作品である、と言える。

 

 では宏美さん自身はこの曲をどう思っているのか。私が以前ラジオで聞いて記憶しているエピソードは、「レコーディングは『10カラット・ダイヤモンド』の時で、私がとてもこの曲を気に入って『(アルバムに入れず)取っとこう、取っとこうと言ってたんだけど、取っとかずに切っちゃった(シングル発売した)」というものである。ご自身も、この曲には何か特別なインスピレーションを感じていらしたのではないか。

 

 とまれ、「万華鏡」は、今や誰しも認める岩崎宏美の代表曲の一つである。

 

 改めて、宏美さん、デビュー45周年おめでとうございます㊗️🎊これからもお身体に気をつけられ、ますます素敵な歌声を聴かせてください❣️

 

(1979.9.15 シングル)