今から37年前の今日、1984年5月21日。岩崎宏美のデビュー10周年記念シングル「未完の肖像」が発売された。作家陣は、デビュー曲の「二重唱」と同じ阿久悠・筒美京平・萩田光雄のトリオだった。

 

 阿久先生渾身の書き下ろしによる詞は、歌手・岩崎宏美の来し方行く末を5分間に凝縮した、壮大なドラマである。事務所を独立する3月半前ということで、当然その辺りの事情も知らされていたのではないか。宏美さんの独立を知ってから聴き直すと、新たな感慨が湧き起こるのである。

 

 

 記念シングル、まして独立を視野に入れた作品ということで、宏美さんサイドの力の入りようがすごい。ファンクラブ会報(『ひろりん村の回覧板』第1号)から引用しよう。

 

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今回のレコーディングで宏美は、昼1時から始まり朝6時まで行われたトラック・ダウン(コーラス、音調整)カセットコピー、カラオケなどに立ち会った。「あんなに遅くまで仕事をしたのは、初めてでした。この曲は、恋愛のイメージではなく自分自身を、ふり返っているという意味では、とても幅の広い曲です。大切にうたって行きます。」

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 この曲の魅力については、ちょうど1年前、つまり昨年の発売記念日に、音楽マーケッターであり、宏美さんの紙ジャケシリーズ仕掛け人でもある臼井孝氏が、「未完の肖像」大推薦、激賞に終始した説得力抜群の記事をアップされている。現在でも読むことができるので、まずはそちらをご参照いただきたい。

 

 

 プロの目からの、そして一宏美ファンとしての視点も加わった素晴らしい評論だ。この記事を読んでいただいて、今日のブログは終わりにしたいくらい。だがそうもいかないので、臼井さんが触れなかった部分や、私の想い等を若干付け加えさせていただこう。

 

 まずは、臼井さんが記事の中でAメロ、Bメロ、サビ等に分けて述べておられるのに従って、この曲の構成を概観しよう。キーはCマイナー、Vがバース(前歌)、サビに当たるのはDパートである。

 

V:誰でも一つだけは 物語が書けますね〜

A:人に会い また別れ〜

B:見慣れた筈の 景色も変り〜

C:今であるなら もっと心に〜

D:だけどそれも 今思うだけで〜

(間奏)

B後半-C-D

E:いつの日か あなた〜

C後半-D

 

 バースは、イントロなし、かつ無伴奏(『MY GRATITUDE-感謝-+8』に収録されているカラオケでは、ビブラホンによるガイドが入っているが、シングルではそれは省かれている)で歌い出される。「♪ 自分を見つめてれば〜」からバックが入って来るが、まだリズムレスで、短い間に転調を重ねる。「♪ マーイ、ストー、リー!」(右手を前に突き出す振り付け、思い出します😊)でドミナント・キーのGマイナーに着地するのかと思いきや、元のキーのドミナント・コードであるG7が、華やかなブラスとストリングスを伴って、16ビートフィールで高らかに鳴り響き、いよいよ本編の幕を開けるのだ(萩田先生のアレンジ、大好き❣️)。

 

 そしてノッケからEVEの力強いバッキング・ボーカルが入って来て、聴く者に息つく暇を与えない。Aメロから勢いがあるのも当然、AメロはサビのDメロと表裏一体になっている。コード進行、「♪ Endless time ! Endless night ! Endless love !」のコーラス、バックの演奏はA・Dほぼ共通なのだ。メロディーのみが入れ替わる筒美・萩田両先生の心憎いまでのメロディー&サウンドメイクである。

 

 ここから先は臼井氏の記事に譲ろう。フルスロットル、ハイスペック、前菜にうな重、スペクタクル、ゴージャスと、臼井氏の言葉の選び方には脱帽である。

 

 私個人も「未完の肖像」は、芸映時代の10年間を総括するに相応しい楽曲と考えている。当時の宏美さんのレンジの広さ、どこまでも伸びる声を生かし切ったスケールの大きさが何とも言えない。私の周囲の若い宏美ファン(20〜30代)の連中も、「未完の肖像」が大好きである。😍

 

 

 制作側がもしこの曲を、一般のリスナーをも巻き込んでのヒットをも狙っていたのだとしたら、それは失敗に終わったと言わざるを得ないだろう。当時のテレビ番組では、この長さ(約4分50秒)の楽曲はフルコーラスの披露は難しい。実際『夜のヒットスタジオ』でこの歌を二度歌っているが、いずれも一部カットされている。臼井氏も指摘した通り、「息をつくことも、共感している余裕もなく」通り過ぎてゆき、増してショートバージョンなど、10周年記念曲ということも知らぬ一般リスナーにとっては、「何なの、この大袈裟な曲は?」というのが最も自然なリアクションであろう。😂

 

 だが、逆に制作サイドも開き直って、「今の岩崎宏美の持てる力を遺憾なく発揮できるようなスケールの大きい曲を、10年間の集大成として出そうじゃないか。セールスなんて度外視。ファンの間で、いつまでも語り継がれる名曲を作ろうじゃないか!」ということであったのなら、これは大成功である。

 

 10周年記念のこの歌のタイトル、テーマに関わる歌詞の重要な部分がある。

 

♪ 未完のままで 書きつづけたら

 どんなに素敵な 人生でしょう

 

 オリジナルではないが、35周年のコンサートで歌われた「虹〜Singer〜」にも似た表現がある。

 

♪ 私はまだ

 旅の途中

 

 「岩崎宏美」という作品は常に「未完の肖像」であり続け、彼女の旅は決して終わることがないのだ。

 

 この歌で、私が一番好きな部分がある。ビートが一旦止まって新しいメロディーが現れるEパートだ。

 

♪ いつの日か あなた

 いい女だねと 云ってね

 

 幾多の苦難を乗り越え、今なお成長・進化を続ける宏美さん。「未完の肖像」を地で行く宏美さんに、誰もが「すっかりいい女になったね」と声をかけることであろう。🥰

 

(1984.5.21 シングル)