『バラード ベスト コレクション 夢』のボーナストラックとして収録された未発表曲である。このアルバムは、「バラード」と銘打っている通り、デビュー当時立て続けに大ヒットとなったディスコ風ポップスたちは収録されていない。発売当時、この一風変わったベスト盤について、私がAmazonのレビューを書いていたのが見つかったので、そっくりそのまま引用してみる。

 

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 ミディアムからスローなナンバーを中心にセレクトした岩崎宏美の最新ベスト盤。後半にアルバムから何曲か珍しい曲が収録されており、ファンにも嬉しい。現在テイチク社長(※肩書きは当時)の飯田久彦氏とのデュエット曲である「My darling」、近年コンサートツアーのアンコールで歌われた「二人をすべて」、そしてポリープで声が出ない時に、治ったら真っ先に歌いたいと思ったという「真珠貝の歌」。さらに情感たっぷりに歌う未発表曲「ジェシカ」まで入って、満足できる1枚となっている。

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 にしても、このベストは何が売りだったのだろう。ビクター時代のシングルはすでに3枚組のコンプリートシングルズが出ているし、アルバム曲の初CD化は「My darling」のみ。当時、オリジナルアルバムが長らく出なかった時期なので、やはりこの「ジェシカ」目当てで買ったファンが多かったかもしれない。また、今になってみると、スクラッチノイズ論争のあった「あとかたもなく」のシングル・バージョンが収録されていることも貴重である(30周年のBOX、40周年のシングル・コレクション共、元々のオリジナル・バージョンが採用されている)。

 

 さて、この「ジェシカ」である。作家陣も作詞:山田ひろし、作曲:松本俊明と、新風を吹き込んでくれている。宏美さんがライナーノーツに書かれているように、聴いていると目の前に洋画のシーンが一つひとつ浮かぶようだ。「ジェシカ」の友人らしい第三者の視点から描かれているのも、そのような印象を強くしている要因かも知れない。

 

 ひとり暮らしのジェシカ。長年連れ添った夫とは死別だろうか。「椅子は五つある」というから、海を越えていった子どもは3人いたのだろうか。想い出と生きるジェシカは「とてもしあわせ」だと言う。彼女の愛は永遠に枯れない花束のようだ、と曲を閉じる。主人公ジェシカを演ずるのは、宏美さんの選ではメリル・ストリープである。

 

 

 曲構成は、Aメロ-ブリッジ-サビ を2コーラス、「♪ しあわせのかたち〜」の大サビの後、「♪ ジェシカ 帰ってくるわ〜」とサビを繰り返して終わる。萩田光雄先生のアレンジも控えめだが洒落ている。特にベース(渡辺直樹さん)のリズムと、哀愁漂うギター(古川望さん)が印象的である。語るような宏美さんのボーカルだが、サビや大サビでは感情の盛り上がりを率直に表現している。

 

 

 このアルバムがリリースされて間もなくの年の瀬、私は妻、4歳の娘、そしてまだ1歳にもならない息子を連れて、グァム島に旅行をした。4人家族時代の楽しい幕開けであった。現在まだ子どもは2人とも家にいるが、遠からず出ていくのだろう。それでも、「ジェシカ」のように、いつも「とてもしあわせ」だと言えるようでありたい。

 

(2001.12.5 アルバム『バラード ベスト コレクション 夢』収録)