今日仕事から帰宅すると、宏美さんと五郎さんのニューアルバム『Eternal Voices』が、発売より1日前だが届いていた。大相撲中継を消音にして(笑)「恋人よ」「ワインレッドの心」に集中。ダウンロードも済ませ、モバイルでも再生可能に。後ほど車でもCDを録音(娘からは、「まだCDから録音?Bluetooth使いな」と呆れられながら)し、いつでもどこでも聴けるようにして、ヘビロテ開始するとしよう。😊

 

 

 さて、「ファンタジー」は言わずと知れた宏美さんの4thシングルであり、2ndアルバムのタイトル・チューンともなった名曲である。もちろん作詞:阿久悠、作編曲:筒美京平のゴールデンコンビの作品。「ロマンス」「センチメンタル」と2曲連続してオリコンの第1位に輝いた宏美さんだったが、この曲は1位になってもおかしくない週間セールスを記録しながら、惜しくも3曲連続トップの快挙はならなかった。理由は、日本でアナログ盤シングルの売り上げ歴代1位とされる「およげ!たいやきくん」に阻まれたのだ。

 

 この曲は、私個人は宏美ファンになる以前から印象に残っていた楽曲であった。初めて買ったベスト盤にも収録されており、宏美さんの素晴らしいボーカルはもちろんのこと、バックのサウンドにもすっかり魅せられてしまった。その頃私は洋楽を全く聴かなかったので、ディスコ/ソウル歌謡などというカテゴライズは全くわからなかったが、とにかくアレンジがカッコよくて虜になってしまったのだ。

 

 その頃私が思っていたことの多くが、榊ひろと氏の『筒美京平ヒットストーリー』に書かれていたので引用しよう。太字部分は私が「我が意を得たり」と溜飲を下げた部分である。

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続く「ファンタジー」(76年1月)では通常のツーハーフ形式で、間奏の部分もいわゆるAメロのコード進行を踏襲するなど比較的シンプルな曲構成だが、アレンジの面ではフルート、コーラス、ストリングスのオブリガートが3回の繰り返しの度に微妙に違っている*など凝りに凝ったものになっている。また、イントロの鮮やかなギターのカッティングやリズム・セクションのタイトさが耳を引く。

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*オリジナル・カラオケを聴き比べると大変よく分かる。『戯夜曼+9』収録。

 

 ここに書かれていなかったことを付け加えるとするならば、①半音上がる転調が2回用いられるが、それは時間の経過を表していること、②宏美さんの他の初期の楽曲群に比べて音域が著しく狭い作品であること、③前作「センチメンタル」に始まり、「未来」「霧のめぐり逢い」と続く16分音符の早口フレーズがこの曲でも登場していること、などが挙げられるだろう。

 

 上記榊氏の指摘、そして私が追加したものも含めて少し解説を加えてみたい。まず榊氏の言われた「間奏がAメロのコード進行を踏襲」の部分だが、「霧のめぐり逢い」や「ドリーム」も同様の間奏を採用している。これについては「パピヨン」のブログで詳しく述べたので、そちらをご参照願いたい。

 

 そしてバックのサウンドが繰り返す度に少しずつ変化しているところが、私は大好きである。特に最後のハーフの「♪ あのひとからいわれた 悲しいさよならを」という例の早口フレーズの部分は、1、2番はバックの演奏がブレイクしているのだが、ここではブレイクせずにベースがG♯ - A♯ - B - B♯(C) とクロマティックな上昇形を2度繰り返すところが鳥肌モノである。

 

 私が付け加えた①について述べる。2コーラス後に半音上がって盛り上がる、というのはよくあるパターンだ。宏美さんのシングルでも「二重唱」「熱帯魚」「あざやかな場面」「真珠のピリオド」など、枚挙にいとまがない。だが、ワンコーラスずつ転調していくのはレアで、時系列な歌詞との連動であることは間違いない。1番が「二月前」、2番が「一月前」そして最後が「半日前」と時間が経過していくさまを転調で表しているのである。それで、1番では最高音がB音だったのが、最後にはハイC♯と彼女の音域いっぱいに近い音を使い、この歌のクライマックス、ドラマティックな別れを演出しているのである。

 

 ②について検証してみよう。デビュー曲から5曲並べてみると、一目瞭然である。

 

「二重唱」Low-A♭〜High-D♭(オクターブ+完全4度)

「ロマンス」Low-A〜High-D (オクターブ+完全4度)

「センチメンタル」Low-G♯〜High-C♯ (オクターブ+完全4度)

「ファンタジー」Low-B〜High-C♯(オクターブ+長2度)

「未来」Low-A♭〜High-D♭(オクターブ+完全4度)

 

 しかも、「ファンタジー」は2度半音上がってこの音域である。実はワンコーラスだけ見ると、ピッタリ1オクターブに収まる音域の狭さなのだ。それなのにこれだけドラマティックに聴かせる声の素晴らしさ、歌唱力の高さに、改めて唸ってしまうのである。

 

 ③については、最近のブログ『㊗️デビュー記念日イヴ❣️』で触れたので割愛する。

 

 では、改めてオリジナル音源をじっくり味わっていただこう。

 

 

 最後に、私が昔から気になっているしょうもないことを一つ。それは、最後のハーフの歌詞の部分である。

 

♪ あれは半日前の 今朝のことだった

 

 この部屋の窓辺で
 

 あのひとからいわれた 悲しいさよならを〜

 

 「この部屋の窓辺」というのは、彼女の家だろう。だとすると、カレシが朝に「さよなら」を告げに来るのは何となく不自然ではないのか?ということだ。そうすると、まさかの朝帰り?😅💦でも、リリース当時17歳という宏美さんの年齢を考えても、普通家には親もいるだろうし、その解釈にも無理があるだろう。

 

 結論。「日ぐれ時」→「雨の午後」と来たし、音数の制約もあるので、阿久先生も「今朝のこと」にするしかなかった!😜

 

(1976.1.25 シングル)