信じられないことに、今日は私の60回目の誕生日である。自分が赤いチャンチャンコを着るお爺ちゃんになる日が来るとは。頭では理解しつつも、実感はやはり湧かない。今日が休日なので、職場では前倒しで還暦の記念品と花束をいただいた。その贈呈式?のバックには、大画面でマリリン・モンローの歌う「ハッピー・バースデー」の映像を流してくれた。🥰

 

 

 今日まで何とか健康で、長く仕事を休んだりすることもなく働き続けて来られた。家庭にも恵まれ、自分の趣味のことも好きなようにさせてもらっている。丈夫な身体に生み育ててくれた両親、今まで支えてくれた家族、友人、同僚そして読者の皆様に、改めて感謝しかない。ありがとうございます。

 

 

 さて、私の誕生日は「すみれ色の涙」「真珠のピリオド」そして『戯夜曼』の発売日でもある。今日は、22歳の誕生日に発売された思い出深い曲、「真珠のピリオド」を取り上げたい。

 

 この曲は宏美さん31枚目のシングル。作詞が「摩天楼」「檸檬」の松本隆さん。作・編曲はひとつ前のシングル「素敵な気持ち」に引き続いて、筒美京平・萩田光雄両先生のコンビである。短かったひと夏の恋の終わりを、糸の切れた真珠のネックレスに喩えた、この上なく美しい別れの歌である。

 

 

 榊ひろと氏の『筒美京平ヒットストーリー』では、「サーカスの『Mr.サマータイム』を意識したかのようなフレンチ・ポップス風の作品」と紹介されている。

 

 また、アレンジされた萩田先生のご本では、ディレクターだった小池秀彦さんとの対談の中で、この「真珠のピリオド」について触れられている。非常に興味深い内容なので引用したい。

ーーーーーーーーーーーーーーー

萩田:僕は、京平さんの曲だけど「真珠のピリオド」がなぜかわからないけれど、好きなんだよ。

小池:あれはコーラスが伊集加代子さんですね。スリシン(シンガーズ・スリー)でなく伊集さんにサシで来てもらったんです。

萩田:上のパートのAh-Ahは伊集さんだね。あの当時、ああいう感じだったら伊集さんしかいないから、黙っていてもインペク屋(レコーディングのためにスタジオ・ミュージシャンをコーディネイトする会社)さんが入れてくる。でも、どうしてこういう間奏になったのか、この曲でこの間奏はちょっと妙な感じがしなくもないけれど、「やった!」みたいな充実感はあったんだよ。京平さんはギョッとしたかもしれないけれど。

小池:京平先生のデモに、ブラス的な何かを予感させるものが入っていたのかもしれませんね。

萩田:この「ピ・リ・オ・ド」の追っかけと、冒頭の「シャバダバダ」は最初に京平さんからの指定があった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 私もこの曲のオシャレなサウンドと、それに呼応した宏美さんのコントロールされた歌い方が大好きだ。その後この「真珠のピリオド」が収録されたアルバム『私・的・空・間』には、宏美さんご本人の希望ということで、ミュージシャンがクレジットされている。何とまぁ贅沢な生楽器の数と一流の面々であることか。

 

 イントロから見ていこう。頭の「♪ ルルル…」は、ライブでは宏美さん本人歌唱だが、オリジナル音源ではコーラスの方の声のようである。先に引いた対談の通り、上の「♪ Ah-Ah」が伊集さんだとすると、「♪ ルルル…」は他にクレジットされている和田夏代さん、鈴木宏子さんのいずれかか。「♪ シャバダバダ…」からは16ビート(著作の中で萩田先生は、「普通、こういう曲は8ビートだが、16ビートでやっているのは珍しい」と述べている)が刻まれ出すが、ここは宏美さんご本人の声のようだ。Aメロに入る直前のキメのリズム、「チャンチャンチャチャン!」と鳴る不思議なコードA♭9-5は、すこぶる耳に残る。

 

 「♪ 肩が冷えてしまうわ〜」からのAメロでは、さりげない情景描写が美しい、松本さんらしい歌詞である。音域も低く、宏美さんは語るような感じだ。

 

 ブリッジの「♪ ハイヒールを脱いで 渚へ歩いても〜」は、ボーカルもバックも、音量的にはまだ抑えている。宏美さんのソフトなステップと、フレーズの合間のカスタネットが徐々に雰囲気を盛り上げる。最後の「♪ そんなに弱くない ah…」は、余分な2拍+1小節が挿入され、サビに向けてテンションを上げてゆくのだ。

 

 そしていよいよサビ、「♪ 真珠のピリオド (ピリオド)〜」の件の追っかけ部分である。「♪ ピ・リ・・ド」のピリオドらしいスタッカートの歌い方と、「オ」の哀しげにスクープする発声が堪らない(ちなみに2004年のツアー前半で、久々にこの「真珠のピリオド」がメドレー中で歌われた際は、この「♪ ピリド」の「オ」がスクープせずに、腹筋を使ってピッチのど真ん中に当てる歌い方に変わっていて驚いた)。そして、ここの宏美さんの右手人差し指で涙=真珠を拭う仕草が神々しすぎる件(→振り付けが印象的な宏美さんの歌ベスト20❣️)。😍

 

 そして、対談でも触れられていた、間奏のブラスのユニゾンである。全体に抑えめなサウンドの中で、トランペット(数原晋)とトロンボーン(新井英治)の太い音は耳を引く。私も大好きな箇所である。

 

 さらに、1コーラス目の終わりの「♪ 白い砂の上で 光るだけ 光るだけー」はちゃんとトニックに解決するが、2コーラス目の「♪ 濡れた砂の上に 飛び散るのー」は、メロディーラインも変わり、ドミナント7th sus4 で引っ張って、ドミナント7th に移行するのが、お約束だが緊張感高まりエキサイト。そこで、イントロ最後の「チャンチャンチャチャン!」のリズムがリプライズ、そこで半音上がってトニックの「♪ 真珠の〜」に着地するところのカタルシスたるや半端ない(→半音上がって盛り上がる宏美さんの歌ベスト20❣️)。

 

 半音上がったことにより、最後のリフレインの「♪ まるで糸の切れた〜/白い砂の上で〜」は、さすがに少し歌い上げ感が出てgood。アウトロではブラスの間奏のフレーズが繰り返されるが、間奏と違ってラストは「♪ ルルル…」は戻らず、「♪ シャバダバダ…」が回帰して終わる。

 

 

 ついつい「真珠のピリオド」への思い入れが爆裂したブログになってしまった。実はこの曲は、自分の短い夏の恋のピリオド、という実体験とも重なっているのだ。

 

 当時ファミレスのバイトで一緒だった3歳年下のS子を好きになった私。きっかけはよく覚えていないが、いつの間にか自然に2人でデートするようになった。まずは食事や映画、とお決まりのコース。私が参加した市民合唱団によるフォーレの『レクイエム』演奏会にも来てくれた。この年の7月10日、新宿厚生年金会館での宏美さんの『西の風に吹かれて』ツアーも、もちろんS子と2人で行った。

 

 今から38年前の私の誕生日(=「真珠のピリオド」発売日)に、S子がシルヴァスタインの『ぼくを探しに』の絵本をくれたのもよく覚えている。後から思えば、私とS子の関係のその後を暗示するような内容であったとも言える。

 

 

 宏美さんの新曲「家路」が出る頃、私はS子に告ってアッサリふられた。😢「真珠のピリオド」の歌と共に、儚く消えていった私の短いひと夏の恋。それも今となっては愛おしい思い出である。

 

(1983.6.5 シングル)