いわゆる家族愛3部作のラストを飾る『きょうだい』に収められている。前2作のアルバムはやや格調高い感があったが、今作はよりポップで、バラエティに富んでおり、親しみやすい作りになっている。きょうだいがテーマということもあり、子ども目線の曲が増えたせいもあるのか。

 

 その中で、この「真珠貝の歌」は、一風変わった視点から歌われている。「母、妻、娘」としてではなく、「女性、歌い手」としての宏美さんの気持ちを、岩谷時子さんは書かれているのだ。

 

♪ 歌は私の道 歌は私の恋

 いつも流れるまま 歌だけはわすれはしない〜

 

♪ 女だから 生きてるから

 私は ただ歌いつづける〜

 

など、今聴くと、宏美さんの歌手としての本格的活動再開予告宣言のように聞こえてならない。

 

 曲は、この3作のシリーズを通して編曲を務めている樋口康雄さんの作曲で、雰囲気のあるワルツに仕上がっている。楽器数は少なく、ハープやクラリネット、ストリングス中心の控えめなアレンジである。

 

 宏美さんがこの歌を大切にしていらっしゃることも間違いない。NHKの番組で披露されたのを見たことがあるし、『バラード・ベスト・コレクション 夢』『30TH ANNIVERSARY BOX』『岩崎宏美 ゴールデン⭐︎ベストⅡ』にも収められている。

 

 30周年ボックスのブックレットの中で、宏美さん自身が以下のように述べている。

「(前略)岩谷先生が当時の私をどういう風に見てくださったのかこの歌を通して感じた時には、とてつもなく愛おしくなって言葉を失いました。私はこんなステキな歌を書いてもらっていたのに、ちゃんと真正面で受け止められなかった当時の自分が悔しいです。」

 

 

 かくいう私も、はじめアルバムを聴いたときはそれほど印象に強く残った曲ではなかった。テレビで宏美さんが歌われたのを聴いて、俄然この曲の素晴らしさに気づき、大好きになったのだ。

 

 そして、ポリープの手術から復帰した2002年2月11日のオーチャードホールに於けるコンサートで、この「真珠貝の歌」は歌われたのだ。2人のお子さんを手放さざるを得なくなった後、本格的に活動を開始されたものの、声帯ポリープのため休業・手術を余儀なくされた宏美さん。さまざまな苦難を乗り越えて、彼女は歌い続けるーーその固い決意が、歌声からひしひしと伝わってきた。

 

 オーチャードのコンサートでは、キーが1音半も低く設定されていた(Fマイナー➡️Dマイナー)。私は、オリジナルの天上から夢見るように響くファルセットが好きだったので、低・中音域で地声で歌ったこの時の歌には、若干不満が残った。あのファルセットが聴きたかったのに。

 

 ところが、このブログを書くに当たって、実に久しぶりにオーチャードホールのビデオを見直してみた。そうしたら、とても素晴らしかったのだ。宏美さんが言われている通り、レコーディング当時気づかなかったこの歌詞の本当の意味を噛みしめながら歌う宏美さんがいた。低音域で、語るように歌う宏美さん。改めて、素晴らしい歌を歌い続けてくださる宏美さんに感謝の気持ちでいっぱいである。

 

(1992.6.21 アルバム『きょうだい』収録)