今までブログの中で、何の断りもなくトニックやらドミナントやらと言った音楽用語を使ってきた。小難しい楽典と思われて敬遠されてしまった方も少なからずいらっしゃると思う。反省である。私と近い世代だと、中学校の音楽の時間に意味も解らずⅠ、Ⅳ、Ⅴ7とか教わり、この小節に合う和音はどれか?などという問題を出され、嫌いになった記憶のある方もいらっしゃるだろう。私自身もそうであった。それが、コード進行等を面白く感じるようになったのは、指揮者の田久保裕一先生のお話を聞くようになってからなのだ。

 

 1982年、宏美さんのコンサートツアーで「あいつとギター」という曲目があったことをご記憶の方もあろう。C,F,Gのスリーコードだけで演奏でき、客席から素人ギタリストを舞台に上げる、という演出だった曲だ。そのCメジャー(ハ長調)で言えば、C(ドミソ)がトニック(Ⅰ)、F(ファラド)がサブドミナント(Ⅳ)、G(ソシレ)(厳密にはG7=ソシレファ)がドミナント(Ⅴ7)である。そのスリーコードの役割について、田久保先生の言葉をお借りしつつ、宏美さんのヒット曲を例に挙げ、解りやすく説明することを試みたい、と思っている。

(※マイナーのスリーコードについては添付画像参照)

 

 

 トニックは、安定感抜群で、聴いて安心する(弛緩する)コードである。「とにかく、曲の最後はドミソ!」みたいに、中学の音楽の先生から乱暴に教わったかもしれない。田久保先生のお言葉を借りると、「音楽とは、極論するとトニックに戻ろう、戻ろうとする音の旅である」ということになる。いろいろな緊張感のあるコードを経由して、最後にトニックに戻った時に、聴く人はカタルシスを感じるのである。

 

 ドミナントは、逆に緊張感の高いコードで、「演歌歌手が拳を握って粘る所は必ずドミナント」というのが田久保先生の説明である。緊張感が高いので、聴いている人は次にトニックに解決することを知らぬ間に欲するのだ。モーツァルトくらいの時代までは、ドミナントの次はトニックでないと違反だったらしい。現代の歌謡ポップスでも、ドミナントの次は8割方トニックが来る。解りやすい例を、いくつか挙げてみよう。

 

 津軽海峡・冬景色 ♪ あぁ〜津軽海峡〜冬げ〜しき〜

 おふくろさん ♪ あなたのあなたのしんじつ〜忘れは〜しない〜

 風は秋色 ♪ Oh ミルキィ・スマイル 抱〜き〜し〜めて〜 柔〜らかな〜そのあい〜で〜

 

 太字・下線の部分がドミナント、その後はもちろんトニックである。是非拳を握って力を込め、粘りに粘って歌ってみていただきたい。曲終わりなどの場合、伴奏のリズムが止まったり、キメのリズムが入ったりすることが多い。今度は宏美さんのヒット曲で見てみよう。

 

 センチメンタル ♪ そんな気分よ〜 17才

 想い出の樹の下で ♪ 奇跡のようにこの丘で〜逢いましょう〜

 思秋期 ♪ 笑い転げたあれこれ 思う〜あき〜の日〜

 万華鏡 ♪ みるみるうちにこの通りは河になるわ〜思いは乱れて〜

 聖母たちのララバイ ♪ 小さな子どもの昔に帰って 熱いむねに〜甘えて〜

 

 何となくドミナントがお解りいただけただろうか。

 

 最後にサブドミナントである。田久保先生曰く、「明るさと広がりを持った和音で、場面転換によく使われる」。歌謡ポップスではBメロ頭に使われることが多い。まず解りやすい有名曲から。同じく太字・下線がサブドミナントである。

 

 卒業写真 ♪ 人ごみ〜に流されて〜

 いい日旅立ち ♪ ああ〜日本のどこかに〜

 恋するフォーチュンクッキー ♪ カフェテリアな〜がれるMusic

 

 どうだろうか。場面転換、雰囲気が変わるのはお感じいただけるのではないだろうか。では、宏美さんのヒット曲から。

 

 ファンタジー ♪ あ〜れは〜ふた月〜前の 日暮れ〜どきだった〜

 悲恋白書 ♪ こんなにも〜こんなにも〜悲しむなんて〜

 さよならの挽歌 ♪ このまま〜じゃイヤだわ〜 会ってる〜だ〜け〜じゃ〜

 夏に抱かれて ♪ 海小屋〜借りたの〜 古びたい〜え〜な〜の〜

 れんげ草の恋 ♪ 薄紫〜の〜れんげ草が〜 夕闇に紛れるように〜

 

 少しでもお解りいただけたらとても嬉しく思う。曲を聴く楽しみが少しでも広がったら、それは望外の喜びだ。とまぁ、ここまでこれだけ説明してきて、こう言っては元も子もないが、宏美さんの素晴らしさを感じるためには、こんな理屈は全く必要ないのだが。😜💦

 

【2020.8.14 訂正】Aマイナーのスリーコード、トニック・マイナーのコードネームが、Emとなっておりました。もちろん、正しくはAmです。長らく気づかず申し訳ありませんでした。