私がこのブログを書き始めて3ヶ月が過ぎた。当初、このようなブログを読んでくださる方がいらっしゃるのかもわからず、大変不安だった。それに、ひと口に宏美さんのファンと言っても、デビュー当時以来の熱烈なファンから、最近ちょっと聴くようになった方、『Dear Friends』のようなカバーアルバムで初めてCDを手に取った方、コンサートに足繁く通った方などいろいろいらっしゃるだろう。というわけで、私は日々の選曲で気を配ったのは、①この45年間のある時期に偏らないよう、②オリジナル、カバー、ライブなどもバランス良く、③時折りアクセントとしてシングル曲を取り上げる、ということであった。

 

 昨日の「ジェシカ」で、基本的にひと通り全てのアルバムから1曲ずつは取り上げたつもりである。一周回って振り出しに戻る=FULL CIRCLE である。😊

 

 で、ここは一発パンチの効いた選曲を、ということで迷わず選んだのがこの「シンデレラ・ハネムーン」である。この曲は、セールス的に言えば、歴代シングルの中で18位とそれほど目立った大ヒットではない。しかし、全世代的な認知度という点では、「ロマンス」「思秋期」「聖母たちのララバイ」を抑えてトップなのではないか。うちの娘や息子もカラオケで歌うと言っていた。先般も取り上げた臼井孝氏の「渋谷のザ・ベストテン」でも第8位、40周年のファン投票(3大ヒット曲を除く)では「すみれ色の涙」に次いで堂々第2位にランクインしていた。

 

 もちろん、コロッケや高橋真麻さんに取り上げられた、ということも大きいに違いない。しかし、それも元を辿ればこの「シンデレラ・ハネムーン」という楽曲のインパクトの強さと共に完成度の高さ、或いはそれを歌唱した宏美さんの魅力に帰すべきだと思うのである。

 

 筒美先生の作品ではいつもお世話になる、榊ひろとさんの言葉を、また引用させていただこう。

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(前略)78年7月の14枚目のシングル「シンデレラ・ハネムーン」で、約1年半ぶりに阿久=筒美コンビが復活することになった。当時は映画「サタデイ・ナイト・フィーヴァー」の公開もあって、世界的なディスコ・ブームが到来しており、この曲も同時期の桜田淳子による「リップスティック」(78年6月)と並んで筒美京平流のディスコ・サウンドが頂点を極めた作品となった。イントロにはドナ・サマーの「ワンス・アポン・ア・タイム」、間奏のリフとリフレイン(“私はひとり…”)のメロディーはヴィレッジ・ピープルの「サンフランシスコ」を引用するなど、ゴージャスかつハードなサウンドに仕上がっている。(後略)

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 引用している2曲をご存知ない方は、まずお聴きいただこう。

 

 

 

 いかがでしたか。明らかな引用がお分かりになったことと思う。いつもながら、ただのパクリではなく、引用してより優れた作品に昇華させていくのがさすが筒美先生である。

 

 また、この曲はそのサウンドと激しい振り付けに気を取られてしまいがちだが、阿久先生の詞も深い。以前「マチネへの招待」との類似を指摘した。やるせない目、ルージュもいつか乾いた色、重ねたくちびるがつめたくなって、せつなさなんか教えてくれる、重いためいき、等々ハネムーンというタイトルとは裏腹な言葉が並ぶ。マリッジブルーではないかとか、不倫の歌ではないか、などという説も聞かれた。確かに不倫の歌と考えると合点がいくことも多いが、阿久先生がまだ十代の宏美さんに不倫の歌を書いたとも思えない。皆さんはどのように思って聴いていらっしゃるのだろうか。

 

 私はこの「シンデレラ・ハネムーン」をリアルタイムで聴いていない。そして、以前「コパカバーナ」の折りに触れたように、シングル盤よりも先にライブ盤のバージョンに親しんだのだ。そう、あのドラムソロから始まり、そこに手拍子が重なる。トランペットの2拍3連の音が鳴り響き、ベースが半音階的に上昇するような、あのエキゾチックなイントロロングバージョンである。コンサートならではの熱狂的な雰囲気の中、若き日の宏美さんの初々しくもエネルギッシュかつスキルフルな歌唱が爆発する。

 

 何度聴いても唸ってしまうのが、「♪ 好みの煙草 あと一本にな」や「♪ シャンプーした髪を 夜風にさら」の語尾の「り」や「し」の歌い方である。音は短いが上下幅の広いビブラートをかけており、しかも音の中心は正確なピッチよりもやや上に設定して何とも言えない余韻を残す。なかなか真似のできない芸当である。また、サビの一番音域の高い部分の歌詞の3番が、♪ しあわせだから、と a の母音が続くようになっていて、私の好きな“宏美節”とも言うべき歌い方が飛び出すのだ。

 

 

 その後シングル盤を買った時は、驚くと同時に物足りなさを感じたほどだ。イントロは短いし、テンポもやや抑えめでライブバージョンに比べると疾走感もなく落ち着いてしまっている、と思えた。宏美さんのボーカルも丁寧ではあるが、ライブの迸るようなパワーはない。しかし、どなたかも書かれていた通り、長くつき合うのはやはりシングルバージョンに限る。キッチリとサウンドが作り込まれ、ボーカルもベストテイクであるはずだからだ。

 

 

 とまれ、この歌がこんなにも長い間人々に愛され、人々の記憶に残り、そして歌い継がれるとは、宏美さんご自身も思ってもいらっしゃらなかったのではないか。これからもスタンダードとして残っていって欲しい名曲である。そしてもちろん、まだまだ本家の宏美さんにも、ファンの目に馴染んだオーバーアクションの振り付けと共にステージを賑わせ続けていってほしいと願っている。

 

 

(1978.7.25 シングル)