今から43年前の今日、1978年11月5日。15thシングル「さよならの挽歌」が世に出た日である。作編曲は「シンデレラ・ハネムーン」に引き続いての筒美先生、そして作詞にはシングルとしては初めて阿木燿子さんが起用された。ご存知の通りこのコンビは、直前のオリジナル・アルバム『パンドラの小箱』に「媚薬」「パンドラの小箱」、そして翌年の『10カラット・ダイヤモンド』に「めぐり逢い伝説」「小夜曲」と、宏美さんに名曲を提供している。

 

 

 いつものように、榊ひろとさんの『筒美京平ヒットストーリー』から、「さよならの挽歌」に関する部分を抜き出してみよう。

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「シンデレラ・ハネムーン」はトップ10近くまで上昇するヒットとなり、今度は筒美京平を軸としてシングルが制作されていくことになった。阿木燿子を作詞に迎えた「さよならの挽歌」(78年11月)は、メロディーもコード進行も「サバの女王」を意識したもので、太田裕美の「九月の雨」からジュディ・オングの「魅せられて」に至るポール・モーリア路線の中間点に位置する作品と言えるだろう。元来グラシェラ・スサーナに近い声質と唱法を持つ岩崎宏美が、大人向けのポピュラー歌手を目指す過程においては必然的な方向であった。

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 「サバの女王(シバの女王)」(Ma reine de Saba,1967)のオリジナルは、チュニジア出身のミシェル・ローランが作詞・作曲・歌唱したもの。日本では「シバ」という表記が一般的だったが、日本発売の際、ミシェルのフランス語の発音に合わせ、このように表記したという。宏美さんの声質・唱法と類似点が認められるというグラシェラ・スサーナのバージョン、そして「九月の雨」「魅せられて」をご紹介しておこう。

 

 

 

 

 榊さんの指摘通り、流行に敏感な京平先生が、ポール・モーリアのサウンドを意識して書かれた数曲の流れがお解りいただけたと思う。ただ「さよならの挽歌」に関しては「サバの女王」とのコード進行との類似を言う際に、もう一つ触れておかねばならないだろう。

 

 それは、この拙ないブログでも何度かご紹介してきた4度進行である。「宏美さんの歌で分かる4度進行❣️」のブログでも、この「さよならの挽歌」を取り上げた通り、Aパートの後半は一巡する完全な4度進行である。「サバの女王」も一巡こそしないが4度進行を使用しており、類似は当然であろう。

 

 阿木燿子ワールドが展開する歌詞にも注目してみよう。前サビの「♪ Kill me love me」が、若いピュアな女性らしい心情をストレートに表していて、インパクト抜群である。奥村チヨさんの「中途半端はやめて」ではないが、「♪どっちかはっきりさせて 好きなの嫌いなの」という訳である。

 

 阿木さんは、数多の作品で様々なタイプの女性像を描き分けるが、どのヒロインにもリアリティがあると感じる。直前のアルバム『パンドラの小箱』オープナーの「媚薬」に登場するのは、自らの不実を許せない主人公。山口百恵さんの「プレイバック part 2」では、突っ張って見せてはいても本当は淋しがり屋の女性。

 

 この「さよならの挽歌」は、宏美さんがスタンドマイクを使用し、大きな振り付けで歌唱した、ということでもわれわれファンの記憶に残っている。Bメロの「♪ このままじゃいやだわ〜」は、それまでの16ビート感が薄れ、ツーフォーのリズムが強調される。そのリズムに合わせた振りも印象的だ。その後「万華鏡」「摩天楼」と、秋にはスタンドマイクの曲が続くことになる。

 

 

 この曲は、残念ながら近年はステージで歌唱されたのを見た記憶*がほとんどない。😭だが当時は、私もファンになって行ったコンサートでは2度目(1980年4月)に聴くことができたし、78年リサイタル、80年の日フィルとのジョイントと、ライブ音源も残っているのが嬉しい。

 

 『ふたりのための愛の詩集』(1978)のライブバージョンは、スタジオ音源よりもテンポも速めな上、リズムセクションに疾走感があり、スリリングな演奏になっている。しかも、当時の最新曲ということもあって会場の声援もひときわ高い。それに乗せられてか、宏美さんもライブならではのグルーヴ感のある歌唱である。

 

 最後半音上がった後のリフレインでは、皆様よくご存知の通り、宏美さんは繰り返しを間違えて「♪ 愛して欲しい」を続けて2度歌ってしまう。ラストだと思って「♪ とどめを刺してーー」と気持ちよく伸ばしていると、伴奏は鳴り止まずにリフレインを繰り返す。宏美さんはハタ、と気づくも「♪ Kill me love me」は間に合わず、「♪ いっそひとおもいに〜」から、苦笑いを噛み殺すような雰囲気で歌い出すのだ。

 

 私はこのシーンが大好きだ。当時はまだリサイタルのビデオもなく、音源から想像するのみなのだが、「仕事の中でコンサートが一番好き」と言い切っていた宏美さんが、生き生きと歌い上げる姿が、目に浮かぶような気がする。

 

 また、日フィルを従えての服部克久先生のオーケストラバージョンも聴きごたえがある。ストリングスはもちろん、トロンボーンやピッコロ、オーボエ、そして迫力のあるティンパニなど、フルオーケストラならではのサウンドだ。

 

 そしてそれに全く引けを取らない宏美さんの堂々たる歌いっぷりはどうだろう。リリースから僅か1年ちょっとの間にグンと艶を増した歌声。高熱を押してのステージだったというが、まさに神がかっている。

 

 

 先月京平先生の一周忌が過ぎた。宏美さんが歌った京平ソングが、いろいろなシーンで再びスポットを浴びているのは嬉しい。だがこの曲は、若干陰に隠れたままの気がする。宏美さん、次回ツアーのメドレーには是非!「さよならの挽歌」入れてください❣️ファン一同、号泣必至です。

 

(1978.11.5 シングル)

 

*【追記 2024.4.2】調べもので昔の日記を見ていたら、2007年のツアー『Life+』でフルコーラスで歌われていたことが判明。パンフレットでも確認済み。失念していて失礼しました。🙇‍♂️