説明無用、岩崎宏美の5thシングル。ヴァン・マッコイ的なダイナミックなサウンドが炸裂する、初期傑作群の中でも完成度の高い楽曲だ。もちろん阿久悠&筒美京平コンビによる作品である。

 

 

 この「未来」については、ネット上でも素晴らしい評論があり、語り尽くされている感がある。まず以下のブログをご紹介しよう。

 

 

 内容的には、

・初のカタカナ・シリーズ脱却シングル

・メガヒット曲に阻まれ、オリコン1位ならず

・歌謡曲らしからぬコード進行

・初期楽曲に於ける歌メロでの16分音符の多用

・高音でのロングトーン

など、この曲の概説と音楽的特徴・魅力とを、非常にコンパクトかつ解り易くまとめていらっしゃる。

 

 1箇所だけ、頭サビのコード進行で不正確な記述があったので、補足しておこう。引用させていただいたブログでは、Aマイナーに移調(原調はB♭マイナー)して考えて、

 

Am→D7→Dm7→Cmaj7→Dm7→Cmaj7

Am→D7→Dm7→Cmaj7→Dm7→E7→Am

 

と記載されている。だが、より正確にはベースラインの動きも加えて、

 

Am→D7→Dm7/G→Cmaj7→Dm7→Dm7/G→Cmaj7

Am→D7→Dm7/G→Cmaj7→Dm7→E7→Am

 

とすべきであろう(太赤字が修正、追加した部分)。

 

 あと一つ、このブログで触れられていなかった「未来」の特徴を付け加えるとするならば、

・アイドル歌謡風のコール&レスポンスの採用

が挙げられる。「♪ うなづいて(うなづいて)しまったの(しまったの)」など、ファンのコールのためにあるようなフレーズである。このコロナ禍前までは、いいトシをしたオジサンたちも、「うなづいて*」と声を出していたのであるから。😜💦

 

 

 近年、岩崎宏美再評価の動きがあちこちで見られ、喜ばしい限りである。その中で、私もその目の付け所と説得力に思わず唸ってしまったのが、次に紹介するブログである。単に「未来」の論評に終わらず、「アーリー岩崎宏美」の本質にズバッと切り込んでくる。私の筆力では要約できないので、是非お読みいただきたい。

 

 

 いかがだろうか。語彙の豊富さや表現力も素晴らしく、もうこれを読んでいただいて今日のブログはお終いにしたいくらいだ。

 

 ベンチャーズの「急がば回れ」からの引用も指摘されていた。「♪ 二人だけ 白い部屋」からリフレインに戻る間のパッセージに、この曲の頭のギターソロのメロディーが引用されている。2004年のライブでお聴きいただこう。

 

 

 この「未来」は、1986年のコンサートツアーに際し、和田春彦さんのアレンジ、激光旋律団の演奏で生まれ変わっている(エジプトに於けるコンサートでも歌われ、音源が残っている)。そのことにも触れておきたい。このアレンジで注目したいのは、歌い出しからツーコーラスはオリジナルより半音下げ、その後のリフレインで突如半音上げてオリジナル・キーに戻しているところである。

 

 エジプトでのコンサートのCD・DVDでは、「聖母たちのララバイ」の最高音部に当たる「♪ 熱い胸に」でファルセットを使用していることが市販の音源で初めて確認できる。音域の変化を、ご自分も周囲も意識し始めた時期と言えるのではないか。

 

 「未来」は頭サビのリフレイン「♪ あゝ わーたしの未来は〜」の最高音と、「♪ 二人だけ 白い部屋ー」の最高音は、同じく上のD♭である。だが、前者は一瞬、後者はロングトーンである。キツいのは後者だ**。

 

 というわけで、半音下げたキーでロングトーンの負担を緩和し、最後のリフレインは元のキーに戻して一瞬の高音は頑張る。しかもその際、落ちサビ(伴奏の音を減らしてボーカルを引き立たせる)にすることで「攻め」のキーチェンジ、転調というプラスのイメージに聞こえる、出色のアレンジだと思うのだ。

 

 「未来」は、現在でもほぼ毎ツアーでメドレーに選曲され、盛り上がる楽曲である。だが、メドレー形式のオリジナルに近いキー、アレンジは宏美さんの負担が大きい。時にはキーを下げてアレンジも変え、バラードやワルツなど、ガラッとイメチェンした「未来」などいかがでしょうか。

 

(1976.5.1 シングル)

 

*仮名遣いはオリジナルの歌詞によった。

 

**90年代半ばのテレビ番組で、宏美さんは自らのヒットメドレーを歌った。その際、「未来」の「♪ あゝ 私の未来はあなたと同じ〜」の部分は地声で歌い切ったが、「♪ 二人だけ しろい部屋ー」だけはファルセットを(初めて?)使用した。歌唱後のインタビューで、「久しぶりに歌ったら、昔の曲がとてもキーが高く感じた。ちゃんと練習しないと歌えなくなっちゃうと思った」という趣旨のことを言っている。