宏美さんの9thシングル。作詞の阿久先生はそのままに、作曲が初めて筒美先生の手を離れたということで、話題に上ることが多い。作曲は大野克夫先生。また、現在知られる軽快なテンポで長調の楽曲と、もう一つ短調のスローバラードと、同じ歌詞で二通りのメロディーが用意されたというエピソードも、ファンの間では有名である。このことについては、「メランコリー日記」のブログで詳しく触れたので、そちらをご参照願いたい。

 

 私が宏美さんのレコードを初めて手にしたのは1980年1月のこと。「万華鏡」のシングルと、『岩崎宏美ベスト・ヒット・アルバム』(1978)を買った。聴いてみると、タイトルは知らなくてもどこかで耳にしたことのある曲も多かったのだが、この「悲恋白書」は全く聞き覚えがなかった(後になって77年紅白歌唱曲と知ったが、記憶にない😅)。

 

 その時、「悲しい失恋を爽やかに歌った佳曲」という好印象と共に、私はちあきなおみさんのある名曲とイメージをダブらせていた。昨夜「悲恋白書」を取り上げると決めてからも、何故か頭の中はそっちの曲がヘビロテ。💦

 

 それは「かなしみ模様」(1974)という曲である。今調べたら、作詞:阿久悠、作曲:川口真。ちあきさんと言うと、男女の別れをやや粘着質に歌うような曲調が多かった。だが、この曲はタイトルとは裏腹に、軽やかなメジャー、ちあきさんもサバサバと歌っているのだ。「♪ 明日が好きな人もいるけど/私には今日しかわからない」という歌詞からも、「悲恋白書」との共通点が見出された。

 

 

 「悲恋白書」はGメジャーの明るい曲調で、いわゆる頭サビの形式を取っている。サビ、Aメロに次ぐBパートのところで、微かに主人公の悲しい本心が垣間見えるような仕掛けが音楽的に施されているので、それに少し触れておこう。

 

 

 Bパート「♪ こんなにも こんなにも 悲しむなんて/あのひとは思っても いないのでしょう」では、ブレイクの後サブドミナントに当たるCのコードに先行する形で、アウフタクトで「♪ こんなにも〜」と場面転換が図られる。その後、

 

C→Cm6→Bm→B7→Em→A7→D7→Am7/D

 

と展開するが、Cm6はサブドミナントマイナーでやや哀調を帯び、B7はレラティブ・キーのドミナントでよりいっそう哀しく響く。で、次のEmで完全に短調に転調してしまう(そして元のGメジャーに戻ってくるためのドミナントが現れ、そこで手拍子したくなるような決めリズムが鳴るのだが)。

 

 編曲は、デビュー曲「二重唱」以来の萩田光雄先生。先生の著作『ヒット曲の料理人 編曲家 萩田光雄の時代』に、「悲恋白書」に言及した部分がある。まさにその時代の空気感が漂う貴重な記述なので、そのまま引用したい。

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 「悲恋白書」(77年)は大野克夫さんの曲だが、まだシンセなどは普通に使わない時代なので、木琴とかハープとかブラスなどの生楽器を贅沢に使っている。ハープなどは昨今、なかなか使えない楽器なのだが、この頃は何を使ってもいい、もっといろいろ入れましょうと言われ、こちらが面喰らうような時代だった。

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 『夜のヒットスタジオ』での「悲恋白書」の映像をご紹介するが、いつもの伸びやかな安定した歌唱はもちろんのこと、またこの時のヒロリンの可愛らしいこと!😍毎回可愛い、綺麗を連発していても仕方ないので、なるべく書かないようにしているが、今日は書かずにはいられない。😝

 

 

 宏美さんの初期の筒美作品はマイナーが多いということは、「早春の港」のブログで触れた。「ファンタジー」以外はハッピーな内容なのにマイナーばかり(「センチメンタル」は例外)。その逆(悲しいのにメジャー)を行くような「悲恋白書」は、かえって新鮮でインパクトがあったのではないか。宏美さんがあくまで爽やかに、肩の力も抜けて歌っている感じが、それまでの筒美作品とは一線を画しているように思えるのだ。私の周囲のファン仲間や、ネット上の評判を当たっても、実際のセールス以上に「悲恋白書」は人気が高いという手応えを感じた。

 

 だが、コンサートで歌われる機会は、確かに初期の筒美作品に比べて少ない。9回に及んだ秋のコンサートのライブ盤には収録がない。私は1980年の初頭から、概ねどのセットリストのコンサートにも足を運んでいたと思うが、「悲恋白書」を生で聴くのは、83年のリサイタルまで待たねばならなかった。そして近年も、2012〜13年のツアー『笑顔をみせて』を最後に、しばらくご無沙汰である。

 

 宏美さん、そろそろ「悲恋白書」も歌ってくださいな!😉

 

(1977.4.25 シングル)