私の住む関東地方では、先週末の梅雨明け以降、夏本番!といった晴天と暑さが続いている。やはり、この季節になると聴きたくなるのが夏の定番ソング、「夏に抱かれて」である。

 

 「夏に抱かれて」は宏美さんの17枚目のシングルであり、現在でもファンの間で人気の高いサンバタッチの傑作である。作詞が前作「春おぼろ」に引き続いての山上路夫さん、作編曲はロングヒットとなった次作「万華鏡」も手がけることになる馬飼野康二さん。幸せいっぱいの恋人同士の海辺のひと夏を描いた歌だ。

 

 デビュー5周年を記念して発売されたLP3枚組のBOX『宏美』のセルフライナーノーツに、次のようなエピソードが載っていたこともよく覚えている。この曲のデモテープを聴いた宏美さんは、このトロピカルなアッパーチューンに「誰かまた新人がデビューするのかな」と思っていたら、スタッフから「宏美、よかったな!」と声をかけられて自分の曲と知り、大喜びしたのだそうだ。

 

 ご本人もファンも大好きなこの曲だが、オリコントップ20入りがやっとで、当時としては歴代シングルの最低セールスにとどまっている。これは、リリース直後に発売された『宏美』に収録される告知があり、シングルを買い控えたファンが多かったためとも、ロックミュージカル『ハムレット』の舞台のためテレビでの露出が少なかったためとも言われている。

 

 ギターソロのカッコよさ(特にツーコーラス後のインプロヴィゼイション!)、ラテンパーカッションのノリ、流麗なストリングス、要所で鳴るブラスのバッキング、それを支えるベースなど、厚めのバックのサウンドがゴキゲンなアレンジだ。ギターソロがどなたかは、残念ながらクレジットがなく判然としない。ネット上では、水谷公生さん、矢島賢さん、高中正義さんあたりの名前が上がっていた。ギターに詳しい方、いかがだろうか。

 

 

 宏美さんの伸びやかな歌声は、イントロの「♪ ラララ…」からパワー爆発、バックに負けてはいない。キーの設定も高めで、聴き終わった後に印象に残るのはやはり宏美さんの圧倒的な美声と、ハイレベルなボーカルテクニックである。

 

 クライマックスは「♪ 朝焼け見て 夕映えを見て⤵︎」の部分。最後のフォールもカッコいいし、何より決めリズムで宏美さんが手拍子を促すところがファンには嬉しい。後に81年の日比谷野音で、手拍子の練習をしてからこの歌をフルコーラスで歌ってくれたことも忘れられない。

 

 私が宏美ファンになったのは、「万華鏡」がキッカケだったので、「夏に抱かれて」のテレビ等でのライブ演奏を耳にする機会はしばらくなかった。初めてそれが叶ったのは、80年7月29日のラジオ関東が放送したイベントライブ、『夏だ!みうらだ!翔んでる歌謡V作戦』でだった。今日ウン十年ぶりにこの番組を録音したカセットテープを聴いて、当時のことがブワッと甦ってきた。

 

 6人の中のメインゲスト扱いで、宏美さんのステージでは新曲の「銀河伝説」の他にもヒット曲数曲を披露。夏の三浦海岸ということもあろう、「夏に抱かれて」も歌ってくれたのだ。イントロの「♪ ラララ…」からして、野外ライブらしいエネルギッシュな歌い方に大興奮だった。

 

 この放送の中で、宏美さんの人柄が窺える出来事があった。順番に一人ひとことずつ喋るところで、司会の方が時間の関係だったのか、宏美さんの前に並んでいた(と思われる)当時新人だった比企理恵さんを抜かして宏美さんにマイクを向けたのだ。すると宏美さんは、「…理恵ちゃんは?」と司会の方に促し、理恵さんは無事に喋ることができた。そんなさりげない心遣いに、胸キュンだったのを懐かしく思い出す。

 

 

 また、この曲は、自分が学生時代に組んだ短命バンドの思い出もある。「In My Life」のブログに、私にビートルズの何たるかを教えてくれた先輩のことを書いた。その先輩から、学園祭でバンド演奏しよう、と誘われたのだ。曲目はビートルズのカバーやオリジナル中心。私がキーボードとボーカル担当だった。その時先輩に「岩崎宏美を1曲入れて欲しい」と頼んで採用されたのが、この「夏に抱かれて」だったのだ。

 

 残念ながら、学生運動の余波で、学祭自体が大学当局によって中止されてしまった。バンドもアッサリ解散になった。当時の私はノンポリで、どういう経緯で学祭が中止になったのか、未だによく知らない。その先輩たちとも、その後交渉があった記憶がない。

 

 あの時、学祭が実施され、ステージで「夏に抱かれて」を演奏していたらーー。私のその後の人生も少しは変わっていたかもしれない。😜

 

(1979.5.8. シングル)