宏美さんの6枚目のシングル。作詞:阿久悠、作編曲:筒美京平というコンビは、「ロマンス」から5曲連続である(デビュー曲の「二重唱」は、編曲:萩田光雄)。

 

 この曲は、「レコーディングの時に上手く歌えなくて泣いた」という話はあちこちで仰っているので有名な話。最古のと、最新の資料からその部分を引用してみる。ニュアンスが全く違うのが興味深い。

 

★今度の曲、すごーく難しい曲。タイトルが“霧のめぐり逢い”

筒美先生も来てくださって、いろいろアドバイスを受けました。

今まであまりこんなことなかったので、私としてもガンバッタのでした。

ディレクターの笹井さんと筒美先生の言ってること、とってもわかります。

私だって大賛成、でも出来なかったんです。

今まで特長にしていたクセ(スクープ、音をしゃくること)を急にやめるのはとても難しい…。

はじめてでした。レコーディングで涙を見せたのは…。

みんな、ごめんなさい。

『この指とまれ、愛』岩崎宏美(レオ企画、1976)より 

 

★ デビュー当初から岩崎さんに楽曲を提供したのが作曲家・筒美京平さんでした。伊集院が「結構難しい曲が多くて…筒美京平さんは試していたのかな?」と聴くと岩崎さんは「そんなことはないと思うけど…歌えなくて泣いたこともあるんですよ」と当時を思い返し、その時は筒美さんに対し「ここまで放し飼いにしておいてそれはないでしょ」と感じたそう。

TBSラジオ『伊集院光とらじおとゲストと』(2019.8.21)より

 

 10代の頃のしおらしい表現に対して、還暦を迎えられた宏美さんの怖いものなしの「放し飼い」発言の落差が面白い。🤣京平先生に注意された「スクープ」に対しては、私も思うところがあるので、機会を改めて書いてみたい。

 

 さてこの曲は、タイトルをひと目見るだけで、それまでのカタカナ路線や「未来」と比べて少し大人っぽい感じを受ける。歌詞内容も然り。同じ阿久・筒美作品だが、作家陣の先生方も少しずつ宏美さんの行く末を考え始めた頃かも知れない。

 

 イントロも、それまでの派手でキャッチーなものと比べると、霧を表しているのか、やや幻想的な不思議な入り方だ。ワンコーラス終了後転調する際のフレーズや、そのフレーズを半音上で繰り返す手法は、2曲前のシングル「ファンタジー」と類似しており、二番煎じ感が否めない(→「半音上がって盛り上がる宏美さんの歌ベスト20❣️」)。

 

 宏美さんのボーカルは、京平先生に注意されて泣いたとは信じられない、潤いや艶のある良いテイクだと思う。同時期のアルバム『飛行船』でも顕著だが、中低音の響きも深みを増している。

 

 デビュー当時の宏美さんのシングルは、細かい16分音符が効果的に使用されている。「♪ 私は変えてみたの そんな気分よ」(センチメンタル)、「♪ ふと心に感じた あなたのまなざしを」(ファンタジー)、「♪ あなたの甘いくちづけが」(未来)などが思い浮かぶ。この「霧のめぐり逢い」でも「♪ もう あなたの私よ/もう 私のあなたよ」と、サビで京平先生必殺の16分音符が登場するが、ここの聴かせどころもキッチリ心得た宏美さんの非凡な歌い方が光る。

 

 

 またこの曲は、リリース当時オリジナル・アルバムにもライブ盤にも収録されなかったり、私がファンになった当時(1980〜83年頃)コンサートで取り上げられなかったりした。なので「京平先生に叱られて泣いたこともあり、あまりいい思い出がないのかなぁ」などと邪推もした。

 

 だが逆に近年になってから、コンサートを華やかに彩るヒット・メドレーの一角に取り上げられることも多くなった。40周年を記念して発売された『MY SONGS』(2015)では斬新なハイパーテクノアレンジ(編曲:塚崎陽平)で再レコーディングされ、往年のファンを喜ばせた。😍

 

 

(1976.8.1 シングル)